第187話 追撃
「敵艦隊、追ってきます!」
「いやはや、しつこい奴らだ」
ペパード大佐の率いる共生宇宙軍同盟星系駐留部隊は、機械帝国の出鼻をくじこうとヒットアンドアウェイによる限定的攻勢を掛けていたのですが、機械帝国の先遣隊から猛烈な追撃を受けていました。
後方から、レーザー光線がビシバシと飛んできます。追ってくる敵は1000隻ほどの小艦隊といったところですが、こちらは300隻ほどの艦艇しかおらず、逃げの一手を打つしかありませんでした。
「ちょこっとばかりピンポンダッシュしたら、全力で追いかけてくるとはなァ」
「ぐぬぅ……自分の家の様に振る舞いよる。けしからんヤツらだ」
連絡武官として、ペパード大佐に随行している、ゴルモア星系軍のティ大佐が唸り声を上げました。自分たちの星系に土足で踏み込んできた機械帝国に憤りを感じているのです。
ドン! ペパードが座乗する重巡洋艦バンバンバンが、わずかにゆらぎます。
「後部艦外障壁に被弾――まぐれ当たりですな。余裕は残り95%。まだまだいけますよ」
バンバンバン艦長シュルツ艦長が、冷静な報告をしました。
「ですが
ベネディクト参謀が部隊の置かれた状況を端的に報告しました。追撃によって被害が出始めたのです。
「よし、機関に被弾した艦は横方向へ避退させろ。艦外障壁に余裕が無い艦は、前方へ回せ」
ペパード大佐は、速度の出なくなったフネには艦を捨てろと指示を出しました。総員退艦となったフネは機関を暴走させて、大爆発を起こしますが、その程度では追撃部隊の脚が止まることはありません。
「敵艦隊なおも追撃――――! ひぃぃぃ、打たれてる打たれてる!」」
「よぉし、追ってこい、追ってこい! どんどん追ってこい!」
「くははははっ、豪気なことだな!」
参謀のベネディクトは不定形な顔を歪ませ、青い顔をしているのですが、ペパードとティは余裕のある笑みを浮かべました。
ドン! とまた被弾の衝撃が重巡洋艦バンバンバンを揺さぶります。
「きぃやぁぁあぁぁぁ――!」
「落ち着け参謀少佐」
シュルツ艦長は、ベネディクトに落ち着くように言ってから、「ペパード大佐、そろそろですよ」と言い、こう続けます。
「宙域特定シグナル確認しました。1・2・3……抜けました」
「機関全速、進路そのまま、ようそろ―――!」
バンバンバン率いる共生宇宙軍駐留部隊は、全力航行を開始しました。後方からはあいも変わらず機械帝国の艦艇が追いかけてくるのです。
そして――――
「て、敵艦艇ポイントに侵入します」
「よぉし…………爆破、爆破、爆破!」
――機械帝国の艦艇があるポイントに入った瞬間、ペパード大佐がダカダカダカっと、コンソールにコマンドを打ち込みます。
すると機械帝国の艦艇の周囲で、大量の爆発と閃光が巻き起こりました。大量にばら撒かれ、隠蔽されていた空間機雷原が一斉に起爆したのです。
「たぁまや――――!」
追撃に気を取られていた機械帝国の艦艇は、大混乱に陥り艦列を乱しました。
「小惑星ミサイル――来ます!」
「ナイスタイミング!」
ペパード大佐の部隊の脇を、小惑星に推進装置を付けた質量兵器がくぐり抜けます。そして、そのまま機械帝国の艦列に飛び込みました。
一時的な指揮系統の混乱に陥っていたマシーンの艦隊は迎撃行動も、退避行動もままならず、速度の乗った小惑星ミサイルの打撃を受けたのです。
ペパード大佐は、追撃を想定して、この様な罠を仕掛けていたのです。大打撃を受けた機械帝国艦艇は追撃を停止しました。
「よし、大打撃だな!」
「ぐはははは、我軍の小惑星ミサイルもなかなかのものだろう」
ゴルモア星系軍は、質量兵器の運用に長けているのです。技術レベルが低くとも、質量という武器があれば、星間戦争を遂行できるという証左でもありました。
ペパード大佐とティ大佐はニヤリとした笑みを浮かばせて、それまで我慢していた葉巻とタバコに火を付け、ブハァと紫煙を盛大に撒き散らします。
恐竜顔のペパード大佐と、ゴツゴツした顔のティ大佐が、「ガハハ、勝ったな」「ゴルモア星系軍をなめるなぁ――!」などと言いながら、煙で艦橋を汚すので、ベネディクト少佐はとても嫌そうな顔をしました。
「しかし、まだ来ますな」
タバコの煙を気にもせず、シュルツ中佐がそう言います。
「だろうな、おい。後ろはどうなっている?」
「やはり――次の部隊が進出してきます」
赤外線反応を探査していたベネディクト少佐が、呆れ声を上げました。後方では機械帝国の新たな艦艇が続々と星系内航行を開始したことを示す赤外線反応が現れています。
「ふぅむ、呆れたものだな」
「何万隻もいるのだから、しかたがありませんな」
「もう少し嫌がらせはできるか?」
「難しいですね、手持ちの爆雷はすべて使い尽くしました。我が部隊の損傷も目に見えてきています」
「そうか……では、予定通り第13惑星に行こう。あそこならば、脚の遅い我軍の艦艇でも働き場ができる。そろそろ我がゴルモア星系軍も血を流す頃合いであろうからな」
そのようにして、ペパード大佐率いる共生宇宙軍と、ゴルモア星系軍は足並みを揃えて、機械帝国の艦艇を足止めしていたのです。
◇
その頃、デュークを旗艦とする第三艦隊分艦隊は、短距離超空間航行の後、とある星系の中に入っています。
「うわぁ、本当に星系内でスターライン航法ができるぞ!」
「しかも凄く速いわ!」
「わぁ~~~~通常の10倍の速度を越えた~~!」
デューク達の体は、とんでもない勢いで加速を初めていました。それはこの星系の中心にある天体を利用したスターライン航法がもたらしたものです。
天体の量子的な繋がりを利用するスターライン航法の速度は光速の100倍近くにもなります。しかし、基本的にはそれが限界であり、また星系内で使用することは非常に難しいものでした。
「だが、超重力源――ブラックホール同士のつながりを利用すれば、それが可能なのだ。これで次の星系まで2日で到達出来る」
この星系と、次に向かう星系の主星は、過去に超新星爆発を起こしたブラックホールだったのです。
「星間ポッドレースで、時折使われるショートカット法なのだ。数千隻の艦艇で大規模船団運用をしながらというのは、前代未聞だろうがね」
星間ポッドレースとは、超空間を使わずにどれだけ速く目的地につけるかという競技です。そのトップ選手たちは、ブラックホールを利用したスターライン航法を多用していました。
「なるほ………………うわっ?!」
カークライトの説明に、デュークが納得の声を漏らそうとした時でした。デュークの体がガタガタと揺れ動きました。
「重力震警報――!」
「やれやれ、ご機嫌斜めなようだな」
カークライトは、航法の状況をざっと眺めてからそう言いました。ブラックホールを使うというこの航海方法は、緊急時にしか使えないものだったのです。
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