第154話 戦果

「船体が弾けたぞ!」


 キノコ船は内部から大きな炎を吹き上げると、一際大きな爆発を起こしました。


「動力炉に直撃したみたいね!」


「轟沈だ~~!」


 デュークらの一斉射撃に、さしもの重装甲キノコ船も耐えることが出来ませんでした。キノコ船の中心あったエンジンが限界を迎え、船体ごとバラバラになったのです。


「敵艦の撃破を確認――残った構造物も燃え尽きるわねぇ。よろしい、全艦第一種戦闘態勢解除みんなお疲れ様よぉ」


 メノウは、キノコ船が確実に破壊されたことを確認してから、戦闘停止のシグナルを発信しました。


「戦闘終了か…………おや? 変なコードが龍骨に浮かんできたぞ?」


 キノコ船が船としての機能を失い、ただの物質まで還ってゆく光景を眺めていたデュークの龍骨から見慣れないコードがにじみ出ます。そしてそれは、視覚素子にキラキラとした文字コードとして映り込むのです。


「あ、私にも来たわ!」


「なんだろこれ~~?」


「それは、戦果確認コードねぇ」


 メノウは、敵艦撃破の経験が龍骨に上書きされたと言うのです。デュークは視覚素子に映る「戦艦クラスを撃破」という文字を眺めます。


「そうか、僕は、フネを、沈めたんだ……」


 デュークは、龍骨に嬉しさと哀しみがに現れるのを感じました。知性なき異質な敵だった――でもやはりフネには違いない――そんな感情に、彼は戸惑いを覚えるのですが――


「やったわ! 戦艦クラスを取ったわよ――!」


「わ~~い、大戦果~~!」


「……そ、そうだよね」


 ――ナワリンとペトラがクレーンを振り上げて、迷いなく喜んでいるのを見て、「ううむ……」と無理矢理自分を納得させました。


「皆は、初の戦果なのねぇ――戦果は軍艦の勲章よぉ。フネのキャリアに箔がついてゆくのぉ。まず一隻、次の一隻――」


――メノウは「私達、軍艦はねぇ、そうやって生きてゆくのよ。龍骨が折れるか、マザーに還るまで、ね」と続けました。


「そしてね、戦果を上げ続けると、いずれは二つ名が付くのよぉ」


「ははぁ、戦果を上げると、二つ名ネームドになれるんだ……でも、それって共生宇宙軍からもらえるんですか? それとも連合執政府とか?」


「違うわぁ、艦体のどこかに勝手に出てくるのよぉ」


 メノウはそう言うと、クレーンで装甲板の一部をパカリと開きました。そこには5メートルほどの小さな金属版がはめ込まれ、なにやら真紅の文字が浮かんでいるのです。


 デュークが視覚素子をズームして、その文字を確かめるのですが――


「あれ? 文字が沢山浮かんでいるけれど、どれも読めないぞ……」


「共生連合共通語でもないわ……」


「データベースにもヒットしないよぉ~~不思議な文字だねぇ~~」


 ――デューク達の龍骨は共生知性体連合共通語や自動的に解読することができますし、データがあれば異種族の文字も読めるのですが、メノウの艦体に付いた金属板に浮かぶその文字は全く読めませんでした。


「思念波を使って読むのよぉ」


 メノウが思念波――フネのミニチュアをコントロールする力を使うように言いました。デューク達が微弱な思念波を送ると――真紅の文字から、微かな波動を感じるのです。


「ホントだ……でも、随分と微弱だな。……銀河……帝……海………読めない……」


「真ん中の文字はなんとか……ええと……那由多溢れる……」


「白瑪瑙……? そこだけ読めるねぇ~~」


 思念波を使うと、文字の一部だけが龍骨に入り込み、メノウの二つ名が浮かびました。


「この文字ってなんなんです?」


「連合の科学者が言うにはねぇ、思念波言語って言うものみたいねぇ。知り合いの考古学者が言うには、先人達の遺跡で見つかるものに似ているっていうわぁ」


「それって、上代の頃はるか昔、銀河を支配していた文明の文字ってことですか? そうすると、彼等と僕らって何か関係があるのかな?」


「あると思うけれどぉ、誰も知らないよのよぉ。マザーに聞いても――――なにも教えてくれないしぃ。そういうことだからぁ、気にしてもしかたがないわねぇ」


 二つ名がつくための条件はわかっても、どうしてそう言うことになるのか、上代の文明との関係もなにもかも、龍骨の民の誰も知らないのです。


「まぁ、そんなことより、どんどん戦果を上げて二つ名が付くようにがんばりなさぁい。私達軍艦――戦のフネなんだからぁ」


 メノウは、龍骨の民の軍艦らしい言葉を告げました。


「二つ名かぁ……」


 自分のカラダの中からは、どんな二つ名が出てくるのだろう――それまでにどれだけの敵を倒さなくてはならないのだろう――デュークは龍骨をねじりながら。そう思いました。


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