第112話 急降下爆撃その2

「ね、熱がおさまらないっ――!」


「デューク、砲塔が大炎上してるわよっ?!」


「急いでパージするんだよぉ~~~~!」


 デュークの被害を確かめたナワリン達が、砲塔が誘爆する危険を知らせてきたため「仕方ない――――!」とデュークはボン! と背中に生やした回転砲塔の付け根を爆破しました。龍骨の民はグラついた奥歯を吐き捨てるように各器官を切り離すことができるのです。


「いたた…………上部甲板は対空火器が半分以上やられちゃったなぁ……」


 デュークは強力な爆発に晒されてぐだぐだになった背中の器官を他にもいくつかパージしながら「視覚素子が少し滲むなぁ。こっちにも多少ダメージがはいっちゃった……」とボヤキました。そんな彼の視覚素子を通して、不思議な音が届きます。


「これは、なんだ?」


 デュークは頭上から不思議な音を伴った電波がカラダの中心線を舐めるように狙っているのを感じました。それは射撃管制レーダーのようにも思えますが、これまでのものとは違ってヴィィィィィ! とした響きとともに近づいて来るのです。


「デューク! 上、上、小型の艦艇が突っ込んでくるわッ!?」


「あ、上方のレーダーが全損して、死角に入ってる~~!」


 デュークの脇ではナワリンとペトラがクレーンを掲げながら、上方を指して何かを叫んでいます。


「ふぇっ?」


 よいこらしょっと艦首を上方に向けたデュークの視界に、舳先の尖った100メートル級のフリゲートらしきものが急降下する姿が映ります。


「ふぇぇ――――――フリゲート艦が直撃するコースに入ってるぅぅぅっ?!」


 フリゲート艦が自分めがけて突っ込んで来る光景にデュークは「ふぇぇぇぇ!」と驚くほかありません。ペトラとナワリンは「援護するわ!」とレーザーやビームを放ってデュークを援護しようとするのですが――


「駄目、躱されたわっ!」


「こっちは、エネルギーが低下して撃てないよぉ~~むぅ~り~!」


 ナワリン達の斉射は至近距離まで近づいたフリゲートがランダムな加速をつけているために当たりません。その上ナワリンとペトラはカラダに蓄えていたエネルギーが一時的に枯渇して最早発砲できませんでした。


「とういうことは……」


 ヴィィィィィィィィィィィィィ――――――! 不安感を誘う激しい電波の音がすぐそこまで迫っていましたが、デュークは「う、うわぁぁぁぁぁっ!?」と、身を固めることしか出来ませんでした。


 そんな状況から30秒ほど前――


「直撃弾、至近弾多数なるも、目標いまだ健在」


「はっはっは、生きている宇宙船――やるじゃないか!」


 人間族のハンナが細い眼を吊り上がらせ口元に嬉し気な笑みを浮かばせます。


「じゃぁ、いっちょブワァ~~といってみよう!」


「付属船体の補機推進開始」


 ハンナ達が登場している人形兵器の巨大な補助推進機関――――”100メートル級フリゲート”にコマンドが入力されます。するとミサイルのそれとは違うパワーのある加速が始まりました。


「はっ、ガタが来た旧式艦だが、加速は一品だな! いやっほぉぉぉぉぉ――っ‼」


 フリゲートと一体となった人形兵器がメキメキとフレームを歪ませる様子に、ハンナは歓声をあげ「よぉし! サイレン鳴らせ!」と命じます。


「了解、大規模ジャミング開始」


 フリゲート艦の艦内に蓄積された電力が強力なレーダー照射となって放たれます。それは電子ジャミング効果のほか、古い時代のニンゲン達が経験した同族殺し大戦において使われたジェリコのラッパのように、襲撃を受けた対象を恐怖に陥れるための効果をもっています。


「よし、対空射撃圏内に入る……ブン回すぞっ!」


 ナワリンやペトラの砲塔から投射された測的電波を感知したハンナは、人形兵器のスラスタと腹に抱え込んだフリゲートの推進機関の方向を無理やり横にして、瞬間的な加速をつけました。


 それは大変な勢いだったため「くっ……加速が……」と高加速に抵抗するための遺伝子調整を受けているエルネスタですら苦し気な声を漏らすものでした。でも、ハンナはそれにかまわず「リミッタ解除! 気合で耐えろエルネスタ!」とさらなる加速を掛けます。


「おるあっ――――!」


 ギリギリとした悪魔的な加速が襲い、彼女たちは歯を食いしばってそれを耐え、そしてジュガリ――! と横をレーザーが駆け抜けて行ったのを感じます。


「かはっ……はっ、当たらなければどうと言うこともない!」


 ハンナは大出力レーザーが脇をかすめて、むなしく虚空に吸い込まれてゆくのを長め、一息いれてから「そのなまっ白い鼻づらにぃぃぃぃ! フリゲート爆弾をお見舞いしてやるっ!」と大絶叫しました。


 デュークの姿を完全に捉えた、眼と眼がくっつき合うような至近距離で「もう、逃げられないぞっ――――!」と絶叫をあげるハンナの目にはデュークの白い艦首にあるくりくりとした円らな眼がいっぱいに迫っています。


「投下! 投下! 投下!!」


 そして衝突寸前でハンナは緊急爆破ボルトを使って人形兵器を離脱させました。すると切り離されたフリゲート艦はそのままデュークの舳先に向かって突っ込んで――


「弾着ぁぁぁぁぁく!」


 艦船攻撃用大型爆弾と化したフリゲート艦がデュークに激突し、装甲と装甲が対峙して――デュークの艦首部でバキュリ! と爆発が巻き起りました。


「爆撃! 直撃! 大・打・撃グローサーシュラック!」


 大爆発が起こったデュークの脇をかすめながら、ハンナはガッツポーズを掲げながら、機体を反転させて状況の確認に移ります。


「どうだ⁈ やったか?」


「だめ、装甲を抜けてない」


 着弾後の爆発のタイミングは想定よりコンマ数秒ほど早かったようです。しばらくすると大爆炎の中デュークの大きな姿が現れました。


「でも、フラフラしてる……大破ね」


「うはは、それだけで済むとは凄いな! 装甲ペラペラの旧式フリゲートとはいえあれだけの速度があったのになっ! 敵ながらあっぱれだ!」


「眼がビックリしてたけれどね」


 彼女達が衝突の寸前に捉えたデュークの眼は「マジですか――」という感じになっていたのです。


「ははは、生きている宇宙船にはホントに眼玉がついているんだな! 一瞬だったけど目が合ったぞ! クリクリしたお目めが『ふぇっ⁈』ってビックリしして…………かわぃかったぞぉ!」


「たしかに可愛かったわね」


 ハンナとエルネスタは舌なめずりをしながら剣呑な笑みを口元に浮かべました。彼女達は強い敵に対峙すると嬉しくなってしまうちょっと偏った性癖を持ったニンゲンどもなのです。


「よっしゃ、次はもっと大きなヤツをぶつけてやろうぜぇ! 使い捨てにしていいド新品の巡洋艦とかどこかに落ちてないかなァ?」


「マリー母様に頼んでみれば?」


「おお、そうだ、おかんの戦艦を借りよう、あれなら殺し切れる! げぇへっへっへ、待ってろよ私の可愛い連合の戦艦っ!」


 ハンナは戦意と殺意がひっくり返ってデュークに対して厄介な感情を抱くに至り、双子の妹たるエルネスタ・ラーズハイムは「ごきげんよう、連合の白い戦艦さん」などと素敵な笑みを浮かべたのです。

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