第33話 異種族コミュニケーション

「お前、話を振っておいて、そりゃ無いぜ――!」


「ううむ」


 プリニウスが、プリプリと怒るのですが、ガイウスは「どうしたものかな?」と唸りました。そこにデュークのミニチュアが、スルスルと重力スラスタを吹かしながらやってきます。


「おっと、フネのミニチュアが近づいてくるぞ」


「そこで止まれ!」


 リクトルヒ達は、デュークのミニチュアを認めて、そこで止まれと、手を挙げて制止しました。


「真っ白いフネだな。こんなの見たこともないぞ。ヘイ、どうした?」


「これはフネの子ども、幼生体だろう。何用かな?」


 目から赤外線の光を放ちながら、二人のリクトルヒが尋ねます。


「――――! ――――!」


 デュークはクレーンを振るって、なにかを訴えかけるような素振りをみせていました。でも、リクトルヒの耳には何も聴こえてきません。


「なにか言いたそうにパクパクと口を動かしているな。おや、無線に変なノイズが入ってるぞ」


「電磁波で喋っているようだが、周波数が合わないから、よく聞こえん。すまんが、話がしたいなら、別の方法でたのむ」


 すると、デュークは今度はライトを使ってパシパシと光を放ちました。


「うぉ、まぶしっ――! 光信号モールスか」


「ははは、まったく生きている宇宙船らしいな。しかし流石にそれは読めんから、音――空気を震わせて声を出してくれ」


 それを聞いたデュークは「あ、わかったよー」と言う風にクレーンを掲げました。ミニチュアの船首がフリフリすると、口の中をモゴモゴとさせました。


 すると、金属質の歯がキリキリと合わさり、キィ――――ン! と、ガラスをひっかくような高い音が飛び出します。


「うぉぉぉぉ、耳がっ⁈」


「その音はらめぇ~~!」


 甲高い音が、良い感じに耳につき刺ささり、リクトルヒらは耳を押えて悶えるのでした。そして彼らは肩に持つ2メートルほどの棍棒を取り落してしまいます。


 ドン! と超重量の棍棒が地面に落ちると、デュークは「あわわ」と驚き、舳先を何度も上げ下げして「御免なさい」と伝えるのです。


「もう少し低い音をだせないかな? 俺たちの可聴域はそんなに広くはないんだ」


「うむ、超音波は使わないでくれ」


 それを聞いたデュークは、金属の歯のこすり合わせを慎重に行い始めます。


「ピィピィピピピピィ――」


「そうそう、その位の音でたのむ」


 ミニチュアの口から小さな音が鳴り始めます。それは段々と調律され、言葉に変わって

ゆくのです。


「ピィ……こ、こんな感じでいいかな……あ、こんにちは! 僕は龍骨の民の幼生体デュークです!」


 調音がほどよいところに落ち着いたところで、デュークは声を放って、頭を下げました。


「ほぉ、デュークか。俺はプリニウス。こいつはガイウス。よろしくな。で、何をしに来たんだい?」


「異種族に合うのは始めてだし、教えて欲しいことがあるんだ!」


「ふむ、異種族コミュニケーションの練習ということか」


 ガイウスが金属質の顔を頷かせました。多数の種族が共生する共生知性体連合では、コミュニケーションが重要視されるのです。


「へぇ、リクトルヒって、同じように見えたけれど、やっぱり二人とも違うんだね」


 デュークの目が二人のリクトルヒをまじまじと見つめます。遠くから見ると二人とも同じような装甲を持った生き物に見えたのですが、近くで眺めると微妙に違った顔立ちをしているのがわかりました。


「で、教えて欲しいことってなんだい?」


「ええとね、リクトルヒ――あなた方の種族は、僕らとは産まれ方が違うと聞きました。それって本当ですか?」


「うん? そりゃ、俺達は星からは産まれんからなぁ。たしかに違うね」


 プリニウスはそう答えると、デュークは「へぇぇやっぱりそうなんだぁ」と頷きます。


「ねぇ、じゃぁ、どんな感じで産まれてくるの?」


「私達は母親が産むのだ」


「おかあさん……それは、マザーと同じじゃないの?」


「だが、我らの母は我らと同じリクトルヒなのだ」


 ガイウスは、リクトルヒはリクトルヒが産むと言いました。それは龍骨の民でいえば、フネがフネを産むということです。


「ふぇぇ……」


「俺たちには父親と母親がいてな。それがこう――良い感じにくっついて、あれこれすると、母親の中に子どもができるんだよ」


 プリニウスは白銀の相貌に苦笑いを浮かべながら、デュークに父親と母親の事について四捨五入して過不足ない表現で教えました。


「へぇぇ、龍骨の民と随分違うんだね。父親っていうのは良くわからないけれど」


 龍骨の民には、父親の概念は理解が難しいようでした。彼らには、マザーと幼生体、現役船に老骨船というような分類しかないのですから。


「まぁ、気にするなよ。それにな、宇宙には自己分裂して増える変な種族もいるからな。ところで、デュークはまだ子どもなんだろ? 産まれてから何歳だい?」


「何歳? ええと――」


 デュークは、クレーンの先の指を折りながら、産まれてからの日数を数えました。


「ええと100日くらいだったかな」


「おっと、100日って、冗談だろ⁈ 俺たちだったら、まだ赤ん坊じゃないか」


「ほぉ、龍骨の民の成長は早いと聞いたが、わずか100日でそれほど話が出来るようになるか」


 デュークが「そうなの」と言うと、二人のリクトルヒは「これは、おどろきだ!」と言いました。


「変ですか? 普通の事だと思ってたけれど……」


「いや、変でもないかな。産まれた時から大人な種族もいるからなぁ。共生知性体連合には、そんな奴らもいるんだ」


「それも種族のあり方の一つだな」


「なぁ、兄弟とかはいるのか?」


「えーと、こないだ妹が生まれたよ」


 デュークは、ネストの家族構成を説明しました。


「マザーが母さんだろ。老骨船がじいちゃんばあちゃんで、現役の船が、おじさんとか兄貴になるんだな。年が下のは妹とか弟ってことか」


「なるほどな、ところでデュークという名前は、誰につけて貰ったのだ?」


「産まれた時に、お爺ちゃんたちがつけてくれたんだ。昔ネストにいた大きな戦艦みたいに、大きくなりそうだからなんだって」


「ほほぉ、デュークは生まれつき大きいのか。いま、どれほどだ? 100メートルくらいか?」


 プリニウスは、様々な龍骨の民を知っていますが、フネの子どもの大きさ走りませんでした。子どもとはいえ、生きている宇宙船だから「100メートル位ではないかなぁ」と当たりを付けたのです。


「ええと、それは――――そうだ本体を見せて上げるよ!」


「お、その方がわかりやすいな!」


「うむ、デュークの本体を見せてくれ」


 リクトルヒ達が「それは良い」と言ったので、デュークは「待っててね!」と、白く艶々とした活動体を翻して、自分の本体に向かいました。

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