第139話 再びの眠気

「…………ん?」


 メリノーとトックスが訳ありな会話をしている中、手持ち無沙汰にしていたデュークが、龍骨を捩じりました。


「どうしたのよデューク?」


「カラダがおかしいんだ……なんだか、熱くて……痒い……」


 デュークは、活動体の白い表面をゴシゴシとこすりながら答えました。


「あらやだ、ノミでもいるのかしら」


「違うよ! 僕らにそんなものがつくわけないじゃないか……」


 デュークの活動体の肌はモコモコとした質感があって、ヌイグルミなどと言われることもあります。でも、寄生虫がつくことはないのです。


「ん~~なんだか熱をもってるわよぉ~~活動体の熱循環機構がおかしくなってるのかしらん?」


 ペトラがデュークの横腹に手を当てて検温すると、平均的な温度よりも高い温度になっていたのでした。


「確かに赤外線反応が高まっているわね。あ……デューク、眠気はない?」


 ナワリンがなにかを思い出し、デュークに尋ねました。


「あると思う……」


「ああ、やっぱり」


 バイザーを半分ほど降ろしながら、ポヤポヤとした声で答えるデュークを見て、ナワリンは得心が言ったように呟きました。


「え~~病気でもしたのかな~~大丈夫ぅ?」


「ん、大丈夫よ。問題ないわ」

 

 心配そうにするペトラに対して、ナワリンは問題ないと言い切るのでした。


「え、なんでわかるの~~?」


「そっか、あんたは知らないはずねぇ」


 などと言う会話をしていると、デュークの眼はカッチリと閉じ、浮遊していた活動体が床に着陸するのでした。


「始まっちゃったわねぇ……」


 ナワリンは床に落ちたデュークの活動体にクレーンをかけると、うんしょ! と担ぎ上げようとしましたが――


「お、重い……デュークったら、見た目よりも重い……」


 ――デュークのカラダの密度は結構なものらしく、持ち上がらなかったのです。 


「ええと……なにをしているの?」


「話は後よ――メリノーさん手を貸して!」


 ナワリンは、「ふむふむ」「めぇめぇ」と会話していたメリノーに、寝落ちしたデュークを抱え上げるのを手伝ってと伝えます。


「おやおや、どうした――」などと駆け寄ってきたメリノーが手を貸して、デュークの活動体をナワリンの背中にヒョイと載せました。


「おっも……ペトラ、上から牽引して!」


 デュークを抱え上げたナワリンは、ペトラに彼のカラダを釣り上げながら進むように言いました。


「う、うん~~! ……うわ、凄い重いわぁ」


 ペトラがうんせ! っと持ち上げようとしましたが、それでもデュークのカラダはなかなか動かないのです。メリノーもテコの原理で――と協力するのですが、ジワリジワリとしか動きません。


「ほっ、手を貸してやるかのぉ」


 傍から面白げに眺めていたトックスが、フン! と押してやるのとようやく一行は歩を進めることができるのでした。


 ◇


 高速艇の中に戻ったナワリンは、デュークのカラダを「よっこらしょ」と横たえると、「ふ~~」と排気します。


「あのさ~~ナワリン~~」


 ペトラは「これってどういうことぉ?」と尋ねます。


「あんたも、こうなったことあるんだけどねぇ……当事者は気づかないものなのね」


 ナワリンは、ペトラを見つめて、少し呆れたような眼をして呟きました。その横で、重量物デューク運搬に手を貸してくれいたトックスが、興味深そうにデュークのカラダを眺めます。


「これは、繭化というやつかの?」


 そう言ったトックスの目の前で、デュークのカラダの表面がゆっくりとほどけていくのでした。


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