第370話 第一印象

「あれが僕の部隊か……」

 

 デュークが補給船団の最後尾に向かうと、コーギー大佐の言っていた25隻の護衛中隊――護衛フリゲートや小型の哨戒艇などで構成されており、速度性能を重視した部隊の姿が見えました。


「これを僕が指揮するんだな……緊張するなぁ……」


 などと龍骨を固くしたデュークが、取りあえず通信を入れようと電波の声でこのような挨拶の言葉を紡ぎます。


「こんにちは、士官学校候補生デューク・テストベッツです。ここが”僕の部隊ですか?”」


 そして、デュークが艦艇群の返答を待つこと15秒――


「あ、あれ、全然返答がないぞ……」


 本来あってしかるべき返答が一切ありません。15秒で返答がないというのは異常な事で、部隊の練度が極めて低いか、何らかの異常事態が考えられます。


「もしかして、部隊を間違ったかな?」


 間違って練度の低い辺境民の艦隊にでも紛れ込んでしまったかも――通信の移譲は練度の問題かと思ったデューク、座標と艦艇群の識別符号を確かめるのですが、それらはデュークに与えられた情報と合致しています。


「間違いなく辺境パトロール艦隊の護衛部隊なのに、どうして返答がないのだろう……」


 デュークが「ええと、ここは僕の部隊で、僕が指揮を執る……ところだよね?」と龍骨をネジると、ある考えが浮かんできます。


「あ…………もしかして”僕の部隊”って言葉がまずかったかも」


 辺境パトロール艦隊は正規艦隊ではないものの、それなりの格式のある実戦部隊です。指揮官を任じられたとはいえ、部下に対しての第一声が「ここが俺の部隊か」的なセリフに聞こえたかもと思ったデュークは「し、しまった!」と顔面蒼白になりました。


「す、すいません、僕――――」


 彼が全力の平謝りモードに移行しようとした時です。艦艇群からなにやらザワワザワワとしたシグナルが入ります。


「近距離レーザー通信のサイドローブ……な、なにかを話している? ぼ、僕のことを話してる⁈」


 その時のデュークの龍骨には、「中央士官学校のエリート様が偉そうに」とか「あーあ、”俺の部隊”だってよ、わかってねぇなぁ」やら「まじでこれが指揮官どのなのか、無視しとこぅぜ」と、いささか学力に問題のありそうな学校で熱血新米教師がいじめを受けるようなシーンが浮かんでいました。


「ちょ、それは、ご、誤解――――」


 などとデュークが「ご、ごめんなさい、ごめんなさい、僕が悪かったです――――」というセリフを口にしそうになったその時です。


「現在無線封鎖状態、通信は近距離艦隊レーザー通信でな」


「ふぇぇ?」


 突然少しばかりガラガラとした感じの声がしてチャンネルを切り替えるようにと言われたデュークは「あ、こっちか」などとチャンネルを切り替えました。


 すると――


「うぉぉぉぉ目と口が付いた超大型戦艦だ!」

「俺の故郷の種族旗艦よりも大分でかいぞ!」

「すげぇ、あれが俺たちの指揮官殿……か!」


 などと言う大歓声が聞こえたのです。


「ふぇ……」


 デュークが目を白黒させていると、艦艇群の間では「うおぉぉぉぉぉぉぉぉ――!」とどよめいたり、「上げ潮じゃ――!」などとむき出しの喝采を上げたり、「勝った、第四部完!」のように頭がヒートアップしたような良くわからんセリフが舞い上がっているのが分かります。


「う、うわ……」


 護衛戦隊にはデュークがやってくることはすでに知らされていたのでしょう。士官候補生が中隊長という変則事態ではありますが、自分の部隊に超大型戦艦がやってくるというのは、軍人としては大変望ましいことであり、実際にそれがやってくれば大歓喜するのも仕方がありません。


「ええと、どうも、改めまして士官学校候補生デューク・テストベッツです。よろしくお願いします!」


 デッカイ戦艦なデュークは「デカい奴ほど態度は小さくが、生き方のコツじゃ」などと老骨艦に教えられています。そんな彼が実に丁寧な態度をとるものですから――


「これは良い性格をしている。さすが生きた宇宙船だ!」

「ほぉ、中央士官学校のエリートにしては腰が低いぞ!」

「指揮実習の士官候補生殿、我らが部隊にようこそっ!」


 デュークが率いる部隊の将兵は「出来ておる出来ておるのぉ」と頷いたり、「超大型と聞いたが腰は低い。俺ツエエのいきり太郎でなくて良かったぞ!」などと安堵したり、「大尉相当官、大尉殿。指揮官殿、中隊指揮官殿!」などと良くわからん掛け声を上げたりするものが続出するのです。


「よ、良かった……チャンネルを切り違えていただけだったかぁ」


 部隊の指揮を執るということで少しばかり緊張していたデュークなものですから、チャンネルの切り替えを失念していたのです。 初っ端からポカした彼ですが「気づかれなくてよかった」とも安心しつつ、彼の指揮下に入るべき部隊の第一印象が序盤から最高潮となっていたことに安堵したのです。

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