第32話 白銀の護衛
ゴルゴンがチェフォデラー元執政官をネストへ招き入れた後、デュークは発着場に残ったシャトル警護のリクトルヒを眺めています。
「僕らとは全然違った生き物だなぁ。あの顔って、龍骨の民でいえば舳先と目と口だよね」
デュークの目に映るリクトルヒの顔は、のっぺりとして白銀に輝く機械的なものでした。龍骨の民も一種の機械生命体ですが、全く違うのです。
「手には、何かの棒を持ってるね?」
「執政府の高官を警護するための重棍なのよ。超重金属の棒を200本ほども重ねたもので、重量は100キロ以上はあるらいしいわ」
棍棒を肩に担ぎながら、目を光らせて周囲を警戒するリクトルヒの姿は、いかにも警護の武士と言う感じで、近寄りがたい雰囲気をもっています。
「あの人たちも僕らと同じように、星から産まれてくるのかな?」
「あはっ、彼らは私たちとは全然違う形で産まれてくるのよ」
ネイビスが苦笑いを浮かべてから、こう続けます。
「そうね、これも良い経験だから、直接あの護衛達と話をしてきなさい」
「え、いいの?」
デュークが舳先をピョンと上げました。異種族とお話をするのは始めての経験なのです。ネイビスは「これも勉強ね。宇宙に出たら様々な種族とつきあうのだから」とうながしました。
「いい? ゆっくりと近づいて、しっかり挨拶するのよ」
「うん、行ってくる」
そんなデュークの進路にいるリクトルヒたちが、硬質の金属で出来た唇を僅かに震わせています。彼らは音波を使って会話をする生き物でした。
「なぁ、生きている船って不思議な生き物だよなぁ。話のわかる気のいい奴らではあるけれどさ」
警棒を抱えたリクトルヒ――少しばかりほっそりとした顔を持つプリニウスが、僅かに首を傾げながら「フネの生き物か」と、言いました。
「我らと同じ知性体だが、根本的なところで我らとは違う。男女の別があり、仲の良いフネ同士で番になるようだが、生殖に繋がらぬ」
ごつい作りの風貌をしたガイウスが、「彼らは星が産むのだからな」と言います。
「この足元にある天体マザーは、生きている星なんだよな。ううむ、星が母親かぁ……理解できん」
「ふむ、龍骨の民ですら、”マザーは何も教えてくれない”と言っている。産み出された子ども達自身ですら分からぬのだから、我らにわかるはずもない」
ガイウスは苦笑いをしながらこう続けます。
「我らは男女で結婚し子どもを作る、フネは星が産み老骨が育てる――やり方は違えど、どちらも先祖より受け継がれた生き物としてのあり方だ。ふむ……結婚といえば、今度の任期が終わったら私も結婚するのだ」
「おっと! そいつは初耳だな。相手は何者だ?」
「執政官のところでメイドをやっている。白金の装甲を持つ可愛い……子だ。二期前の休暇で出会ってな」
ガイウスは少しばかり恥ずかしそうにいいました。プリニウスは「執政官付きのメイドか、ううむ羨ましい」と、唸りをもらしました。
「ふむ……では、私の従姉妹でも紹介しようか? リクトルヒ王室の女官をやっている高値の華だが、お前だって執政府付きのエリートだし、名家モンタギューの出身であるものな」
「おお、そうか。ふぅむ……女官か」
プリニウス・モンタギューは顎を擦りながら「女官……」と改めて言いました。口の端が釣り上がっているから、満更でもないようです。
「ぬ、女官というところに反応したか……貴様、職業フェチと言う危ない性癖を持っていたな。ううむ、やっぱ紹介はなしと言う事でいいか? キャピュレットの者たちから、何を言われるかわからん」
「おおい、それは無いぜ――!」
白銀の装甲を持ち、剣呑な視線を光らせて超重の棍を構え、直立不動でシャトルを守る彼らの間では、重いような軽いようなそんな会話がなされていたのです。
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