第12話 活動体、フネのミニチュア その2

 ”ドクの診療所。現在、休憩中――緊急の場合はノックすること!”


 ネストの発着場の近くに、そのような文字の浮かんだ電光プレートが掲げられている部屋がありました。


「ドクはおるか――!」


 オライオがて部屋の扉をドンドンドン! と勢いよく叩きます。すると、ガキン! と機械音が鳴って扉が開き始めました。


「おお、オライオか。どうした?」


 部屋の中では、老骨船ゴルゴンがなにやら作業をしておりましたが、彼は手を止めて艦首を上げるのです。


「問題はこれじゃ!」


 オライオがクレーンを指し示した先には、あとから入ってきたデュークの姿がありました。


「おや、デューク。どうした?」


「お口の中が変なの……」


 デュークは口元を抑えて目を歪ませながらそう言ったのです。


「痛むのか?」


「うん、ちょっぴり……それから変な感じもするんだ」


 デュークの言葉にゴルゴンは「ほぉ、そんな時期か、早いものだな」と言いました。


「おぅ、内部に入って確認したら、出来ているようじゃった。ゴルゴン、お前さんで処置できるだろ?」


「ふむ……まぁ、まだ医者としては見習いではあるが。やってみよう」


 そう答えたゴルゴンは、沢山のクレーンを――現役時代、共生宇宙軍の工作艦として縦横に振るった腕を持ち上げます。その数は、普通の龍骨の民に比べて優に数倍ほどもありました。


 その手の先には、巨大なドリルやら、ハンマーや、注射器のような様々な機能があると思われるアタッチメントが付いています。彼はそれをデュークに向けるとこう言います。


「デューク、あーんしなさい」


「ふぇ、な、何をするの?」


 デュークはドリルがギュルギュルと回転しハンマーがギラリと鈍く輝き、鋭い注射器がジョキリと動くのを見て「怖いよぉ」と呻きました。


「なに、口の中の違和感の元を取り出すだけだよ。早くしないともっと痛くなるかもしれんぞ?」


「え、そうなの……」


 ゴルゴンが穏やかに諭すので、デュークは意を決して口を開きます。


「おっと、ここか。ふむ、頃合いではないか。では、麻酔を掛けるぞ」


 ゴルゴンは手にした注射器のような物をデュークの口内に付き入れます。プスッ! という音が鳴ると、デュークの口内の感覚――デジタル信号でもたらされていた体内感覚があっけなくシャットダウンしました。


「ふがぁ……」


 デュークは「ひゃぁぁぁ」と声を漏らそうとしするのっですが、口の中が麻痺してうまく言葉になりません。


「落ち着け。口腔内の神経回路を遮断するナノマシンを投与した。痛みは無いから安心するのだ」


 ゴルゴンはそう言うと、手にしたハンマーをデュークの口の中にある歯――超硬金属で出来たそれにあ思いっきり叩きつけます。デュークは、ガィィィィン! という響きが口の中で起こるのを感じますが、痛みは全くありませんでした。


ふぉんほんとだ!」


「さて……」


 ゴルゴンはドリルの回転数をギョルルルッ! と上げて――デュークの口の中に突っ込みます。そして、口の中でドリルが回転し、ゴリゴリゴリゴリ――! と、超硬質な歯が徐々に削れゆく音が鳴り始めました。


「ほががががががが……」


 そのようにして、デュークは僅かに涙目になりながら、処置とやらが終わるのをジッと耐えたのです。

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