第207話 精鋭部隊突撃
ミサイルと重徹甲弾、水雷戦隊の突撃、主砲の嵐が巻き起こり、大混乱を見せる機械帝国の艦列にデュークが飛び込みます。
「あれぇ、抵抗がほとんどありませんよ」
「させるつもりは、無いからな」
機械帝国軍の前面に勇躍前進したデュークに向けての抵抗はほとんどありませんでした。彼はゼリーにナイフを差し込むように軽々と戦線に浸透することに成功したのです。
「ではラスカー大佐、旗艦の戦闘指揮は任せる。私は全艦の指揮に専念する」
「任されました。よぉし、デューク。撃ちまくるぞ!」
「はい!」
アライグマ族のラスカー大佐の戦闘指揮を受けながら、デュークは主砲の即時射撃態勢を整えます。
「右砲戦――――射法、散布射撃、目標敵駆逐艦戦隊!
「ばらまきます!」
デュークは主砲を振り回して、レーザーを雨のように放ちます。散弾のように発射されたガンマ線が機械帝国の駆逐艦集団に飛び込むと、敵艦はたちまち航行不能になるのです。
「脚の止まった駆逐艦は捨て置け! 次は左砲戦――目標、敵重巡! 射法、収束射撃、
「狙って、狙って……そこだっ!」
弾庫にあるポジトロニウムが連続起爆すると、強力なエネルギーが一筋の流れとなって飛び出し、立て続けに重巡洋艦にヒットします。巡洋艦は前面装甲を吹き飛ばされ、戦闘能力を完全に失いました。
「旗艦に遅れを取るな! 背中を守るんだ!」
「目標右舷敵艦、舷側陽電子砲、即成射撃――――!」
「光子魚雷をばらまけ、混乱を助長しろ!」
彼に続行する重戦闘部隊も同様にして、行き足を止めることなく射撃を継続しながら付いてきます。
「おらの畑を返せ――!」
「百姓をなめるな――!」
「打壊しじゃ――――!」
黒々とした皮膚を持つ化け物めいた肉食獣のシルエットを持ちながら、実のところ農耕民族である種族たちがキシャ――! とした鳴き声を上げて装甲の薄い駆逐艦に射撃を加えました。「豊かな農村」と書かれた旗を掲げ、どこぞの一揆衆めいたセリフを吐いているのは、彼らの
「あれは撃ってもいいので
「大丈夫
「では撃ちますね、カムパネッラさん。光子魚雷を使います」
「それがいいで
メカロニアとは別系統の機械生命体二体が、やや古めかしい言い回しで穏やかな会話をしています。しかし、その口調とは裏腹な物騒極まりない命令がくだると、回転式の砲塔から次々に対消滅弾頭が放たれるのです。
機械生命体達は爆裂する敵艦を眺め「ああ、戦争は虚しい」「早く終わらせねば」と呟きます。彼らは基本的に平和主義者なのですが、別段無抵抗主義というわけでもなく、連合の敵ともなれば容赦は無いのです。
「機械帝国の諸君、
「
病的なまでに青白い肌をした艦長が乗る戦艦が主砲でご挨拶をするのですが、機械帝国側からの応射は全くありません。
「メカどもは、礼儀がなっておりませんな。教育が必要でしょう」
「では、艦首軸線砲を用意してくれたまえ」
艦長と同じ様に病的なまでに青白い肌をした副官が冗談交じりにそう言うと、艦長は諧謔に満ちた表情を浮かべ、艦首に据えられた大口径粒子砲の射撃準備を命じます。
「艦首軸線砲、発射準備完了しました」
「メカどもよ、思い知るがいい…………ふふふ」
実に渋い声でどこぞの敵役のようなセリフを呟いた艦長が、自らトリガーを引きます。放たれた艦首軸線砲の威力は相当なもので、その射線上では立て続けに爆発が起こりました。
「ふむ、戦意は上々だな」
カークライト提督は後続する各艦の戦闘状況を確かめて満足げな表情を浮かべました。彼が選びぬいた各種族の精鋭達は強力な打撃力を遺憾なく発揮し、戦果を拡張するとともに、敵の士気統制を著しく低下させていたのです。
「……悪ノリがすぎるヤツらもいる気がするが」
各艦からの通信を確かめたカークライト提督は苦笑いしました。でも、共生知性体連合は1000以上の種族がいるので、どこかで見たような連中がいたとしても、それはただの偶然です。
「旗艦、第二線を突破しました!」
「よろしい、さらに前進」
提督の命令を受けたラスカー大佐は可愛らしい顔に素敵な笑み――攻撃的な猛獣のそれを浮かべながら射撃指示を取り続けます。
「左舷弾幕薄いよ、何やってんの⁉」
「さ、左舷ですかぁ? いつもより多く撃ってる気がするんですけど」
「気分の問題だ! とにかく糸目をつけずに撃ちまくれ!」
大佐は口の端から泡を飛ばしながら、「左舷、ホーミングレーザー!」と叫びました。彼は「右舷魚雷発射管、本命を叩き込むぞ!」「行きがけの駄賃に、粒子砲をぶち込め!」などと咆哮してもいます。
「あれ、レーザーってホーミングするんでしたっけ?」
「だから、気分の問題だ! 気にすんな!」
「は、はい……。じゃ、主砲第15射目、いきます!」
純朴なデュークは、士気が高くなりすぎて世迷い言のようなセリフを吐き始めたラスカー大佐に真面目に付き合い、レーザーで敵を薙ぎ払いました。
その様にして機械帝国の戦線内部に食い込んだ彼らは、破竹の勢いで前進を継続し第三線までを撃ち抜いてゆき、敵を混乱させ続けます。でも、それはいつまでも続くものではありません。
デュークが敵の第三列――指揮官部隊がいると想定される位置まで進出すると、キカッとした光線がピシャリと鼻面を掠めました。
「うわぁ、どこから撃ってきたんだ?!」
「射点特定、三時の方向、今のは測定射と思われます」
「ふむ、戦艦を中心とした部隊がいるな。艦首正対」
戦闘指揮所にいるラスカー大佐が、デュークの前方に現れた敵艦の様子を報告します。カークライトは機械帝国の艦艇が密集している場所をギロリと睨みつけました。
「数は2000隻ほど――有力な部隊ですな」
「その上、これまでとは違って統制が取れているか。では、本腰を入れて仕事をこなすとしよう――全艦、応射せよ!」
カークライト提督は、全隊に主砲戦を命じました。共生宇宙軍の艦艇がレーザーをドカドカ! と放つと、相当数の帝国軍艦艇に被害が出るのですが――
「効果大――なるも敵部隊今だ健在」
「乱れんな。ほぉ、両翼を伸ばしてきたか」
デュークの前で展開する機械帝国の部隊は多少の損害には構わず、戦艦を中心にした本隊の両脇から手を広げるようにして艦艇を進めてくるのです。
「敵部隊、半包囲の陣形を構築しつつあります。火力を集中されるとまずいことになりますぞ、どうしますか?」
「ふむ……では、プランBでいこう」
ラスカー大佐の問い対して、全艦にプランBの発動を命じたカークライト提督は、「中央突破は、少しかき回してからだ」と告げたのです。
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