第160話 戦車砲VS古代遺跡

 デュークたちを乗せた戦車が、下向きの勾配があるトンネルの中を進んでいました。


「目的地は、この先ですね。しかしこのトンネルって、なんというか……」


「ああ、俺たちが作ったものではないのだ。ここも遺跡の一部だそうだ」


 トンネルの壁面は、岩石のようでしたが、なにか強い温度で溶けてガラス化していました。コング大尉は、調査段階の初期に発見されたもので、移動するのに都合が良いのでそのまま使っていると説明しました。


「へぇ……あ、行き止まりだ」


 数分もすると、トンネルの傾斜がなくなります。そして戦車の進む方向に、大きな金属の扉と、陸戦隊がよく使っている高機動車が見えてきました。


「実験隊が設置した防護扉さ。よし、そこで停止――――おおぃ、なにか変わりはなかったか?」


 コング大尉は、扉の前にいる高機動車の銃座に乗った陸戦隊員へ向けさっと手を振って尋ねます。


「ああ、大尉――虫けらが数匹迷い込んできたくらいですな」


 パワードアーマーを着込んだ陸戦隊員は、トンネルの端に寄せた害獣の亡骸を顎で示しました。


「まったく、どこから潜り込んでくるやら…………まぁそれはそれとして、早く中へ入ってください」


 陸戦隊員はそう言うと、手元の端末を操作しました。すると扉に取り付けられた油圧式の装置が稼働を始め、ズゴゴゴと軋みながら開いてゆくのです。


 フィィィィィとしたエンジン音を響かせ、戦車は扉をくぐり抜けます。


「トンネルの先は――大空洞かぁ。ここも人工的だなぁ」


 扉の先には、地下には、それなりの大きさを持った空洞がありました。その壁面はトンネルと同じように、溶けた岩石質のものでした。


 天井や側面の各所には照明機器がいくつも取り付けられて明かりが確保されています。その下には実験隊のものと思われる施設がいくつも設置されていました。


「あそこが遺跡かな?」


 その中心には、なにやら黒々としたものが鎮座しています。デュークはそこに向けて、視覚素子のピントを合わせました。


「うわぁ、真っ黒だなぁ――――!」


 デュークは、地面から生えている大きな物体を眺めて驚きの声を上げました。彼の視覚素子は、かなり幅広い波長の電磁波――可視光線はもとより、紫外線からマイクロ波を検知することができるのに、何らの反射もなかったのです。


「あらゆる波長の電磁波を吸収しているらしい。黒体、完全放射体と言われているものだな。回りのものがなければ、そこに有ることすら感知できない」


「似たような物質が縮退炉のブランケットに使われているけれど、とても高いものなのよぉ」


 ワインダー少尉がそう言うので、デュークは「ボクの心臓もこんな感じなのかなぁ?」などと思いました。


「でも、あれって、箱じゃなくって、三角錐ですよねぇ」


「ああ、あの映像な。あれは殆どが下の方に埋まっているのだ」


 コング大尉は、フライヤーの中で見せた黒い箱は、超音波探知で全容を推測したものだというのです。


 そうこうしていると、戦車に「さっさと始めてくれ」と無線が入ります。それは実験施設――強化デュラスチールで出来た箱の中から送信されたようです。


「あそこだな」


 黒い物体に続く床には、赤色灯が並べられています。それは200メートルほどの直線を描き、戦車の停止位置を指定していました。


「デューク、あそこに狙いをつけろ」


 戦車が停止すると、コング大尉は完全な黒体の表面に浮かぶ赤い○のマークを示しました。それはあとから赤い塗料で塗られたらしく、そこだけはたしかにハッキリと見えるのです。


「よいしょっと」


 デュークは車長席に備わったモニターから、その赤い○を見つめます。すると戦車おチビちゃんは、砲塔と一体化した長い鼻を動かして狙いをつけました。


「エンジン出力正常、電力蓄積開始」


 ワインダー少尉が疑似縮退炉の出力を上げ、砲塔下にある超電導コンデンサに流し始めます。


「よし、規定容量100メガワットに達した。砲身冷却も問題ない。自動装填――完了。射撃準備良し!」


「打ち方――――…………あのぅ、本当に撃つのですか?」


 射撃準備が整ったところで、デュークはチョットした戸惑いを感じました。射撃の的に、遺跡を撃つ――なんだか変な感じだったからです。


「実験の一部だからな。まぁ、戦車砲を撃つのではなく、トンカチで釘でも撃つように気軽にやれ」


「それもちょっと、どうかと思うけれど……まぁいいや。じゃ、撃ちますよぉ」


 デュークは、席の脇にある射撃レバーを引きながら、「実験射――――ファイアッ!」と言いました。すると、溜め込まれた電力が戦車の砲身に伝達されます。


 砲身内には十分に冷却された二本の超電導レールが伸び、間には常温超電導物質で出来た伝導体が収められて、一つの電気回路になっていました。そこに電流が走ると、見ることの出来ないフィールド――電磁気場が発生するのです。


 磁界の中で動く電気には、右ねじの法則に従った力が働きます。レールの間に入った伝導体は前へ前へと押し出されました。加速する伝導体は、その頭に乗せた物質――超高圧力によって焼結された弾頭を巻き込んで進むのです。


 ズギャァァァァァァン! 


 弾頭は戦車おチビちゃんの長い鼻から音速の七倍で放たれ――


「あッ――――!」


 ――遺跡の内部の空気の中を切り裂き、間もおかずに黒い物体に激突し、ゴバン! と破裂したのです。


「命中したけど、効果がなさそうですねぇ。随分と硬い素材でできているんだなぁ」


 続けて射撃した戦車砲弾も、全て黒い物体にぶつかると、バシン! と弾けます。


「効果があるのかなぁ?」


「おぃ、一旦、実験は中止、だそうだ。効果測定を始めるらしい」


 実験部隊から無線を受けとったコング大尉は、「それじゃ、俺たちもアイツを見に行ってみよう」と言いだしました。


 デュークは「よいしょっ」と、ハッチから身を乗り出し、フワリと浮かんでスルスルと黒い物体の方に近づきます。


「ん……これは戦車砲弾の破片かな?」


 数十メートルほどまでに寄ってみると、キラキラとした金属の破片が地面に突き刺さっているのがわかります。


「ああ、完全に砕け散っているな。ということは――」


 コング大尉は、黒い物体のすぐそばで作業をしている防護服を着た作業員の方を見ます。彼らは、黒体の表面を手で触って何かを探っていましたが、すぐに腕を✕の形にクロスさせました。


「――駄目だったみたいだな」


「へぇ、遺跡って頑丈なんだなぁ。どういう技術で作られているんだろう?」


 デュークは、電磁加速された戦車砲弾を弾いた黒い物体を眺め、凄いものだなぁと目を丸くしたのです。

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