第371話 サポート役の嚮導駆逐艦
なんやかんやとありましたが、指揮下に入る部隊の各員から歓迎されたデュークは部隊指揮の構築に入ります。
「これから艦長会議を開催します。実際に会って話をしたいのですが」
これまでデュークの背中にあった司令部ユニットは討伐艦隊指揮部隊に配備されているため、彼のカラダの中で会議をすることはできません。
「どのフネが適当でしょうか?」
と、デュークが尋ねると――
「なら、ワシのところで会議じゃな」
龍骨の民が一隻スルスルと抜け出て、電波の声で「ワシは嚮導駆逐艦じゃけん、他種族が入れる会議室も備わっとる」と言いました。
「あ、同族の方がいたのですね。ええと、スズツキさんですか」
「そうじゃ、
塩気にやられたガラガラ声と、少しばかり草臥れた装甲を持つところから60に手の届きそうなフネであるスズツキは、「安生よろしゅうたのんまっさ、指揮官殿」などと屈託のない口調で応じました。
「では、ミニチュアで向かいます」
デュークは早速、活動体に入りパシュ! っと自分を射出して、スズツキに向かうのですが――
「こちらに来るまでちょいと話をしようや」
「はい。あれ、これって秘匿回線ですね?」
スズツキから電波の声が飛んできます。龍骨の民は顔を合わせればとにかくお喋りや世間話をする生き物ですから特に問題はないのですが、その会話には他に聞こえないように暗号化がなされていました。
「他の奴らに聞こえんようにな……我さん、さっき通信の切り替えを忘れとったな。初めての部隊指揮でテンパっておったろ?」
「あ、さっきのフォローは貴方のものでしたか。バレてたのですね、うわぁ、恥ずかしいなぁ……」
「それは気にせんでもええよ。我さんは新品少尉みたいなもんじゃし、さっきも言うたがワシの仕事は我さんのフォローじゃけん」
デュークは恥ずかしさでいっぱいになるのですが、スズツキは「それくらいでええんじゃ、初々しいくらでな」と一笑いしてから、このような事を言うのです。
「ワシは最先任特務上級曹長で准尉を務めておるけん、なんでも聞いてくれ」
「最先任の特務で上級な曹長――スズツキ准尉どの、よろしくお願いします!」
最先任特務上級曹長はベテラン中のベテランであり、士官ではないものの准士官という立場で軍隊の要の役割を担う重要な存在ですから、決しておろそかに扱ってはいけません。その上相手は龍骨の民の大先輩でもあり、デュークは素早くかつ丁寧に礼を言いました。
「かっかっか、准尉殿ってのはやめてくれ。ワシの事はスーさんとでも呼べばいい」
カラカラと笑ったスズツキは「辺境パトロール艦隊は結構フランクなところじゃけん。指揮官も部下もそのような愛称やあだ名で呼びあうんじゃ」と説明しました。
「我さんの呼び名も決めんといかんな。艦種は超大型戦艦じゃからなぁ……」
スズツキは「ここらじゃデカいフネには、ヤマッテ、サッシー、マホロバルみたいなあだ名がつくのじゃが」などと、艦首を捻りながら謎な名前を漏らしてから――
「我さん
「あ、それでお願いします。それにしても雪の侯爵の旗艦名を知っているということは、メカロニア戦役の事を知っているのですね。でも、情報統制されてたはずじゃ」
「おおよ、なんじゃ変な軍やら執政府の介入があったが、龍骨の民のネットワークはスゴイからの」
他の種族からすると「あ、またフネがお喋りしている。しょうがないなぁ」位にしか見えませんが。龍骨の民は本当におしゃべりは、実のところ軍のネットを飛び越えて知らないうちに情報がフネ達の間に広まるという恐るべき裏の情報網となっています。
「分艦隊の旗艦を務めて大活躍したと聞いとる、若いのにえらいもんじゃ。でもって生きておるのに、沈んだことになっとるのは執政府と軍の配慮か。まぁ、若い英雄として祭り上げられたら碌な事にならんからの」
スズツキは「若き英雄、そんなもんは政治権力側からすればプロパガンダの良い材料じゃが、当の本人のためにならん」――そんなことを言いました。龍骨の民は政治の類に疎い生き物ですが、さすがに60近く生きてくるとそれなりに物が見えてくるようです。
「ともかくよろしくお願いします、スーさん。でも、なんていうか、随分と特殊な言葉遣いをされておられますね」
「ああ、辺境暮らしが長いもんで、ここらの方言が移っとるんじゃ」
「へぇ、言葉が移るほど、辺境におられるのですね」
龍骨の民の言語体系は龍骨に仕組まれた銀河標準語コードがベースなのですが、長く生きていると様々な言葉を学習して、時にはスズツキのように訛りが入る事もあるのです。
「あと、スーさんは嚮導駆逐艦ですけど――」
スズツキの識別符号を改めて確かめたデュークは、彼が嚮導機能が備わった駆逐艦だと再確認してからこう言います。。
「スーさんとは、どこかで会ったことがあるような気がするのです」
「ほーん、そりゃぁ多分ワシの兄弟
「うわぁ、兄弟が多いんですね」
龍骨の民は同時期に生まれたフネを兄弟としますが、スズツキの氏族であるゾウ・センジョ氏族は、ボセサ・ルヅイマ・ガラウ・キサガナ扉と呼ばれる誕生の扉が四つもある多産な氏族でした。
「じゃぁ、フユツキさんかも。あの方も嚮導駆逐艦でした」
「お、フユか! あいつは8番艦じゃ、どこぞで出会った?」
「
「ああ、デュークを先導したのはフユじゃったか。そういやフユは3年前に退役しとったな」
引退するフネは最後の花道として、幼生体からフネになったばかりの若い同胞が星の世界に飛び立つのを手うものです。
「フユは戦で大けがをしてな、ガタが来るのが早かったんじゃ」
龍骨の民の退役年齢は大体60歳くらいで、ガタが来るまでは現役延長がなされるのですが、回復不能だったり機能が著しく低下するような傷を負うと逆に早まることもあるのです。
「ワシはまだ現役、おかげさんで大した怪我もせずにここまでこれたけん。じゃが、あと1年もすりゃガタが来るじゃろ」
そう言ったスズツキはそれなりに皺の寄った装甲板を叩きながら「いささかクタビレた老艦がサポート艦ですまんのぉ」と詫びるように言いました。
「そんなことないですよ、60年近く戦いぬいたベテランの猛者ってことじゃないですか。そんなフネにサポートしてもらえるなんて、凄く頼もしいですよ」
「ふはは、デカいフネのお前さんが来てくれた事の方が全然頼もしいがな。ともかく、ワシが全力サポートしてやるけん、存分に経験を積むのじゃ指揮官殿」
「はい、頑張ります! 改めてお願いします」
こうしてデュークは、熟練のそれも辺境経験の長いフネのサポートを受けて、初めての部隊指揮経験を積むことになったのです。
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