第174話 MP
「やっと出られたよぉ~~! めちゃくちゃ待たされた~~!」
「10時間も掛かったものね……あら、こっちもこっちで、大混雑だわぁ」
「他の航路からも降りてきているみたいだ」
デューク達は渋滞する超空間航路を抜け、通常空間にジャンプアウトしていました。この星系は超空間航路の結節点のため、大量の軍艦が姿を見せています。
「すっごい数の軍艦だぁ~~星系内航行の航路に空きが無いくらい~~!」
「航宙管制の機能が麻痺しかかってるねぇ。あそこの最後尾が一応行けそうだけど。まったく指示が出てこないや」
デュークが見た所、1000隻程の大行列の後ろに空きありそうなのですが、管制指示が出てきませんでした。
「これだけ混雑していれば、指示がなくてもばれないわよ。後ろもつっかえているし、あの後ろに付いていきましょ」
「そだね~~待つのはもういやだよぉ~~!」
管制が不十分な場合には、ある程度の自由裁量権が認められていました。超空間航路の渋滞で焦れていたナワリンとペトラが、先行し始めます。
「ちょ、マズイと思うよ――」
デュークが「ちょっと待って」と言うのですが、ガン無視です。航宙法上曖昧な所がありますが、「多分、大丈夫かな?」と思ったデュークも二隻の後を追い始めます。
そうして航路の最後尾に追いつきそうになった時でした。
「そこの龍骨の民ぃ――とまりやがれ――――っ!」
突然、指向性の通信がデューク達の耳を叩きました。そして真っ赤なパトランプを光らせて、緑を基調とした白と黒で塗装されたフネが航路がスルスルとやって来るのです。
「なによあのフネ……初めて見るわね」
「ダークグリーンの迷彩だ~~~~航路局のフネにしては変だね~~?」
「うわぁ、マズイぞ。このシグナルは
管制よりも強い効力のある命令を聞いたデュークは、即座にそのフネが共生宇宙軍憲兵隊――軍の秩序維持を主目的とする部隊のものだと理解しました。
「ま、
「
共生宇宙軍憲兵隊は、宇宙軍の中にいる悪い奴らを逮捕するのがお仕事の部隊ですが、交通整理も重要なお仕事でした。
「ゴルァ――止まれぇ――――!」
指向性の鋭い信号が再び放たれます。それは大変激しいもので、ナワリンとペトラは青くなってすぐにエンジンをカットします。
「おらおらおら――そこで、停船――――! 動くなぁ――!」
「ひぃぃぃ、もう止まっているわよぉ」
「怖いよぉ~~~~!」
憲兵隊のフネが怒声を上げながら、ビーム照射型の誘導灯が付いたクレーンをクルクルと振り回して近づいて来ます。
「おや、あのフネ――龍骨の民みたいだな」
航行中にクレーンを振り回すのは、龍骨の民くらいなものなので、デュークはすぐにそのフネが同族だとわかりました。
「あっ、同郷のおまわりさんなら、手心を加えてくれるかしら……」
「お前にも母星があるんだろう~~カツ丼喰うかって~~?!」
などとデューク達がカラダを動かずに待っていると、すぐに
「おらっ、神妙にしろい!」
フリゲート艦は、デューク達にクレーンを突きつけました。その指には、荷電粒子を棒状にした紅い誘導灯――ビームセーバーと呼ばれる強力な近接戦闘兵器が握られています。
「若造ども――――お前ら
「「「ひぃぃぃぃ!?」」」
艦歴40年ほどの渋みの有る声で憲兵艦がデュークたちを逮捕すると怒鳴りました。相手は小さなフリゲートでしたが、威圧感のあるガラガラ声に、デューク達は悲鳴を上げながら「な、何ですか……?」と呟くのでした。
「おいおい、憲兵一筋この方40年のデッカード様にしらを切るとは、てぇしたボウズだな……なぁに、悪いようにはしないから――」
年若いデューク達が悲鳴を上げたので、40絡みの憲兵艦デッカーは突如穏やかな声で、「――早く
「ええと――さっき、管制指示無く航路に進路を取ったから、航宙法違反とか? でも、一応無管制状態の規定においては、認められて居ると思うのですけれど」
「そんなつまんねーことじゃねぇ!」
デュークは事情を説明するのですが、デッカーは「違う!」というのです。
「ち、違うんですか……じゃ、じゃぁなにか別の……」
「私がなにも悪いことしてないわよ!」
「ボクも心当たりがないよ~~!」
デューク達は艦首を傾げて「なんかやっちゃったけ?」などと言うのです。
「あ、そうだわ。首都星系にいた時に、デュークが軍の資源衛星をまるごと一個食べちゃったこととか?」
「あ、あれはお咎めなしだって――! 無意識下での事故だ――!」
いつもは誰かが手を貸してくれるので、これまであまり問題になってはいませんでしたが、軍に入ってから何度か無意識に眠って資源を食い荒らした
「じゃ、こないだ縮退炉を12個もぶん回して、星系内を超加速した時のスピード違反だ~~!」
「あ、あれも事故だよ――! 進路はクリアだったから、僕は悪くな――――い!」
星系内を超加速した時のことを暴露されてデュークは慌てます。一応進路上に危険が無いことを確認してから、行動しているので問題は無いはずでした。多分。
「はっ、資源衛星をまるごと食べちまったのか。だから、お前さんそんなにデカイんだなぁ。それに、縮退炉が12個も有るってのか!」
憲兵艦は、「面白いお話だな」と言い、こう続けます。
「まだ、あるんじゃねぇのかぁ? 洗いざらい話しちまえよ」
「ふぇっ…………」
デッカーがギロリとした目で睨みつけてくるのです。でも、特に悪さというほどの心当たりもないので、デューク達は押し黙る他ありませんでした。
すると――
「はっはっは、まぁ、こいつは冗談がきつかったかもなぁ」
「ふぇっ?!」
――憲兵艦デッカーは、「ちょっとした冗談。ただの冗談だぜぇ」と悪びれもせずに言いました。そして、「それでは、メッセージを伝える――」と改まった口調で、こう続けます。
「軍令部命令――現時刻を持って戦艦デュークら三隻は、第三艦隊配属への編入を命ず。第三艦隊命令――配属は第三艦隊臨時編成分艦隊。続けて、分艦隊から発令――集結地点までの移動には憲兵艦デッカー少佐の指示にしたがえ。以上だ」
デッカー少佐は、生真面目な口調で暗号化された命令書のデータを読み上げました。そして「お前さんらの引率に来てやったってことさぁね」とまたべらんめぇな口調に戻るのです。
「あ、少佐殿だったのですか! でも、何故少佐殿――それも憲兵隊の方が、わざわざ……」
デュークはそれまで忘れていた敬礼を慌てて行いながら、尋ねました。
「分艦隊の指揮官がな。早いところお前さん達を連れて来てくれって言ってるんだ」
「え…………」
第三艦隊の予備隊――それは臨編の分艦隊として機能を始めているようです。そして、その指揮官はデューク達のことを知っているようでした。
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