第111話 急降下爆撃その1
「痛いなぁ。破片をかなりもらっちゃった……」
デュークがクレーンの先を使って艦首をポリポリと掻いています。雨あられと打ち込まれた長距離ミサイルが全て迎撃したものの、かなりの速度で飛び込んできた弾片が彼のカラダを抉っていたのです。
「小さな破片はカラダが勝手に吸収しちゃうだろうけど、中途半端に食い込んだものが邪魔だなぁ」
デュークの白い装甲板の表面には無数の小さな穴が空いていました。とても大きな戦艦である彼にとって大した怪我ではありませんが、大きなものでは数メートルはある破片が食い込んだところもあるのです。彼は目立って大きな断片を、鼻毛を抜くかの如くクレーンを使ってプチッ、プチッと抜いてゆきます。
「もぉ~~!」
デュークは傍らではナワリンが悪態をつきながら、背中に入った数十メートルにわたる黒い筋をさすっていました。彼女の硬質な装甲板は高速度の破片に対して有効でしたが、いい感じの角度で入ってきた一発で切り傷を作っていたのです。
「あぅ~~星間アンテナを持ってかれたよぉ~~痛いよぉ~~!」
ペトラは外部にある大きなパラボラアンテナを吹き飛ばされていました。龍骨の民の艦外にある生体機器は、標準的な種族で言えば髪の毛のようなものですから、それを引っこ抜かれると、とっても痛いのです。
「でも、こんなものですんで良かったのかもしれないよ。他の艦には中破してしまったのがいるし」
そう言ったデュークの視覚素子には、被弾して後退する駆逐艦とフリゲートの姿が映っていました。デューク達とは違って装甲の薄いそれらは破片がヒットするだけで、戦力を喪失することもあるのです。
「自分で言うのもなんだけれど私達の肌って強靭だわ。鋼のボディね!」
鋼どころか、龍骨の民の装甲は重金属やら炭素繊維で出来た複合装甲材であり、ミサイル攻撃の弾片程度では、ヒリヒリする程度の掠り傷で済むのです。
そんなデューク達の上方に、共生宇宙軍第13辺境宙域巡回戦隊が長距離ミサイル攻撃を受ける様子をニヤリとしながら眺めるニンゲンがいました。
「はっ、長距離ミサイル攻撃でそれなりに打撃を与えたようだな。巡洋艦と駆逐が10隻ばかりが後退したか。こちらにもう少し艦艇があればミサイルだけで撃退できるのだがな」
50メートル級大型艦載艇のゲル状の耐衝撃素材が充満するコクピットの中で、糸杉のような細い眼をしたハンナが対空射撃にかかりきりとなった共生宇宙軍の様子を薄ら笑いを浮かべて眺めているのです。
「それでは我々の出番がなくなるわ、ハンナ。敵集団の対空効率、低下しはじめた。そろそろいこう」
後席から戦術データ士官エルネスタが冷静な分析を平坦な声色で伝えます。それはデューク達を徹底的な分析の対象として捉え、その隙をつかんとするという強い意志が乗ったものでした。
「はっ、そうだな」
ハンナが手のひらにバシリと拳をぶつけて「我らの実力を示してやろうじゃないか」と嘯きました。彼女の父母達を超えるような強い戦意を持っている女性なのです。
「ハンナ、突撃発起位置まで60秒――」
網膜に「突撃発起点」というカウントダウンの数字と共生宇宙軍の戦術情報が映り込んだエルネスタは、データを加工した上で最適な攻撃コースを前席のハンナに渡し「いつでもいけるわ」と告げました。
「よし、第三波の爆発に紛れて突入するぞ。第二小隊以下は敵の中型艦艇以下に突撃。我ら第一小隊の狙いは隊列先頭――」
ハンナは視線クリックでタンッ! 先頭にあるシンボルシルエットをトンと叩きます。すると、網膜の中に最大望遠で捉えたデュークのシルエットが映り込むのです。
「あの白いデカブツだ!」
「了解、隷下の戦闘艇へ下令。隠蔽を解除――」
するとハンナ達の機体から少し離れたところで小爆発がいくつも発生し、それまで覆っていた電磁波を吸収するシールドが爆破されると中の兵器が露になります。
それは機動戦闘艇に手足が付いたような形状をした人形兵器と言うべきものであり、背中には対艦ミサイルを流用した推進ユニットが搭載されており重量比から考えれば相当な大加速を可能としているようです。
「機動戦闘ユニットを魔改造した、ひ~と~が~た~マシーン! ああ、人類史上主義の魂が結実したかのようじゃないかァ!」
「嬉しそうねぇ」
手には大型ミサイルの弾頭を流用したと思われる円錐形の爆弾や、駆逐艦の電磁投射砲を改造した大火力ライフル、その他の各種兵装が各所に搭載されています。そのような機動性と火力を併せ持った剣呑な兵器が100機ほども現れたことを確かめたハンナは肉食獣のような笑みを浮かべながらこう命じます。
「第一陣、急降下、始め――――っ!」
号令一下、強力な加速力を持ち恐るべき武装を持った人形兵器、そしてそれを扱うにたる危険な戦意を持ったニンゲン達の少年少女が、生きている宇宙船の少年少女に向けて突撃を開始したのです。
◇
「第三波の破片が来るぞ――――よいしょ、よいしょ!」
デュークはペシペシとレーザを放ち迫りくる弾片を手慣れた感じで片付けていました。彼は「落ち着いてやれば、ただ飛んでくるだけの破片なんて怖くないね。おっと、モグモグ!」と、カラダをかすめた金属塊をクレーンの先で、ヒョイと摘まみ上げて口に放り込むくらい余裕ができています。
「あ、これって金属じゃなくて、カーボン系の素材だわ」
「共生知性体のものとは味が違うねぇ~~」
ナワリンとペトラも同様にしてレーザを発振しながら、ヒョイパクと断片を口にしていました。同じ作業を三回もやれば、段々と慣れてくるものなのです。
そして彼が「爆発から計算して、後20秒で破片の雨が止むかな?」と思った時のこと――
「あれ? 上の方で何かが光った?」
デュークの視覚素子が無数の輝点が上方に現れるのを探知しました。
「ふぇっ、なんだあれ、ミサイルみたいだけど、乱数加速の動きが掴めない!」
突如現れた100程の物体はプログラムされた乱数加速とは違う生き物めいた有機的な乱数加速を掛けて降りて来るのです。
「なに、あれ、やばい~~敵機直上急降下~~!」
「うわっ、有人機動兵器だわ。脅威判定が段違いよ!」
ペトラとナワリンもこれまでのミサイル攻撃とは全く別な動きに大変な脅威を感じ、龍骨の中にあるコードから特別な機動兵器なのだと理解し驚愕したのです。
「あの動きはミサイルじゃなくて、機動兵器ってやつか! 距離を詰められる前に叩き落とすんだ! 近づけちゃ駄目だ!」
本能的なものかご先祖さまの記憶のおかげなのかデュークは甲板に生えているレーザー砲塔たちにエネルギーを急速チャージし、「斉射ぁ――!」と叫んでレーザーを放とうとするのですが――
「ふぇ、ロックできない……こうなったらとにかく撃つしか――」
機動兵器の動きが予測できないため、彼は狙いを定めず乱射を始めます。するといくらかは至近弾となり、接近軌道を外れる敵機もでるのですが、残ったものはそれを無視して急降下を続けました。
「く、くそっ、対空射撃だ――――!」
迫りくる敵機に対してデュークは多目的格納庫に入った対空レーザー砲やら、副砲の仰角をいっぱいに上げ、急降下してくる物体に向けてドカドカと乱射を繰り返します。
「駄目だ当たらない!? ふぇ、ば、爆弾が――――⁈ ぐわっ!」
そして直後、ドグゥオン! ドグゥオン! と、投じられた敵の爆弾がデュークの身体に連続して直撃しました。
ヒットした爆弾は超重元素を用いた核融合弾頭であり、第二砲塔の真上で炸裂したそれは超高熱のエネルギーをまき散してプラズマ化した重元素のパルスで装甲板を叩きます。
「いだだだだだだだだだっ!?」
デュークの分厚い装甲はそれを爆発そのものには耐えたものの一部は融解し、周囲の外部生体機器がボンボンと爆発すると、彼の背中は火山の噴火のように燃え上がリ始めます。
「火事だ火事だ、アチチチチ。艦外温度が上昇ぅ! 消火ぁ――消火ぁ――!」
艦外温度が急上昇したものですから、デュークはクレーンを伸ばして不活性ガスを吹き付けて熱を持った外皮を冷やします。そんなデュークを横目に攻撃を行った敵機は電磁ライフルを乱射しながら、下方に抜けて離脱してゆきました。
「ふぇぇえぇぇぇえっ! まだ来るよぉ……」
さらに攻撃は続き至近距離まで近づいた敵機から反物質を用いた光子魚雷――小型ながらも駆逐艦程度であれば一撃で破壊することができる剣呑な兵器が投射されます。デュークは本能的に
「ぐわっ!? カラダの中まで熱が――――ッ!」
直撃こそ避けたものの至近距離で炸裂した反物質が激烈な熱と放射線をまき散らし、厚みのあるデュークの白い装甲板を抜けてジュワリと伝わった熱が内部構造に影響を与え始めるのです。デュークは体内の液体水素の流れを全開にして放熱板に熱を逃すのですが、長大な放熱板は赤熱化して燃え上がりはじめる始末でした。
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