第141話 岩石種族ロッコの歴史

 なにやら深刻な報告が、セントラル・コアの奥底で行われている中、デューク達は、高速艇に乗り込み、一路共生宇宙軍艦隊根拠地へと向かっていました。


 根拠地に用があると言うメリノーと岩石種族のトックスを乗せて航路を進む中、高速艇に通信が届きます。


「通信が来たわ~~、デュークの本体も繭化してるって~~」


 通信を担当していたペトラが、呑気な口調で言いました。


「ほっ、このおフネさん――まだまだ成長期なのじゃな」


 岩石種族のトックスが、硬い顔面をほころばせて面白げな表情を造りました。肩やメリノーは、繭化した活動体の表面をポンポンと叩きながら、物珍し気にな顔をしてこのように言うのです。


「珍しいですなぁ……少年期を迎えて、何度も繭化するというのは、執政府の記録でも数件しかありません」


「ほぉ、そういうものかのぉ?」


「基本的にフネと言うものは、カラダを作り上げたのちは、代謝や治癒程度の事はしても、成長しないものです」


 メリノーは額に手を当てながら、「そうだろう?」と、ナワリンに尋ねました。


「たしかに――龍骨の民みたいな巨大な生き物が、延々と成長し続けたら、大変なことになるからって教わりました」


「それでなくとも、私たち大飯ぐらいだからね~~」


 ペトラの言う通り、龍骨の民は元から大きなカラダを持ち、その維持のために大量のエネルギーと資源を必要とする生き物でした。


「ペトラみたいに、性別を変化させるヤツはいるけれどね」


 巡洋艦は「女の子になっちゃった~~」と、口の端を上げながら、嬉し気に笑いました。


「ほっほっほ。そういやぁ、おフネさんというやつは男女の別があったのぉ。その辺は、ワシらと同じじゃのぉ」


「トックスさんは――オスかな~~?」


 トックスのゴツゴツとした岩肌を眺めると、「オスっぽい~~?」とペトラの龍骨が囁くのでした。


「そうじゃ。こんなゴツイ体つきをしておるのが、岩石種族の男どもじゃ」


「じゃぁ、女の人――女石おんないしっていうのかしら、その人たちはどんな風なの?」


 ナワリンが、興味深そうに尋ねます。


「そらもう、あれじゃ、キラキラしとるのじゃ。ワシらの種族――ロッコの女は、そう――宝石なのじゃ」


 トックスは、口の端を上げながら、なにか大切なものを思い浮かべるような表情をするのでした。


「宝石――ダイアモンドとか、サファイアとか――あ、もしかして、全身が?」


「うむ、そうじゃ。全身がキラキラしておるんよ」


「へぇ、なんだか凄い目立ちそうだわ……でも、そんな生き物見たいことないわぁ。ペトラ――あんたは、見かけたことあるかしら?」


「ん~~? 訓練所にもいなかったような……」


「そりゃ、当たり前じゃのぉ。ロッコの女どもは、星から離れることがないからのぉ」


「それは何故?」


「ふぅむ……それを説明するには歴史の講義が必要じゃのォ……ほいじゃ、メリノーよ。教えてあげなされ」


 トックスは、メリノーに下駄を放り投げ――説明するように言うと――


「え、私…………まぁ、いいか…………。あ――それは古い古い昔の事……ロッコの住まう惑星には、何度も略奪者が襲来したと言われている」


 ――なぜか仰々しい口調で、メリノーが語り始めます。


「過去、惑星ロッコには綺麗な宝石を求めて悪辣な種族が到来し、彼らの女性たち、自然が作り出した宝玉を奪いに来た」


「女性を奪いにくるなんて、酷いヤツラがいたものね!」


「酷い~~! …………あれ~~でも~~連合はなにしてたの? 共生宇宙軍はなにもしなかったのかな~~?」


「それは1万年以上も前のことだった……共生知性体連合が形成されるよりも、ずっと前のことなのだ。帝国――今は亡き没落した星間勢力が猛威を振るい、様々な種族が犠牲になったと言われている時代だった」


 共生知性体連合が存在するパーシアス腕の暗黒期とも呼ばれるその時代は、弱肉強食がまかり通る末法の世であったと言われています。

 

「ロッコたちは度重なる襲撃におびえながら過ごしていた。大地に潜り、マグマの奥底に潜んで逃げても、帝国戦艦の強力な掘削ビームで掘り返され、奪われ宝玉は惑星外に消えていったのだ……」


「うう……そんなことがあったのね……。私たちだったら……幼生体を奪われるみたいなものかもね……」


「酷い――――! プンスカプン!」


 ナワリンは哀しみを見せ、ペトラはぷりぷりと憤り――


「あれ、ロッコの男の人はどうしてたのかな? 戦わなかったの~~?」


 ――続いて素朴な疑問を口にしました。


「ロッコの男は戦ったのだ! 女達を護るために――何万という岩呉どもが、帝国に牙をむいたのだ!」


 メリノーは声を甲高くし――反論するように――答えました。


「おおお、それでそれで~~?」


 ペトラが面白そうに尋ねるのでした。


「しかしぃ……抵抗むなしく、ロッコの男たちは次々に倒れていったのだ……」


「だ、だめじゃん~~」


 ペトラが突っ込むと、「めぇふっ」っとメリノーが不敵な笑みを浮かべます。そして彼は、目をギラリと見開くと――


「だぁが、しかしぃ! そこに救世主があらわれたぁぁぁぁぁ!」


 ――声を裏返らせながら、叫ぶのでした。


「「え? 救世主……って」」


「マグマの深くぅぅぅぅでぇぇ、思念波を鍛え上げぇぇぇぇぇ、究極の力を身に着けた存在が来たのだぁぁぁぁぁ!」


 メリノーはさらに声のトーンを上げて、語りました。


「「……は、はぁ?」」


 ナワリンとペトラは眼を見合わせるのです。話が超展開するので、ナワリン達の龍骨が混乱をきたしているのでしょう。そんな彼女たちを他所に、メリノーはなおも絶叫を続けます。


「彼の拳は――戦艦のビームすら捻じ曲げ、厚い装甲すら軽々とねじ切ったぁぁあぁぁ!」


「「え、拳で戦艦を……⁈」」


 ナワリン達は、メリノーのノリについてゆくのがやっとですが――何か凄い存在が、ロッコ達の惑星に現れたことだけはわかりました。


「次回予告ぅぅぅぅ! 帝国よ、お前の血は何色だぁぁぁ⁈ 見よ、これが思念波流格闘技――最大奥義だ!」


 メリノー不可思議なセリフを全力で絶叫した後に、何かを成し遂げたような満足な顔をするのです。ナワリン達の眼には、「……えっと……えっとぉ」と言った微妙な色が浮かびました。


 それを眺めていたトックスは、苦笑いしながら「その辺でやめておくのじゃ」と合図しました。


「ま、多少誇張はあるがのぉ。その救世主とやらの教えにより、ワシらはその技を――思念波を操ることを身に着け、帝国の収奪に抵抗することに成功したのじゃ。最後は、ヤツラ腹いせにの、核攻撃を仕掛けてきたのじゃが――まぁ、ワシらはその辺耐性があるからのぉ」


 トックスは、ロッコ達はその後の帝国の没落まで襲撃を撃退し続け――共生知性体連合の成立後はその加盟種族となり、平和な時を過ごしているのだと説明しました。


「へぇ、じゃぁもう、大丈夫じゃない」


「でも、キラキラとした宝石の女の人みたことないよ~~?」


 ペトラとナワリンは、様々な種族が集まった新兵訓練所にも、「そんな種族はいなかったわよねぇ」と思い出すのです。


「ああ、それが歴史というか――トラウマのようなものでね。帝国の仕業は、ロッコの女性たちは惑星の外にでないのが習わしなのだ」


 いつもの声に戻ったメリノーが説明を加えました。


「女どもは、戦いに不向きじゃからのぉ……ワシら男どもが、その分連合の為に働くのじゃよ。思念の技を使ってな」


「へぇ……向き不向きってやつね」


「船のみんなは、軍に入らないもんね~~」


 ナワリン達は種族的な差異というものについて、また一つ学びました。そして、時は進み、高速艇は共生宇宙軍の首都星系根拠地に近づきます。

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