第113話 撤退
「撤退するゾウ!」
数次に渡るミサイル攻撃と人形兵器の攻撃を受け、先頭にいるデュークが大打撃を受けたこと時点で、第十三辺境巡回戦隊指揮官パオン准将は「撤退」という判断をスパリと下しました。
副官たるキマージメ中佐も「それがよろしいでしょう」と頷き「両翼の部隊からあるだけの対艦ミサイルを敵艦艇の概略位置に全力射出させます。その隙きに全力で転進しましょう」と万全の対処法を示します。
「先頭の龍骨の民は一刻も早く後退させるんだゾウ!」
パオン准将は「敵を過小評価していたかもしれん――これは私の責任だゾウ!」と自らに対して罵りの雄叫びを上げましたが、それは後の祭りというものでしょう。
「対艦ミサイル斉射――――! 出し惜しみはなしだゾウ!」
ありったけの対艦ミサイル射出を契機として第13辺境宙域巡回戦隊は撤退戦に移ります。彼らは数時間にも渡る苦闘の末それに成功し、星系外縁部からスターラインに乗って一応の安全を確保することとなったのです。
それから数刻――――
「あ、デュークの目が空いたわ」
「デューク、大丈夫~~?」
フリゲート爆弾の直撃を受けたデュークは爆発の後意識を喪失し、ナワリン達に曳航されて隣の星系に到着しています。
「あたた、龍骨がガンガンする……それに前が全く見えないや」
デュークの艦首はナワリン達が目を背けるほどの大損害を受けていました。直撃したフリゲート爆弾は、前方視覚素子を含む艦首構造物を完全に喪失させ、装甲板に大きな穴を開けていたのです。
「うう、だけどもう、大丈夫……」
「ちょっと、デューク。推進器官をうごかさないで」
「そうだよぉ~~縮退炉も安定を失ってるんだから無理しちゃだよぉ~~」
デュークは本能的に推進器官を動かそうとするのですが、かなりのダメージを負った状態ではそれもままなりません。
「黙って寝てなさいっ‼」
「私たちで牽引するからぁ~~!」
無理を押そうとするデュークを、ナワリンとペトラは声を揃えてピシャリと叱りました。
「ううう、確かにカラダが動かない、ね。じゃぁ、あとは任せたよ……」
デュークの眼に備わったバイザーがゆっくりと降ろされ、縮退炉がアイドリング状態にまでパワーを落としてゆきます。彼の龍骨自身が打撃と熱にやられたカラダをいたわるため、最低限の代謝状態となる深い睡眠状態へ再度移行したのです。
「あのフリゲート爆弾のせいで、酷い怪我だわ」
「ボクたちだったら沈んでたかも~~!」
フリゲート艦を爆弾にするという恐ろしい攻撃はデュークだからこそ耐えられるものでした。確かにあんなものがペトラのカラダに当たっていれば、轟沈は確実です。
「私でも危なかったかもね…………とにかく、デュークを牽引して整備艦のところに持っていきましょ」
ナワリンとペトラがデュークのカラダを牽引ワイヤで引っ張りながら、整備艦艇のところに連れ出します。
「ひぃ、ひぃ……さすがに1キロを超えるカラダは重いわね」
「これでも武装や燃料を相当使いきってるから軽いはずなのにぃ~~!」
そして四苦八苦してデュークを引きずる彼女たちは、同じように被害を受けた別の艦艇に出会います。
「軽巡洋艦が噴煙を上げているよ~~!」
「ダメコンが機能していないみたいね。熱を逃がし切れずに、艦体のそこかしこから炎を噴き出してるわ」
共生宇宙軍の艦艇は生存性を重視した構造となっていますが、ニンゲン達の最後の突撃では大破した艦艇がかなり出ていたのです。
「あ、総員退艦が掛かったわ!」
ナワリン達の目の前で軽巡が爆発を起こし始め、脱出シャトルが次々に飛び出して散開してゆきました。
「他にも相当やられているフネがいるわね。宇宙服だけで飛び出しているのもいるわ。回収しなきゃ……」
「う~ん、デュークを抱えているからクレーンは使えないけれど~~活動体を使えばできるかな~~?」
ナワリン達はとても大きなデュークを抱えながら、活動体を使って艦艇たちから脱出する乗員を回収しつつ、整備まで後退するという大変な難業に取り組むこととなったのです。
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