第11話 活動体、フネのミニチュア その1

 ネストの天井から水が滴れ、ポチャン……フワフワ……ポチャン……そんな音に導かれて白い肌の幼生体が近づいてきました。


「ふぇっ、冷たい!」


 船首に水滴を受けたデュークがブルリと龍骨を震わせます。


「オライオじいちゃん。ここだよ、雨漏りを見つけたよ!」


「おお、デカしたぞデューク!」


 デュークが示した雨漏りの現場に、老骨船オライオはクレーンを伸ばして指先で内部の空間を探り始めました。


「こりゃぁ根が深そうじゃなぁ……天井裏に潜り込むしかあるまいて」


「天井裏って?」


「この上にこの位の隙間があるんじゃよ。そこで水漏れしたパイプを直すんじゃ」


 オライオは二本のクレーンの先を使ってこれ位の隙間――彼の手は差し渡りが10メートルくらいですから相当に大きな空間に感じるかもしれませんが――


「ふぇぇ、そんな狭い所に僕らは入れないよ?」


 隙間は標準的なヒューマノイドからすると大変広い場所ですが、龍骨の民は超大型の海洋哺乳類よりもはるかに大きなカラダを持つ生き物であることを忘れてはいけません。


「たしかにわしらのカラダではな」


 デュークはこの時すでに250メートルを超えるカラダを持っており、オライオの体調も平均的なものなので、そんな狭い天井裏に潜り込むことなどできないということは彼にも分かっているようです。

 

「そんな時にはこれを使うのじゃ」


 おもむろに、オライオは視覚素子のバイザーまぶたを静かに降ろしました。すると、彼のカラダから力がスっと抜け落ちて、船体が床に横たわるのです。


「あれれ、寝ちゃったの?」


 と、デュークが目を丸くすると同時に――オライオのカラダに埋め込まれている格納庫のハッチが開いて中からスポッと何かが飛び出てきます。


「ふぇっ、なにこれ⁈」


 デュークの鼻先をかすめてフワリと浮かんだのは1メートルほどの物体であり、大きな視覚素子を調整してカシャリカシャリとズームさせると、小さなフネのような形がぼんやりと映ります。


「ち、小さなフネみたいだけど、これは一体何なの?」


「これは活動体といってな。ワシらのもうひとつのカラダなのじゃ」


 オライオ曰く「活動体とは細かい作業に使ったり狭い場所にもぐったり、はたまた小さな異種族とコミュニケーションをとったりするときに使うフネのミニチュアなのじゃ」ということでした。


「どうやって動かしているの?」


「本体から思念波を発して、動かしておる」


「思念波?」


「うむ、気合とか根性――サイキックとも言われる波でな。光学系のセンサでは感じられない、自分自身にしか扱えないものなのじゃ」


 思念波とは普通のセンサでは感じることもできず、工学的に作り出すこともできない知性体そのものが産み出す超自然的な力でした。


「この波の性質は種族によって特徴が異なっておってな。ある種族は手を触れずとも物を動かしたりするが――ワシら龍骨の民は、活動体を動かすことにに使っておる」


 そう言ったオライオのミニチュアは「おりゃ――!」と小さなクレーンをブンブンブンと振り回したり「ブーン!」といいながら空中を動き回るのです。


「思念波は本体と活動体の間であれば、相当な距離を越えて届くからの。これを使って惑星に降下することもできるんじゃ。それから、他の種族とおしゃべりするのにも使ったりするのじゃ」


 活動体のサイズは1メートル位ですから、標準的なサイズの他種族とのコミュニケーションには最適だったのです。


「そして、お前にもそろそろ生えてくる頃合いかも―――」


「もしかして、口の中のこれ?」


「おお、それじゃ。よしドクにみてもらうとしようか」


 そういったオライオはデュークを引き連れネストのお医者さんのところに向かうのでした。

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