第367話 出陣式
辺境パトロール艦隊第10分遣隊から抽出された艦が集結し、100隻程度の小部隊ごとに横一列の陣形を作っています。デューク達はそれらの艦艇と一緒にとある部隊の中で艦列を並べながら、いつもどおりおしゃべりをしています。
「これだけの艦艇が集まった出陣式っていうのは初めてだわ」
出陣式とは正式名を艦隊出陣式と言い、それなりの規模の艦隊がこれから出陣するという時に、一堂に会して整列し、指揮官からの訓示を受けるという古式ゆかしい儀式でした。
「カークライト分艦隊の時は、出来なかったんだよねぇ~」
「そうね、あの時は集結して編成するだけで精いっぱいだったものね」
「分艦隊結成の時に出陣式なんてやたら、艦隊幕僚は戦場に出る前に死んでいただろうなぁ……」
カークライト分艦隊の編成は猛烈な勢いで部隊編成を完成させる必要があり、ヌロンヌロンと脂汗を流しながら補給部隊を運用する軟体種族や、リスケリスケと叫びながらブチ切れていたラスカー大佐に、「出陣式をやるぞ」などと言ったら、反乱が起きていたかもしれません。
「今回は余裕があるということか、艦隊も完全に編成されているようだし」
辺境艦隊の艦隊ネットワークにリンクしているデュークは、艦艇がその用途に応じた形で編成を終えていることを確認しました。
「軽打撃部隊6、重打撃部隊2、支援部隊1、これに指揮官直属の部隊が1だね」
「やっぱり辺境パトロール艦隊は、軽艦艇が多いわ」
「でも、重戦闘艦もそれなりにいるよ~~!」
集結した艦艇には少ないながらも標準戦艦や重巡洋艦などの打撃戦隊もあり、航宙攻撃機を多数搭載した航宙空母を中心とする空母打撃群も存在しているのですが、艦隊の全容を眺めていたデュークがあることに気づきます。
「おかしいぞ、全部数えたら1000隻を超えてる。800隻の編制だったはずだよね」
視覚素子をフリフリさせたデュークは、艦隊の端の方に見たことのない部隊がいることにも気づきました。
「おや、特殊なコードが振られた部隊とフネがあるぞ?」
識別符号は一応共生宇宙軍の形式であり、艦隊ネットワークにも一応リンクされているのですが、アクセスができません。デュークが「一体彼らは何者だろうか?」と艦首を傾げていると――
「これ見ればわかると思うよ~!」
ペトラがとあるデータを差し出してきます。
「ええとこれは艦内映像?」
ペトラが送ってきた映像には青を基調とした共生宇宙軍の軍服ではない軍装を身に着けたり、民族衣装の様なものを纏っている者がいました。
「そうそう、艦内映像を頂いたのだ~!」
「まさか艦隊ネットワークを通じてハッキングしたの⁈ ど、どこのフネかもわからないのに――逆探されたらどうするんだい!」
「大丈夫だよ~ボクが逆探されるわけないじゃん~!」
ペトラは「セキュリティが甘々なんだもん。お里が知れるよぉ~!」と、悪びれもせずに笑みを浮かべます。
「そうね、電子戦対策がまるでなってないわ」
「まさか君もなにかやってるの⁉」
「レーザー通信のサイドローブを拾っただけよ」
ナワリンは「遮蔽と絞り込みが甘いわ」と言って、音声データを流します。
「海賊退治は我が国にとっても利益だ」
「こないだウチの船団が食われたんだ……」
「わたりにフネとはこのことか」
会話の内容からして初めて見る艦艇は、共生宇宙軍の物ではないようです。
「ははぁ、この辺りの通商路を共有している勢力が海賊討伐に加わっているのか」
「海賊討伐に一枚かませろ~ってことだよねぇ~!」
辺境通商路の防衛協定などにより、今回の海賊討伐には様々な勢力からの援軍が加わっていたのです。
「でも、逆探もされないし、レーザーも甘々なんて、頼りになるのかなぁ?」
「枯れ木も山の賑わい、数合わせにはなるんじゃないかしら」
ナワリンの物言いは大変失礼なものですが、実際そうでもあり、ペトラなどは「戦いは数だよ兄貴~!」と、謎のセリフを吐きました。
「まぁそうかもね……あ、艦隊旗艦が出て来たぞ」
横一列となった艦隊の鼻さきにアンテナやセンサの類を多数装備した艦艇がスウっと進み出て、端から端までを閲兵します。
「共生宇宙軍のステンシルと共に
指揮官が座上しているそのフネは、指揮機能に特化したと思われる重巡洋艦であり、強力な電波やレーザー通信を用いて艦隊ネットワークの確固たる中心となるものでした。
「あら、旗艦の上の方に光の渦が出て来たわ。艦外立体映像装置を使うみたいね」
艦外立体映像装置とは、ナノマシンを噴霧することで巨大な立体映像を作り出す装置であり、それが艦隊旗艦の上方に光の霧のようなものが巻き起こし、シュルシュルと映像を紡ぎあげてゆき、今回の海賊討伐の指揮官が姿を現したのです。
「按察官兼指揮官のメリノーさんだ」
平時においては文民である按察官は、同時に共生知生体連合の
「ヒツジのおっちゃん、随分いかつい服装してる~」
「しかも凄く古めかしい恰好だわ」
立体映像装置により姿を現したメリノーは、古式ゆかしい重厚な漆黒の鎧をまとい、その上に執政官が纏うような布地を用いたマントを羽織り、錫杖――按察官のみが所有することを許されたそれを握っていました。
「アレが按察官の正式な軍装なんだって」
「うちの連合って、変に古臭いところがあるわよね」
共生知生体連合は長い歴史を持っており、その長官クラスの按察官と言えば、そういう伝統的なアーマーを身に着けるとされています。そんな服装をしたヒツジは――
「どうも、友好勢力の皆様。共生宇宙軍の皆もご苦労です」
身にした軍装と正反対な穏やかな表情で、ても丁寧な口調で言いました。
「共生知生体連合の按察官の権限により艦隊を出撃させます。私は指揮官として皆さんと共に戦う所存です」
メリノーはホワッとした感じで先を続けます。
「大丈夫なのかあの按察官。とても指揮官をやれるとは思えんぞ」
「共生宇宙軍の軍人だったそうだが、後方勤務ばかりだったのだろう」
「なぁに、アレはお飾りだろうて」
などと、友好勢力の援軍ではそのような声が漏れ出てきます。
「ううむ、言われちゃってるなぁ」
「ヒツジのおっちゃん、ホントに元軍人に見えないから仕方がないかもね~」
「同意するわ。指揮官を虚仮にされるのはシャクだけどね」
援軍に駆け付けた友好勢力のフネから伝わる言葉に、デューク達はいささかの不安を覚えつつ、海賊討伐に向かうのでした。
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