第169話 最大の戦果

「船団、前進を再開」


 カークライト船団長は、船団に前進を命じました。


 ”ま、ま、待てっ”


 船団に命じ前進を始めたので、トピア星系軍の指揮官アルヒルヘルムは上ずった声で静止し、艦隊を動かそうとするのですが――


「繰り返す、自由航行権を行使する」


 ――カークライト船長ははっきりとした口調で、権利を主張しました。そこには、「そこをどけ」というほどの意思が含まれています。


”くっ、ならばこちらにも相応の覚悟が――――”


 アルヒルヘルムがなおも食い下がりました。そして、左右前方に展開したトピア艦隊が船団の進路を妨害するような進路を取り始めるのです。


「ああ、なんだか不穏な感じになってきました……僕らが姿を見せただけではだめみたいですね」


「ふむ、ただの嫌がらせだろうがな……だが、進路を閉じてくるとは厄介だ。良し、船団危険度丙と認む。デューク君達は、少し前に出てくれたまえ」


 カークライトは危険度上昇を伝達し、デューク達が少し前方に進むように命令をくだしました。デューク達はすぐさまその命令に従い、「位置に付きました――!」と報告するのです。


「では、そこからトピア艦隊に君たちの力を見せつけてくれ」


「ええと、そんなことやっていいのですか?」


「そうでもしないと、帰ってくれないようだからな」


 カークライト船長は「かまわん、やれ」と続けました。


「じゃぁ、威嚇射撃だ~~♪」


「一発だけなら誤射よね?」


 ナワリンとペトラが主砲にエネルギーをチャージしようとしたのですが――


「あ、火器系の使用が不可になってる。火器管制レーダーもアウトかぁ」


「ただし、武器の使用は禁止だ」


 ――カークライト船団長は、正式なコードとしてデューク達の火器管制系のセイフティをロックしていました。彼は武器を使わずに示威行動を取れと命じているのです。


「なにか別の方法で、やれってことか……うーん、ちょっとみんな集まって」


 デューク達は艦首を突き合わせて、ゴニョゴニョと相談を始めます。


「要は、戦力の差を見せつけて、ビビらせればいいんだよね~~?」


「フネとしての力を見せつけるってことねぇ」


「それをどう表現するか…………彼らの技術には無いものとかかなぁ」


 デューク達はうーんうーんと、艦首をねじりながら考えました。


「通信系は使っていいんだよね~~?」


「エンジンはOK……あ、これは別に武器じゃないわよねぇ」


「ふむ、そうか、自前のこれを使えば良いんだ」


 しばらくすると、デューク達はそれぞれ「これで良いんじゃないかな」という風にそれぞれの方法を見つけたようです。そして、彼らはトピア艦隊に向けて、艦首を揃えました。


「じゃぁ、ボクからいくよ~~!」


 ペトラがカラダの各所についている通信設備にエネルギーを回します。星間レーダーのアンテナがニョキリと立ち並び、トピア艦隊のいる辺りに指向しました。


「こんにちは~~~~~~~~~~~!」


 ペトラはそう言いながら、強力な電磁波をビシバシと電波を発振し始めます。すると――


”連合艦の強力な妨害電波です! レーダーがホワイトアウト!”


”艦隊の目が潰れただとぉ?! にっ、肉眼で追え!”


 ――ナワリンの発する強力な電磁波はトピア星系軍のレーダーを一瞬でホワイトアウトさせたのです。


「今度は私ね! 放熱板を最大展開! 縮退炉全開よ――――っ!」


 今度はナワリンが、長大な放熱板を広げて、縮退炉の熱を最大にしました。すると、大きな金属の翼が赤くなり、次に白くなって、激烈な赤外線を撒き散らし始めます。


”ッ――報告、巨大な赤外線反応あり――――連合の軍艦が放熱を開始した模様です! ああ、なんて熱量だ……まだまだ上昇中するだと!?”


”こ、この熱量…………あのフネの出力は我が艦の20倍以上だとぉ?! 連合の大型戦艦とは化け物なのか――!”


 フネが放つ赤外線の量は、それが持っているエンジンの出力を知るための物差しです。軍艦であれば、その戦闘力の基準となるものですから、トピア艦隊は、驚愕の渦に包まれました。


”静まれ! 鎮まれ! 湛まれぇぇぇぇぇ! 艦の性能だけが、戦力の決定的な差になるわけではない! 我が星系軍は正義の軍であるぞ! 正義の軍が正義を行うのだ――天の理、地の利、人の和、我が艦隊の総力を上げれば、その力は無限大っ! 無限のパウワァァアァァッ! なのだ――(以下略”


 それなりの指揮官であるアルヒルヘルムは、少しばかり支離滅裂ながらもまたぞろ長ったらしいセリフを吐き始めます。トピア人というものは、そういう言い回しによって鎮静効果を得る種族のようで、艦隊の動揺が――


 ズゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォンッ! 


 ――収まる前に、空間を震わせる巨大な振動がトピア艦隊に押し寄せました。それは彼らの艦艇をビリビリと振動させるのです。


”なんだこれは?!”


”重力波センサに異常を感知! 重力波が艦体を震わせています!”


 トピア艦隊のオペレーターが「相当強力なやつです!」と言った次の瞬間、ズゴォォォォォォォォォォォォォォンッ! ドン! ドン! と続けての重力波が艦を揺さぶりました。


”攻撃されているのかっ?!”


”ち、違います! これは――――ただの汽笛です! 進路の先を追い越しするから退避してほしいという警告です!”


 重力波の汽笛はデュークが放ったものでした。彼は巨大なカラダから重力波の汽笛を鳴らして、「どいてくださーい」と丁寧に主張したのです。


「ふふふ、連合航宙法にも、トピアとの協定にも反しない良い方法だな」


 デューク達の行動を見ていたカークライトがニンマリとした笑みを浮かべました。彼の眼前では、船団の進路を塞ぐように機動していたトピア艦隊の足が完全に止まった様子が映っているのです。


「進路そのまま――ようそろ――」


 トピア艦隊は最早手も足も出まいと認識したカークライトは船団にさらなる前進を命じました。


「はいは~~い、通りますね~~♪」


「ほらほら、邪魔よ! どきなさいっ!」


「どいてくださーい、危ないですよ――――――!」


 トピア艦隊は未だ船団を襲撃できるような位置にいるのですが、重巡洋艦ペトラを先頭にし、デュークとナワリンが脇を固めた船団が進むと、ジリジリと後退してゆきます。


”くっ…………”


 アルヒルヘルムは鼻先を悠々と通って行く船団を指を加えて眺めるほかありません。共生知性体連合の方からやってきた船団を脅して、過分な通行料をせしめてやろうという彼の目論見も完全に潰えたわけです。


”くそっ……なにもできんとは……か、かくなる上は……”


 彼は、強大な共生知性体連合の軍艦の前にトピア星系軍がなすすべもない現状に激昂しました。そしてそこで、彼はっと自分に立ち返り――彼にできるたった一つのことをしようとするのです。それはつまり――


”――き、貴様ら覚えていろ――――! 我のこの名前を――トピア星系独立人民共和民主協賛革命協議会直轄外惑星防衛宇宙軍第18宙域巡察軍団所属独立混成航宙機動第201艦隊”強大にして剛直な地獄の――勇猛なる艦隊司令官アルヒルヘルム・ベングラハム・コーカーサウイド(以下略”


「「「覚えてられるか――――――――っ!!」」」


 そのようにして、巨大な軍艦たちをして悲鳴のような声を上げさせたことが、アルヒルヘルムの最大の戦果だったのです。

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