第372話 中隊長として

「中隊長到着、総員敬礼!」


 スズツキの後背部に生えている指揮個居住ユニット、その一室でデュークの指揮下に入る艦長達が右こぶしを額の前や側面に掲げます。 部隊の規模が小さくフリゲートよりも小さな水雷艇の艇長も参加していますが、ある意味全員が士官として先輩にあたる士官でした。


「よろしく願いますっ!」


 デュークは緊張しつつミニチュアのクレーンをサッと振り上げ答礼――可愛らしいシルエットな彼が敬礼をすると、いつもは少しばかり戯画めいた光景になるのですが、さすがに今回は部隊指揮を執るということで、それなりに気風と色気のある士官たるに相応しい態度をとりました。


「これより艦長会議を始めるけん、皆座ってくれや」


 駆逐艦スズツキが会議の開始を宣言しました。彼は准尉ではありますが、超ベテランな上に嚮導機能もちの部隊の中核的存在なので、こういう会議では司会役を務めることが多いのです。


「まず、自己紹介からだの。ボスから一言頼むわ」


「はい、僕はデューク・テストベッツ、デュークと呼んでください」


 続けてデュークはこれまでの戦歴について簡単に要約した話を続けます。そのデータは事前に配布しているのですが、艦齢5歳に届かないという生きている宇宙船にしては異常なくらい濃厚な経験談でした。


 それを聞く艦長達の心の中は――「ほぉ、反対側の辺境星域でニンゲンどもとやりあったのが初陣か。おいおい単艦でミサイルを1000発以上も打てるのか」とか「主砲もすごいな、当たれば巡洋艦クラスは一撃だぜ。すごい戦艦だな」やら「分艦隊旗艦として艦隊パンツァーカイルの矢じりを担当ねぇ、羨ましいような恐ろしいやら」などと、デュークの戦力が見掛け倒しでないことに安堵するものでした。


「でも、ご存じの通り実習中の士官候補生ですから、部隊指揮は初めてです」


 デュークは「船団護衛任務は何度もやっていますが、その部隊指揮経験はありませんし」と正直に謙虚に事実を伝えます。彼はかなりの実戦経験者で超大型戦艦ではありますが、個人的な戦績および戦力と、部隊指揮能力の間にはなんらの関係もないことを知っていました。


「だから部隊指揮については皆さんのお力をお借りします。基本的にはオーソドックスな体制――三小隊をそれぞれ、前衛、中央、後衛に分け、指揮権は各小隊ごとに

動いてもらいます」


 船団護衛の基本形を保ちつつ、各小隊に判断の大きな部分を任せるというのがデュークの判断でした。中隊とは30隻ばかりの部隊でありその長が声を上げれば、全ての艦艇一隻ごとに指示を出せなくはありませんし、そのような部隊運用を行う中隊長も存在するのですが、デュークはマジモンの初心者なのでそのような判断はできません。


 それを聞いた艦長達は「メカロニア戦役の英雄にしてはやはり謙虚だな」とか「ふぅむ、若いが物が見えているのだろう。なるほどテストベッツか」やら「龍骨の民で中央士官学校のエリートになるとは普通は変人だが、この子はまともだな」などと好意的な感想を漏らします。


「僕は嚮導駆逐艦のスズツキさ――いえ、スーさんとともに中隊本部を形成し、中央部隊と並行します」


 実際のところデュークの判断は良い判断です。部隊指揮に限りませんが、マネージメントの初心者がやりがちなのは”俺がなんとかしないと!”などと、プレイヤーになるという落とし穴にハマる事なのですから。


「でも、それでも間違ったことをするかもしれません。その時は間違っていると言ってください。皆さんよろしくお願いします」


 自分より若造がまともな基本方針を示した上で「助けてみんな!」と言っているのです。辺境パトロール艦隊所属の艦長達は「なるほど」と納得しデュークの命令に完全に服すと言わんばかりに、サッと拳を掲げました。


「それじゃ小隊指揮官だけ残ってくれい」


 スズツキがそう言うと、各艦艇の中でも小隊を率いる部隊指揮官だけが会議室に残り、他は退出したのです。

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