第327話 逃がした獲物は
「
重力波の汽笛は生きている宇宙船の縮退炉によるエネルギーを、龍骨の民が持つ強固な歯を用いて指向性を持たせた重力子を投射する警笛であり、重力波とは距離の二乗に反比例してその力が減退するものですから、本来的な機能としては相手方の重力子センサが拾うことを前提としたものなのです。
とはいえ、デュークの縮退炉のパワーは共生宇宙軍の中でもトップクラスのものであり、その上海賊どもは拿捕のためにわざわざ近距離にまで近づいてくれていた上に――
「
「
デュークの雄たけびと同時に、ペトラとナワリンもグラヴィティな叫びをあげているのです。彼女たちはデュークとの距離をうまいこと調整しており、これによって重力波の波が海賊たちのところで共鳴する形になっていました。
1足す1足す1は3どころではなく、重力波の相乗効果が合わさることにより三乗倍のパワーが生じることで――
「う、うわぁ――――――時空震か?!」
「ゆれるぅぅぅぅぅぅ――――――!?」
直前までは茫然自失のまっさらけな面持ちでいたところに、局所的な時空震に襲われた海賊たちは上下左右天地無用とばかりに振り回されることになるのです。
「あいでぇっ!? 畜生、スパナが頭に当たりやがった!」
「て、天井が落ちて――――うわらばっ!」
本来であれば恒星宇宙を飛ぶような艦船には重力干渉装置が備わっているので、時空震に対応できるはずなのですが、近距離から突然浴びせられた重力波により固定してなかった道具が飛んできたり、安普請の天板がストーン! と落ちてくるはで、大変な大惨事が巻き起こるのも仕方がありません。
さて、海賊たちの頭目である、サン・バルドーはといえば――
「ぐっ…………」
などと、空間ごと揺さぶられ、歯をかみしめながらグッとこらえながら、次のような言葉を漏らします。
「連合の戦艦……これは、重力波の汽笛、か…………」
彼も
「ここは逃げの一手!」
バルドーは、わたふたと慌てふためく手下どもを無視して、「緊急加速だっ!」と緊急用のブースターの点火装置をたたき割るようにして押し込みます。同時に核パルス燃料の閃光がガッ! っと煌めいたのですが――――
「う、うごかんだとっ⁈」
彼の座乗する海賊船はうんともすんとも動く気配はありません。本来であれば緊急用のブースターは乗組員の命に係わるくらいの加速を生み出すのですが、それがまったく効果を産んでいませんでした。
「ば、バルドー、艦尾が抑えられているわ!」
参謀役であるバルドーのおかんバーキが「なんだかデッカイ手みたいなものが見える――それにこれはっ」と絶句しました。彼女は宇宙の魔女と言われるだけの女傑なのですが、なんだかとっても唖然としたような表情になり、そして震え始めたのです。
「は、母上――いかがされたっ!」
海賊皇帝ドン・ボラ―の一人息子ながら、両親に孝行を欠かさぬ息子であるバルドーは、宇宙の魔女と呼ばれる女傑――頼りになるおかあさんがガクガクブルブルする姿に「何が起きたかっ⁈」と驚愕し、そして――
「巨大な、めだま……だ?」
と、とんでもなくデッカイ目の玉がこちらをギロリと睨んでくる光景に「なんじゃこりゃ――――!」と咆哮せざるを得ず、海賊皇帝の息子の尊厳も誇りもへったくりもない様相をしめます。
その時、バルドーの乗る海賊船はデュークの巨大なクレーンにつかまれ、緊急加速用のブースターの行足を殺された上に、デッカイ目玉を見せつける当の本人から「へぇ、これが宇宙海賊の親玉かぁ」などと観察されていたのです。
「おいおい、親玉じゃねーぞ、そいつは。データによれば、親玉の子供だそうだ」
デュークの背中にある高速機動艇の艦橋で、スイキーは共生宇宙軍のお尋ね者リストを眺めながら「俺っちと似たようなやつなんかなぁ?」などと小首を傾げました。
「まぁいいや。早くふんじばっちまえ」
「ええと、拿捕拿捕……」
スイキーの命令を受けたデュークはクレーンの先を使って、どこぞから持ち出したワイヤーのようなもので、海賊船をフン縛ろうと工作を始めるのですが――
「あれれ、この海賊船変だよ」
「なにが、変なんだ」
「ユニバーサル規格の接合部を持ってないんだ」
「ああ、独自規格系なんだな」
ユニバーサル規格とは、共生宇宙軍で使用されている汎宇宙的規格の事です。これは恒星間勢力の多くで使われている互換性の高いもので、あのニンゲン族ですら用いているという恒星間宇宙の中でもかなりスタンダードなものなのですが、時たまこのに合致しない企画も存在します。
「さすが、辺境ってことか。まぁいい、溶接でもなんでもして、拘束してしまえ」
「そうだねやってみるよ」
拿捕しに来た海賊船を逆に拿捕しようと、デュークはクレーンの先――彼の指先には溶接機やら溶断機やら様々な機械がついています――を伸ばして海賊船を固縛しようと試みました。
「っと、ブースターが点火してるから、変なベクトルが……あれ、あれれ」
「なにをやっとるんだ……」
ですが、デュークが四苦八苦するのも仕方がありません。生きている宇宙船の腕と手はかなりフレキシブルでパワーがあるのですが、細かいことは苦手なのです。
「暴れないでよぉ…………」
デュークが溶接機を仕込んだ指先を海賊船に近づけたその瞬間のことです。なんだかじたばたしている海賊船の艦腹あたりに溶接機で作業をしていると――
「わっ!?」
突然、海賊船が吹かしていたブースターが、なんの前触れもなく爆発しました。
「なっ…………⁈」
対消滅ブースター程ではないといっても、緊急加速用の核加速ユニットはそれなりの熱量があり、その爆発の勢いは海賊船を手中に収めていたデュークのクレーンを弾き飛ばします。
「いかん、やつらが逃げる! はやく捕まえろ!」
「だめだ、指先をやられた――――いたたたたたた!」
せっかく捕まえていた海賊船を逃がすなとスイキーが言うのですが、突然の爆発でクレーンを先をしたたかに叩かれたデュークは「い、いたたたた!」と瞬間的な虚脱状態に陥ったのです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます