第220話 解除方法 その1
アーナンケ推進部隊の各艦艇が縮退炉のパワーを緊急出力へ上げる中、デュークたちも同じようにして、自身の心臓に掛かった制御を外そうとしていました。
「縮退炉周りにコネクト――お腹がポカポカしてるわ」
ナワリンが自分の心臓のあたりに意識を集中させています。自分のカラダのなかはよく見る事はできませんが、光子回線や電力線、エネルギーパイプの管、液体水素の配管などの配置をなんとなーく感じることで、ぼんやりとした構造を知ることができるのです。
「超構造体のブランケットとか、重力制御棒とか、超硬耐圧パネルとか、超炭素ワイヤーとかを感じるねぇ~~!」
ペトラも同じように、縮退炉があるお腹の辺りの部品構成を確認していました。
「いつもより、よく分かる気がするなぁ。あ、うっすらとだけど、ぼんやりとしたナノマシンの塊を感じるぞ!」
同様にしてデュークもカラダの中を感じ取るようにしています。
「マックスパワー状態だけど今は加速が15Gくらいに抑えられているから、カラダの中がよく分かるかもしれないわね」
「なるほど、そういうものなんだね」
「わかりみ~~!」
三隻の縮退炉のパワーは既に定格出力に引き上げられています。その状態で頭を抑えられた状態だと、激しく動き続ける体内の動きがよく分かるようです。
「じゃ、リミッタを解除するわ。やり方は習って無いけれど、多分、龍骨のどっかにコードが落ちてるわよね?」
ナワリンが自分の龍骨の中に、制限を解除するためのコマンドコードがないかと確かめます。艦齢数年のまだ若いフネである彼女ですが、様々な経験をするうちに、龍骨の中のコードをなんとなく感じるだけではなく、目当てのものを検索する術を覚えていたのです。
彼女が龍骨の奥底に向けて「縮退炉、リミッター解除」とポヤポヤっとしたあいまい検索を掛けると、「検索順位のいちばーん。これだわ多分」と、なにやらそれらしいコードが一発でヒットしました。
「なになに……あら、これってばご先祖様の残した文章だわ。タイトルがついてるわねぇ、”ヴィクトリー・カイシュウの時局放談”――――」
ナワリンがコードをしげしげと眺めるとヴィクトリー・カイシュウなるご先祖さまの名前と、次の様な文章が浮かぶのです。
『さて、おれが超光速ブースターを装備して、いよいよ未知の星系に出帆しようという場合になると、執政府ではなかなかやかましい議論があって、容易に承知しない。そこでおれも、「べらぼうめ! このビクトリー様が、自ら新大陸――ならぬ新星系へ行くのは、宇宙軍の名誉である! だまって道を明けろ」と主張して、とうとうシンビオ歴1860元年の正月に、首都星系を出帆することになったのだ。』
「あら、これはご先祖さまの日記みたいだわ」
文章は『いやはやあの航路はひでぇもんだったゼ。四六時中ガタガタブルブルと揺さぶられて、腹の中がグルグルと回っちまった。ぶっちゃけたところ、ゲェゲェと戻しながら前に進むしかねぇんだから――正直たまったもんじゃなかったヨ』と続きます。
「うわ、ご先祖さまもドラゴン・ブレスしてたのね……」
ナワリンはご先祖が残してくれた手記を読みながら、縮退炉のリミッター解除の方法を調べます。なお、ビクトリーさんは俺とかいってますが、アームドフラウのフネなのでこれでも女性です。
「で、リミッター解除の方法はっと、ああ、これこれ、ええと制御棒で縮退炉を殴るのかぁ。でも、順番を守らなければいけないって書いてあるわ。まずは、上上下下左右左右――」
ナワリンが大声を上げながら、縮退炉の周りにある制御棒をコントロールし、「BABA! 小浪粉味!」とわめきながら縮退炉をバシバシと叩きました。
「次はっと……イド人を右に――――イド人ってだれよっ!」
イド人とは、軟体でありつつマッシブな種族であり、ニョインーン! と伸びる手足が特徴の種族です。
さらにナワリンは「スーパーラリアッウエッ!」とか「しゃがみ大パンツ!」などと言った、古き良き時代の誤植のようなヘンテコなコードを口にしながら、制御棒で縮退炉を叩きました。
「はぁはぁ……本当にこれでいいのかしら……」
ナワリン「文体がここだけオカシイのよねぇ」と疑ります。でも、それは縮退炉を開放するために必要な祝詞のようなものなのですから、絶対に必要なことなのです。
そんな
「ええとぉ、なんだかそれっぽいタグがたくさんついた映像データがあるよぉ~~! これが一番適合率が高いから、多分、これだね~~!」
ペトラが取り出したコードは動画のデータの形をとっていました。何故かそれには視聴するためのコーデックスが添えてあり、ご丁寧に再生ボタンまでついていたのです。
「再生ボタン、お~ん!」
彼女が迷わずボタンをポチると、龍骨が明るく光りパッパラパー! という軽快な音楽とともに――
『フネにしては商売上手な俺達特攻船団は、濡れ衣を着せられ当局に逮捕されたが、連合刑務所を脱出し暗黒星雲に潜った。しかし地下でくすぶってるような俺たちじゃあない。筋さえ通りゃクレジット次第でなんでもやってのける命知らず。不可能を可能にし、巨大な
「俺達、特攻船団Bチーム!」は、葉巻を横咥えにしたロマンスグレーの商船、なんでも集めてくるイケメンの貨物船、心も体も大きくて執政官でも殴って見せるタンカー、目がいっちゃてるけど操縦技術はピカイチの高速客船が、宇宙を股に掛けて活躍する大冒険活劇のようです。
「ほぇ~~面白そうだけど、このご先祖さまの記憶は、なんでドラマ仕立てになってるのかな~~?」
それは多分、ご先祖様が動画編集が好きだったのでしょう。
細かいことは基にしない性質のペトラはそれ以上の疑問を感じることもなく、たくさんあるお話の中から「激走! 爆走! 大逃亡――!」という回に、縮退炉のリミッター解除の方法が有る気がしたので「これだぁ~~!」と視聴を続けました。
『やれば出来るはずだエンジェル! 縮退炉の制限を解除するんだ!』
『わかったわ、ハンニバル』
映像の中に、天使の二つ名を持つ準レギュラーのフネが出てきました。彼女は
「なるほどね! こうすればいいんだ~~!」
映像からヒントを得たペトラは「縮退炉に電力をリバースするんだよぉ~~!」と縮退炉が放つ電力を蓄電池に溜め込み、また戻すということをはじめました。
龍骨の民は機械的な生き物ですが、その体内の作りは個別のフネごとに違っているので、縮退炉の制御を解除するために必要な行動にも大きな違いがあるのです。
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