第317話 実習先

「実習だ!」


 士官候補生が集う集会場にスイキーが「俺たちの実習先がきまったぜぇぇぇぇっ!」と叫びながら飛び込んできました。その後からはエクセレーネが「うるさいこと……」と苦笑いしながら続いています。


「今しがたリリィ教官から発令を受けたんだ!」


 中央士官学校では、年の半分ほどを実習と称した実地試験に充てることになっています。


「確かスイキーは、メカロニア戦線に派遣されたのがそれだったって言ってたよね。二回目なのになんでそんなに嬉し気なの?」


「そいつは、こいつがマジモンの実習だからだ! 親の七光りも――――! コネも糞もねぇ――――! 本当の実習なんだぁああぁぁあぁっ!」


 スイキーは一回生の時分、父親であるペンギン皇帝――現役執政官の命令により、ペンギン帝国派遣の士官候補生として実習を受けていました。でも、彼はそれを本当の実習だとは思っていないようです。


「そらそうだろ、本国星系軍のベテラン、種族の力でかき集めた万の傭兵、そして尽きることのない潤沢な資金……親の七光りがビシバシ光る戦だぜ。あんなもん実習だなんて嘘だ!」


「ま、ちょっとした笑い話になってたわねぇ」


 エクセレーネが一年ほど前の状況を苦笑いしながら説明するところによると、トリの皇子様が慌てて駆け出していった光景を眺めていた中央士官学校生徒たちは――


「皇帝様の一人息子――あのトリ頭が箔付けのために艦隊を任されるみたいだ。すでに根幹戦力として星系本領軍から2000隻が進発したそうだ」

「うっへ、あそこの装備は共生宇宙軍の正規軍並みなんだぜ。それに星系軍の首脳部は元は共生宇宙軍の将官連中だろ」

「未確認情報だが、種族旗艦まで投入されたって話だぞ。たしか重ガンマ線レーザーキャノンを多連装にした化け物艦だったな」

「トリども、ありったけの傭兵組織に声かけしているみたいだ。傭兵企業の株が上がりっぱなしだ」

「さすがは飛べないトリ族、主要12種族様の中でも財力が段違いだな」


 などと、スイキーが種族の最高戦力と潤沢な資金をバックにした艦隊を任されたお飾り将軍になるのだと生暖かい笑みを浮かべたということです。


「ほれみろ、やっぱ親の七光りだって思われてたんだぜ。クワァ恥ぃ!」


「でも、スイキーのアレはお飾りでもなんでもなかったような気がするけれど?」


 デュークは現地でのスイキーを見ているのですが、それは指揮官としてかなり立派な振る舞いでした。そしてペンギン星系軍が抑えに入った時点でメカロニアの侵攻はほぼ封じられた状態になったのですから、それは大変に意味のある事だと思ってもいます。


「そらそうだ、トリのジジィどもから、ああしなさい皇子、こうしなさい皇子、ダメです皇子! って、小突かれながら、必死に役目を果たしていたんだ。我ながら、良くもまぁやり切れたと思うぜ」


 スイキーは当時を思い出しながら「そもそもあの規模の指揮官を士官候補生がやっていいことじゃねぇ! 俺は星系軍でだって少佐にすぎなかったんだぞ!」と咆哮しました。


「大変だったみたいねぇ。トリの皇子様で、中央士官学校士官候補生、それに加えて次期執政官候補として振る舞うなんて、ストレスの極致だわ」


 平均以上の想像力を持つエクセレーネもそのあたりの状況を理解していました。彼の置かれた状況は確かに親の七光りなのかもしれませんが、それを妬ましいなどと思う者は中央士官学校の生徒にはいないのです。


「ああ、思わずゲロしそうなストレスだったぜ……」


 彼に与えられた実習は実のところあまりにも大きなストレスがかかる物でした。「時々、宇宙戦闘機のコクピットに潜り込んで……まぁなんだ、ゲロ袋のお世話になったもんだ」と、当時を思い起こして薄っすらとした涙目を見せるほどです。


「トリもゲロするんだね~~!」


「大の大人が情けないわねぇ」


 スイキーの苦労話を傍から眺めていたナワリン達がそんなことを言うものですから、デュークは「君たちだって食べ過ぎでドラゴンブレスマーライオンしてたって話じゃないか」と漏らします。


「あんた、なんでそれを知ってるのよ!?」


「ど、どこでそれを~~⁈」


「リリィ教官から教えて貰ったんだ。ラスカー大佐から聞いたんだって」


 デュークがそんなことを言うものですから、ナワリン達は「くっ、あのアライグマめ! 言わんでいいことを!」とか「末代までの恥だぁ~~~~!」と騒ぎます。


「まぁまぁ……。それでスイキー、実習は僕らも参加するのでしょ。実習先はどこになるのかな?」


「ああ、それな。いたって普通の、平均的で、一般的な、実習だ。場所はデューク達も行ったことがあるところだぜ。初任地があそこだって言ってたろ?」


「初任地……あ、もしかして実習先って辺境か!」


 デュークは一番最初の任地のことを思い出したのです。

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