第71話 デューク、大地に立つ

 ガタンゴトン……ガタンゴトン…………ゴトン……ゴト……ン。線路をなぞる車輪の音が徐々にゆっくりとしたものとなり、噴き出していた蒸気もシュル……シュル……シュゥとした穏やかなものに変わっています。


「デューク、起きなさい!」


「ふわわ、目的地に到着したのか……」


 ナワリンがゆっさゆっさとカラダを揺らすので、デュークはアクビを漏らしながら眼をこすってベッドから起きだしました。


「体内時計で3時間は経ってるねぇ。結構時間が――――うっ!」


 デュークが客車の窓から外を眺めると、外から明るい光が指しみ、視覚素子を一時的にくらませるのです。


「この光は……それにあれは……」


 目が慣れてくると、窓の外がだんだんと見えてきます。彼の目には植物や岩くれに覆われた地面が遠く地平線の果てまで続き、そこかしこに大きな山や湖がある山岳地帯が広がっていたのです。


「あれは大地ってやつじゃない?」


「大地……ってことは!」


 デュークが天空を見上げると、そこには澄んだ”空”が広がり、さえぎる物のない空の果てには輝く天の帯――惑星カムランを巡る長大なリングが姿を現していました。


「お空でキラキラしている輪っかは、軌道ステーションだね~~!」


「ということは、ここは惑星カムランの地面の上なのか!」


 ペーテルの言うとおり、汽車は惑星カムランの地表に降り立っていたのです。


「早く降りましょうよ。こういう惑星ってのは初めてだから興味があるわ」


「うんうん、楽しみ~~!」


「そうだね。よし、行こう!」


 デューク達は初めて知る惑星というものに大変な好奇心を感じ、勢い良く汽車から飛び出したのです。


「ふぇぇ、随分と濃い気体で溢れてる――これが大気ってものなんだね。ネストの不活性ガスとは違った、とても複雑な臭いがするや」


 惑星カムランは共生知性体連合の標準型惑星であり、大体1000パーミル程度の気圧を持っています。龍骨の民のネストではもっと薄いガス圧が標準的で、カムランが持っている濃密な空気を感じるのは、よその星からお客様が来た時くらいのものでした。


「ねっとりとしているのは、水素分子――これが湿気ってやつね。これが共生知性体連合のもっとも平均的な大気構成らしいわ」


「酸素に窒素、二酸化炭素~~! ガスが吸い放題だよお~~!」


 ナワリンとペーテルは、口の中にある成分検出器を通して大気の成分を味わいました。龍骨の民はエネルギーを取り込むための空気を必要としない生き物ですが、排熱のための気体としてそれを取り込むことが可能なのです。


「なんだかカラダが重いよぉ~~」


「確かに、マザーの何倍も強い重力があるね」


「この重力、10メートル毎秒位の加速度があるわね。浮かんでいるのにコツがいるわ」


 惑星カムランはいわゆる1G惑星でした。生きている宇宙船は、宇宙空間において100G加速に耐えうるカラダをもっていますから、カムランの重力は僅かな力かもしれません。でも、加速もしていないのに、いつもそれがカラダに掛かっているという状態は、彼らに「重い」という感覚を与えるのです。


「あ、あそこに標識があるよぉ~~!」


 彼らがいる場所は山間にある細長い滑走路のようなところで、そこにはそれなりの大きさがある標識がポツリと立ち、第101新兵訓練所口と書かれていました。


「なるほど、惑星の上に新兵訓練所があるのか」


「あ、他の種族人たちが歩き始めたよ~~!」


 汽車から降り立った何十名かの異種族――ヒューマノイドや、毛深い四足の生き物、鋼鉄のカラダを持つロボット、空飛ぶゲル状の生き物や、外骨格に乗った結晶生命体などが、列を成して同じ方に向かってゾロゾロと進見始めました。


「みんな訓練所に向かっているんだわ」


「じゃぁ、僕らも行ってみよう」


「おっけぇ! いってみよぉ~~!」


 このようにして、デュークたちは穏やかな大気に包まれた大地に降り立ち、伸し掛かる重力に対してスラスタを吹かしながら、一路新兵訓練所を目指したのです。

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