第70話 汽車来(きた)る
シュポ――! 火室で石炭を燃やして高温ガスを作り、煙管の周りを覆う水を蒸気に変え、シリンダーでそれを受け止めると駆動装置に動力を伝える――そんな乗り物が轟音を上げながら進んできます。
武骨さとスマートさを併せ持つ黒光りする鋼鉄のボディから煙を高らかに上げ、ギャリギャリギャリ――! とリニアレールを軋ませる力強い車輪をもった列車が、緩やかに速度を下げながらホームに向かって降りてくるのです。
「ふぇぇっ、なんだか凄いのがきたぞ! 煙を吹いている――火事でも起こしているのかな?」
デュークはそんな物を見たのは初めてでしたが、龍骨の中に「鋼鉄の悍馬」というほどのコードを感じて「凄いなぁ」と感想を漏らしました。
「あ、あれは多分……蒸気機関車だよ。でも、ここは共生宇宙軍の施設なのに――」
シロホホは「なんであんな、古めかしい乗り物を使っているんだ」と声を漏らしながら、機関車をよく眺めようとホームから身を乗り出します。
「おっと、お客さん。危ないですよ。下がってください」
「え、駅員さん、なんであんな古臭いものを使っているんですか?」
ホームの端から少し離れるように指示してきた駅員に、シロホホが「教えてください」と尋ねました。
「ああ、確かに見た目は古臭いものですな。でも、ただの蒸気機関車ではりませ。中身は正真正銘、共生宇宙軍の最新式技術で製造されているのです。概念機関を搭載したリニア機関車”でこいち”! といいます。概念機関というものはまだ軍用の試作品なのですが、重力スラスタよりも高性能なのですよ、はい」
彼が言うには概念機関は空間を直接操作して、前に落ち込むように進むという最新鋭のエンジンということです。
「が、概念機関。連合の技術力はそんなものまで――」
「なんだかよくわからないけれど、あれって古臭いものなんですね?」
デュ―クが素朴な疑問を漏らすと、駅員は「外見が古臭いのは、ステーション運行局のAIの趣味ですな。あれはふるーい時代を思い起こさせるノスタルジックなブツを作るのが趣味でしてね、はい」と説明しました。
「なるほど、だから蒸気を吹いているんだ……」
「力強く動く車輪と黒鉄の要塞と形容せざるを得ない黒鉄のボディをもった機関車の
しばらくすると、速度を落とした機関車がホームにギリッギリっとした音を響かせ停車しました。
「後ろに客車がついているね。これに乗って新兵訓練所に行くのかな」
「多分そうだと思うよ――デュークはね」
機関車の後ろには、クラシックスタイルの客車がいくつも並んでいますが、シロホホは「ボクはこれには乗れない」と言うのです。
「ふぇぇ、どうして?」
「扉が小さすぎるよ。これは小型種用だよ」
客車はそれなりの大きさがありましたが、大きなシャチのシロホホがゆったりと乗れるような大きさを持つものではありませんでした
「ああ、海洋性大型種の新兵は、次の列車になります。行き先は海側の訓練所になっておりますからな。はい」
手元のダイヤ表を確かめた駅員が「ホームの中ほどにある待機所で待ってください」と伝えてくるのです。
「ボクとデュークとは行き先が違うんだ」
「あれ、新兵の行き先は、皆同じと聞いたけれど」
デュークとシロホホが互いのチケットを確かめると、表面に書かれた終着点となる訓練所のナンバーが異なっているのです。
「訓練所はいくつも有るのさ。種族の違い、大きさの違い、のようなものをAIが勘案して、最適な場所に送り込んでいるんだ」
「そうなんだ、なんだか残念だなぁ……」
短い間ですが知り合いとなった異種族と分かれると聞いてデュークは大変残念がりました。
「まぁ、またどこかであえるさ。それより時間みたいだよ」
客車の入り口で乗務員が手元の腕時計を確かめていました。キュゥ~~! と、鳴き声を上げたシロホホは大きなヒレを振ってデュークに客車へ上がるように促しながら、「じゃぁね」と大きな鼻先をデュークの艦首にトンと一つぶつけます。
「うん――よいしょっと!」
デュークが客車に乗り上がると、それを合図にしたように機関車はシュポォォォォォォォ! と汽笛を鳴らして車輪を回し始めました。すると、ホームの上にいるシロホホはヒレをパタパタさせてデュークを見送るのです。
「がんばれよ、フネの少年――!」
「うん、シロホホも元気でね――!」
デュークも負けじとクレーンをブンブンと振りながら、シロホホに応えました。 そして列車はズゴゴと進みトンネルの中に入り込みます。
「はぁ、知り合いができたと思ったら、もうお別れなのか。軍ではこういうことが当たり前なのかなぁ……」
駅舎が見えなくなるまでクレーンを奮っていた彼は、少し疲れた様に排気を漏らし、
「さて――列車に乗ったはいいけれど、こういうものは初めてだから、勝手が良くわからないや。どこにいけばいいのだろう?」
デュークは目をキョロキョロさせながら、客車の中を見回します。彼が今いるのは、ゆったりとした広さのあるデッキ部分で端の方には丁寧にニスが塗られた木製の扉がありました。
「こっちかな」
デュークがその前に立つと扉がスルリと横に開いて、暖かな光に照らされたすこし幅のある通路が見えるのです。通路にはいくつもの部屋があるのです。
そして彼は「A-101」といった番号が振られた場所にたどり着くのです。
「チケットのナンバーと同じ記載だ」
デュークが手元のチケットを確かめると、「A-101」という表記が浮かびあがっていました。彼がチケットと同じ番号をもった部屋の前に立つと、客室の扉が自動的に開きます。すると、中から――
「遅かったじゃないのよ!」
「デューク~~!」
「ナワリン! ペーテル!」
二隻のフネが声を掛けてくるのでした。
「そんなところで突っ立ってないで、早く入りなさいな」
「ここ、君の席だよぉ~~!」
「へぇ、ネストにあった
「これは寝台ってやつよ」
「フカフカで居心地が良いんだよぉ~~!」
客室の中には龍骨の民に合わせた寝台が4つほどならんでいました。ナワリンとペーテルはその台の上でゴロリとしているのです。
デュークは同じようにして、ベッドに入り込むのです。
「うう、凄くおちつくなぁ――――はぁ、疲れたよ。僕さ、たくさんの異種族と出会ってきたんだ」
「私もよ! なんだか変テコなヤツばっかりだったわ!」
「ボクもいっぱいあってきたよぉ~~」
ナワリンとペーテルも、接舷してから、たくさんの異種族たちと出会ってきたと言いました。
「へぇ、そうなんだ……」
たくさんの異種族と出会った経験は、彼の龍骨に心地よい疲労感をもたらしていました。それに、ゴトン……ゴトン……ゴトン……というリズミカルな車輪の響きが彼を包んでもいます。
「訓練所にはもっとたくさんの異種族が…………いるんだろうね……」
毛布で艦首を覆ったデュークは、そのようなことを思いながら、眠りの世界に入ったのです。
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