第170話 トピア星系を抜けて
トピア艦隊の包囲を威嚇だけで押し通ったデューク達は、星系の一番外に有る惑星の軌道の内側に入り、惑星の重力と自転の力を受け取ってから、進路を星系の外に向けています。
「周辺警戒――特になにもいないねぇ」
「前方を長距離探査したけれど、艦艇はいないよぉ~~」
「側面かなり遠くに熱源が見えるけれど、追いつける軌道要素じゃないわ」
カークライトは、外惑星に入り込みフライバイするコースは、トピア艦隊の網に一度は捕まるかもしれないが、やり過ごした後は、なんの障害もないと予測していました。
「それにこのコース設定だと、スターライン航法が使えるね」
「星の配置図を完全に読み切っているんだわぁ」
恒星と恒星の間にある量子的なゆらぎを利用した超光速航法――スターライン航法は、適切な位置取りと、障害物が無いことなどの条件が揃わないと使用ができません。
でも、船団は今、トピア星系の主星と近傍恒星系のそれとの間にある、スターラインの真上に乗っていたのです。
「各船、超光速航行開始――」
進路になにもないことを確認したカークライトは、各船に超光速状態に入るように指示しました。
超空間航法ほどではないにせよ、通常空間を移動する方法としては最速の一つであるスターライン航法が用いられると、船団は星系外縁部の端にあるジャンプポイントまで、半日ほどで到達します。
「ジャンプに移れ」
カークライトが操るマリアーデン号以下数隻の民間船が超空間への侵入を開始します。デューク達も色を心に素数を数えて、エーテルの海へと入り込みました。
「よしっ、無事に航路に入れたね」
「他の船も、みんな到着しているわ!」
「護衛は大成功~~~~!」
デューク達がエーテルの海を眺めると、護衛対象であったすべての民間船が航路に入っているのがわかりました。トピア星系軍は超空間航路を使えるだけの技術力がないため、最早危険はありません。
「デューク君、ナワリン嬢、ペトラ嬢。護衛任務ご苦労様でした」
カークライト船団長が、護衛にあたっていたデューク達に謝意を伝えてきました。他の民間船からも謝辞のメッセージが届きます。
「君たちのおかげで、悠々と星系を通過することができたよ」
「いいえ、カークライト船長の指揮のおかげだと思います。船団長の的確な指示がなければ、大変なことになっていたと思いますよ」
「変な奴らに絡まれたけど。それも織り込み済みってヤツだったしねぇ。これが長年の経験と勘ってものなのね」
「すっごく勉強になったよぉ~~! 経験値が上がりまくりだよぉ~~!」
海賊まがいのトピア星系軍の存在があったにせよ、最適な航路設定で船団を率いたカークライトの手腕に、デューク達は感心しきりでした。
「ははは、謙虚なフネ達だな」
カークライトは朗らかに笑いました。
「さて、ここで船団を解散して、各自の目的地に向かうとしよう」
「はい、わかりました」
カークライトは船団の解散を発令しました。この超空間はいくつかの分かれ道があって、それぞれが目指す方角は違っていたのです。
「デューク君らは、第二艦隊に向かうのだったな……そうすると、あのエーテル流にそって、アルゴ星系に降りると良い。そこから二つほど航路を進めば、根拠地にでるからな」
「ありがとうございます」
デュークは「航海の無事を祈ります」と重力波の汽笛を鳴らして、別れの挨拶としました。
そしてデューク達が超空間を進み始めた頃のことでした。共生知性体連合首都星系中枢セントラルコアに、異常事態の報告が届いたのです。
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