第204話 突撃発起点
「うわぁ、赤外線がバンバン飛んで来ます!」
視覚をズームしたデュークの目に、小惑星にヒットしたレーザーが爆発穿孔を起こし、核融合の徒花が地表を焼き尽くす様子が、赤外線となって入り込んでいました。
「すごい数の軍艦が取り巻いていますね」
デュークは小惑星を攻撃している機械帝国の艦艇を眺め「遠距離からでもよく見えるなぁ」と呟きました。作戦行動中の艦艇は少なからぬ欺瞞行動を行い、可能な限りその姿を晒さないようにしているはずなのに、機械帝国軍の姿は遠くからでも丸わかりなのです。
「威圧のために隠蔽を切っているのだな」
カークライトはデュークの目が捉えた機械帝国軍の様子を睨み、「万を超える大艦隊か、確かに大した数だな」と呟き、軽い笑みを浮かべてからこう続けます。
「だが、こちらにはまだ気づいていないようだ」
デュークを含めた救援部隊は遠中から慣性航行を始め、ビジュアルステルスなどの隠蔽を行いなって距離を詰めています。サイドローブを傍受される恐れがあるため救援部隊内の電波通信は禁止されていました。
「ラスカー大佐、諸元はどうかね?」
カークライトは戦闘指揮所にいるアライグマの軍人に尋ねます。大佐はデュークの目に入った機械帝国軍の座標を確かめ、艦載AIと共にマッピング分析を行っていました。
「数が多すぎますからなぁ」
大佐の手元では機械帝国の艦艇の脅威度や部隊の構成、配置の重心などデータが渦巻き、カオスな状態になっています。大佐は情報が渦巻く端末を眺めながら、「1、2、3、いっぱい!」とおどけたような表情を見せました。
「まぁ、艦列を綺麗に並べていますからグルーピングはしやすいですね。艦載AIはこれからやることには十分だと言っています」
祖先のようにスリスリと手を洗うような仕草を見せた大佐は、自分の計算と艦載AIの分析をすり合わせて詳細なマップを作成し、スクリーンに投影します。
「ふむ……ウィークポイントはあそことあそこだな」
カークライト提督は示された機械帝国の座標を睨むと、瞬時に敵部隊の構成を読み取り、部隊ごとの配置の中で脆弱と思われる部分を見抜きました。
「これなら予定通りの行動が可能か……それでは始めるとしよう」
準備が整ったのを確かめたカークライト提督は軍帽をかぶり直し、それまで慎重に歩を進めていたカークライト率いる1000隻の艦艇に無線封鎖の解除を指示しました。
「まずは本艦が射撃開始します」
「よろしい、射撃は任せる」
部隊内のデータリンクの再構築が終了すると同時にラスカー大佐はカークライト提督に目を向けて、射撃の許可を取りました。彼は「任されました」と舌なめずりをしながら、デュークの龍骨に向けて艦内通信を放ちます。
「デューク二等軍曹――いや、旗艦デューク・オブ・スノー君。準備はいいな?」
「は、はい!」
大佐の声とともに、司令部ユニットに搭載されたAIが「Good luck sgt Duke」と射撃データをよこしてきたのを確かめたデュークは、龍骨を固くしながらその時を待ちました。
「長射程誘導弾…………
ラスカー大佐は両手で持った射撃管制装置のスイッチを押し込みながら咆哮を上げます。するとデュークのお腹に付いている大型のコンテナがパカリと開き、大型の対艦誘導弾が一秒間に5発という速度で発射され始めました。
「ミサイルコンテナの全弾射耗まで200秒! 後はオートで射撃継続! 続けて生体ミサイル発射!」
「よぉし! いっけぇ――――!」
ラスカー大佐がデュークに射撃を命じると、白い戦艦の各所からバシッバシッバシッ! と立て続けに生体ミサイルが飛び出します。
「もっとだ、もっと早く撃て、デューク君! 後先考えずに全部撃て!」
「はい!」
1.5キロほどの巨体を持っているデュークのことですから、そのカラダに収まった誘導弾の量は相当のものです。その上、なんだか知らないうちに生えてくるのが、龍骨の民の生体兵装ですから「あ、こんなところにも生えてた。撃っちゃえ」などと言いながら、デュークはミサイルを撃ち続けます。
凄まじい勢いで放たれるコンテナのミサイルと、デュークの巨体に仕込まれた溢れんばかりの誘導弾が、プラズマの尾を伸ばしてゆきました。
旗艦の発砲を認めた救援部隊の各艦艇も射撃を開始します。平均して100発程度を装備する艦艇から次々に撃ち放たれる誘導弾は、あっという間に万のオーダーを超えました。
「はっ、大盤振る舞いだな!」
その様子にラスカー大佐は満足げな表情を浮かべます。デュークは「うわぁ、凄いなぁ」と目を丸くしました。
「よし、あとのミサイルは艦載AIに任せるんだ。続いて、両舷長砲身電磁投射砲用意――――トリガーは任せたぞ!」
「えっと、これですね? えいっ!」
デュークは大佐に言われたとおりに、脇腹に5本ずつ括り付けられている砲身長が1キロもある長大なレールガンの引き金を引きました。
同時にレールガンの砲身に大電力が供給され、カカカカーン! という鋭い轟音とともに、相当の重量がある弾頭が連続加速し、あっという間に亜光速まで加速すると砲口を飛び去ってゆきます。
「砲身が焼き付くまで撃ち続けろ、狙わんで良い、全弾ばらまけ!」
「は、はい! 全部撃ちます!」
デュークは電磁投射砲にセットされた弾頭を次々に放ちます。それは砲身が連続射撃の熱に歪み、機能を停止するまで続きました。
「あ、壊れちゃった」
「いいんんだ、そいつは投棄しておけ」
デュークは動かなくなった電磁投射砲をポイッと放り投げました。いつもの彼ならご飯代わりに食べてしまうところですが、さすがに戦闘行動に入っているので、そうはしません。
「コンテナ内ミサイル全弾射耗――投棄、投棄、投棄!」
「よいしょっと」
お腹に抱えていたコンテナがミサイルを撃ち尽くしたので、デュークは爆破ボルトに信号を送り、それを接続を解除して放棄します。
「提督、全弾発射完了です」
「一の矢は放たれたな」
ラスカー大佐は、カークライト提督に向けて一連の射撃が完了したことを告げると、それまで司令官席に鎮座していた提督がぐっと立ち上がりました。彼はスクリーンに表示されているミサイル群と電磁投射砲の弾頭が敵艦隊に向かうのを確かめてから、目を閉じます。
「弾着まで10分、その後の3分は継続する……敵艦隊の構成から考えて……予定通り最短進路で問題ない……抵抗は二枚か、三枚か……」
進むべき進路とその先にある脅威をさっと計算したカークライトは、おもむろに目を開けるとこう告げるのです。
「二の矢を放つぞ、全艦最大戦速!」
カークライトは手元に置いた1000隻の艦艇に突撃を命じたのです。
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