第114話 首都星系へ

「損害は大破10、中破20。被害の大きな艦は、一旦第五艦隊根拠地に戻します」


「それでいい――しかし、強かにやられてしまったものだゾウ……」


 ニンゲン艦隊から大損害を受けた第13辺境宙域巡回戦隊指揮官パオン准将は、大きな耳をペタリと垂らし、長い鼻を力なくすぼめています。


「任務自体は成功です。作戦目標は不明艦の発見、根拠地の捜索でしたから」


 准将を宥めるようにそう言ったキ・マージメ中佐の言う通り、巡回戦隊はニンゲンたちのステルス艦の所在を掴み、その性能の一端が明らかにしていますから、今後解析が進めばかなりの精度で探査が可能となるでしょう。


「星系内戦闘の際にもたらされた星系内の観測データからは、ニンゲン達の前進基地がそこにあることが判明しています。艦隊司令部はすでに攻略作戦の発動を決定しました」


「うむ、次は巡回戦隊だけでなく、第五艦隊からの援軍を受けてからの攻略戦となるゾウ」


「准将はその指揮を取らなければなりませんね」


 今回の作戦でパオン准将にはある程度の落ち度はあったものの、その積極的な行動により作戦目的は果たされ、有益な情報も入手できています。そのため、パオン准将には、艦隊司令部が発案した前進基地の攻略作戦において指揮官任命の内示が下っていました。


「だが、次は彼らの力は借りられんゾウ」


「はい……デューク達は良い子達でしたわね」


 准将と中佐は巡回戦隊を離れるデューク達の姿を見送りながら、次の作戦の準備に入ったのです。


 それから10日後、超空間航路を進んだデューク達は第五艦隊の小根拠地の一つである星系に到着し、大型工作艦による応急処置よりも程度の高い修理を施されていました。


「うぐぅ…………痛い……」


 工作艦のクレーンが伸び、デュークの艦首に仮に巻き付けられていた鋼材ほうたいがべりべりとはがすと、彼は思わずうめき声を上げてしまいます。


「ふぅむ、上部構造物は全損。艦首部分は内部までダメージが入っているわぁ。随分と派手にやられたものねぇ」


 工作艦の艦橋では第五艦隊根拠地から派遣されてきたウシ型種族の技官マリアがデュークの受けた損害を確かめて目をしかめました。


「そことぉ、あそこぉ、それからここは溶断してしまってぇ」


 マリアは爆発の影響を受けて外れかかった砲塔を根元から引きはがし、その他傷を負った外部機器の溶断作業を進めます。


「穴には充填剤を入れて蓋をするのがいいわねぇ」


 デュークのカラダの各所にある穴ぼこには高分子素材の充填剤が充填され、その上から大きな金属プレートがトンテンカンと打ち付けられました。


「はい、終わったわぁ。お疲れ様ぁ」


「これで全部修理できたのですか?」


「まだ完全じゃないわぁ。あなたには工廠でのオーバーホールが必要だからぁ」


「ふぇっ、オーバホールって?」


「あまりにもカラダに食い込んだ破片が多いしぃ、極度の放射能汚染があるところは消化しきれないの。それに縮退炉にダメージがありそうだし、そのままにしたら後遺症が残るわけかもしれないわぁ」


「そうなんだ……じゃぁ、オーバホールは根拠地で?」


「いえ、あなたのカラダは第五艦隊の一番大きなドックでもちょっと手に余るのよねぇ。それにいま空きが無いから首都星系の超大型設備に行ってもらうわ」


「連合の首都星系――シンビオシスですね」


「そう、それにちょうど有給休暇が取れる時期になったでしょ? 休暇ね」


 マリアは「人口が多くてゴミゴミしてるけれど、楽しいところも沢山あるわ。龍骨の民だってたまには息抜きは必要よ」と言いました。


「首都星系で息抜きかぁ」


「ま、これだけ働いたんだから少し休みを取って罰は当たらないわよぉ。ナワリンちゃんとペトラちゃんと一緒にいけるように手筈を整えておいたわ」


「へぇ、そんなことして良いのですか?」


「私は軍人じゃないけれど、司令部の方に伝手があるのよ」


 マリアは「父が執政府で働いてるし、彼女たちも結構手傷を負ったから、そのへんをチョチョイとね」と説明しました。


「それにね、彼女たち、君をここまで牽引してきてくれたのだから、お礼をしてあげなさい」


「そうですね……」


 応急処置を受けて元気を取り戻したデュークは、素直に「わかりました」と答えます。


「まぁでも、そんなことより――」


 マリアはそこでニンマリとした笑顔を見せてからこう続けます。


「君、休みの間に彼女たちをしっかりと物にしておくのよぉ!」


「ふぇぇぇ……」


 デュークは艦首を真っ赤にして俯くことになりました。

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