第368話 部隊指揮へ
出陣式を終えたデューク達は、わずかながらに時間があったものですから、いつものように電波の声でおしゃべりをしていました。
「今回の海賊討伐は、各自それぞれ違った配置なのよね」
「うん、スイキーは空母打撃部隊の航空参謀、エクセレーネさんは指揮本部付の情報参謀だったね」
「使える物は無駄にはしない、共生宇宙軍の伝統だぁ~!」
指揮官であるメリノーはリリィ教官と相談の上、中央士官学校の学生である彼ら5名を海賊討伐艦隊の各所に配置しています。これは優秀な能力を持った候補生を実地に訓練するだけではなく、その能力を十全に活かすための配慮でした。
「僕達は本体直属の各部隊で、10隻くらいの小隊を指揮することになってるね」
実習中の士官候補生が指揮を執ることは普通はありませんが、メリノーが「中央士官学校の学生ならそれくらいできて当然だよ。それに君たちは相当な実戦経験があるのだから」と言って、按察官権限でデュークらを野戦昇進扱いの上、部隊の恰好を任務部隊方式にしているので、法的には問題ありません。
「いつかはやることだしね。その時が来たってことさ」
デュークはいきなり小隊長をやれってビックリしてはいたのですが、彼の目的は立派な指揮官になって最後は艦隊総司令になることですから、「学校の勉強の通りにやれば大丈夫!」などと、少し強気になっていました。
「クフフ、腕が鳴るわ」
ナワリンは基本的に脳筋な氏族の出身なので「部下を引き連れて、海賊どもとひと合戦――なんて素敵!」などと、鼻息を荒くしています。
「わーい、ボクが小隊長殿だぁ~!」
ペトラは「これだけは言っておく、絶対しぬな~!」などと、どこぞの甘ちゃん小隊長のようなセリフを漏らしていますが、指揮官としての心構えは一応できているようです。
「でも、デュークは後衛部隊に配属なのよね。補給部隊だったかしら?」
「うん、その護衛任務だね」
今回の海賊討伐には民間船が200隻ほど徴集されており、共生宇宙軍のフネを合わせて、250隻程の補給部隊が随行するのです。
「ここにデュークを使うってことは、それだけ補給線を重要視してるんだわ」
「主要航路から横道に向けて何回もスターラインする所に行くのだものね」
「うんうん、海賊以外の他の誰かに襲われる危険性は否定できないよ~補給線が寸断されたら大変だもん」
一般的な考えであれば超大型戦艦のデュークは、前衛において強力な打撃力として使うか、手元に置いて予備戦力にするイメージかもしれません。しかし辺境の中でも危険度の高いある意味人外魔境のようなところでは補給部隊の護衛の要として置くのは当然のことかもしません。
「猟犬たるよりも良き牧羊犬であれってことだものね」
「それが軍艦の本質だってフユツキさんも同じこと言ってたね~!」
「完全に同意するわ」
生きている宇宙船の軍艦は、最前線に立って壮絶なバトルを繰り広げるような生き物ですが、補給がなくても戦えるというほど阿呆はおりません。むしろ――
「
「補給は満ちあふれんばかりで丁度いいのよ」
「現地調達……なにそれ、美味しいの?」
などと龍骨の中のご先祖がピーチクパーチク騒ぐような生き物なのです。
「他の種族だと、時々、その辺分かっていない軍人がいるらしいけれどね」
「あ、知ってるわ。まともな補給線を構築せずに部下を戦わせて自分は料亭で豪遊したり、臨機応変に高度な柔軟性を維持して現地調達とかのたまう軍人ね」
名前は無茶口とかナイフ准将だったりするのかもしれませんが、残念なことに共生宇宙軍にも時折そのような愚将が現れることがあります。
「メリノーのおっちゃんが、まともな人で良かったよぉ~!」
「まったくね、軍人らしくないお役人面のヒツジだけど」
「全然同意するよ……って、そろそろ時間だね」
デュークは「おしゃべりはここまで、無線封鎖が始まるよ」と言いました。同じ部隊に配備されていれば電波の声やレーザー通信によるおしゃべりはいくらやっても問題ないのですが、作戦行動中の艦隊で私的な部隊外を通信など行うことは厳禁なのです。
「実戦下での指揮なんて始めての経験だけど、皆も頑張ってね!」
「うん、頑張らない程度に頑張るよぉ~!」
「指揮官先頭で頑張ってくるわ!」
お喋りを中断したデューク達は「サラバ、マタアオウ」と光信号を放ち、自分たちに与えられた部隊の下に向かったのです。
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