第132話 闘技場観戦
闘技場に潜り込んだメリノー率いるデュークらは、とある小部屋に入っています。それまで先導していた岩石種族のトックスは、「ワシは準備があるからの」と言って去ってゆきました。
「ここが闘技場かぁ」
「凄い歓声だわぁ!」
「知性体がいっぱいねぇ~~!」
デューク達の眼下には、直径200メートルほどのフィールドがありました。その周囲を円形の客席が囲んでいます。
各席では、様々な知性体が腰を下ろし、いままさに始まらんとする見世物に期待をかけて、熱気と興奮が渦巻かせているのが分かりました。
デュークらは、それを重力制御によって浮遊する客席から眺めていたのです。
「もう、随分と試合が進んでいるものだな……」
そう言ったメリノーは、空中に浮かぶ大きな映像版の表示を見るように言いました。
「前座試合は、手持ち武器での殴り合いだったようだな。野蛮ではあるが、華のあるものだ。第二試合は、未開拓惑星の野獣を用いた――」
などと、メリノーは解説を始めます。第三試合は素手によるレスリングだったようです。電流金網デスマッチ――ダブルノックダウンで勝者なしと表示されていました。
「はぁ、格闘技っていうから、こう――」
「ボクシングみたいなものを想像していたかね? まぁ、総合というやつだ」
この闘技場における暴力の見世物とは――「ありとあらゆるシチュエーションにおける闘争のことを言うのだよ」とメリノーは説明し、闘技場をよく見るように示します。
「さて、次の試合は……なんだマシンバトルか……」
メリノーは小馬鹿にしたような感じで鼻を鳴らしました。
「マシン――? あれか――」
デュークがアリーナを眺めると、通常の知性体を数倍にもしたような大きの厚い装甲に覆われたマシンが見えました。それは二足歩行で、背中に大きなエンジンがついており、機械の腕を持っています。
「――あれは軍用のパワードスーツだぞ!」
「陸戦隊が使う兵器よね? 惑星上の制圧用だったかしら」
「あのような無粋な機械を使った闘技も催しの一つなのだよ。ま、本当に無粋なものだが、偶にはいいかもしれん、見物するとしよう」
メリノーは、フンと鼻を鳴らすと、据えられた椅子にどっかりと座ります。デュークらもカラダに合わされた椅子に座りました。
「表示寄ると――紅い機体に乗っているのがクリムゾンって言うのね、蒼いのがブルーファング選手ねぇ」
ペトラが掲示板に表示された機体の名称を読み上げたとろろで、試合の鐘が鳴りました。
闘技場の中心をはさんで対峙していた紅と蒼のパワードスーツ同士が、エンジンを全開にしてぶつかるのです。
「うっ、速い!」
中央部で激突したパワードスーツたちは、そのまま近接戦闘に移ります。ブルーファングが乗るパワードスーツがブン! と蹴りを出すと、クリムゾンは機体を巧みに傾けてこれを躱し、死角から拳を突きあげました。
迫りくるクリムゾンの拳に対して、ブルーファングは機体をステップさせてさらりと回避し、そのままの勢いで回転すると、機体に備わったスーツの足を跳ね上げました。
反撃を受けたクリムゾンは、襲い掛かるブルーファングの蹴撃をガードしながら受けながして後退しました。
そして両機は構えを取り直すと、また激しい機動を繰り返し始めます。
「パワードスーツって……あんな動きができるほどものだったかしら?」
鋭い動きで、ド突き合いを繰り広げる二体の動きに、ナワリンは感嘆の声を上げました。
「格闘戦用にチューンしているのもあるが、乗り手の腕だろうな」
激闘が続きます。クリムゾンは攻撃を重視しており、ブルーファングは回避重視のスタイルのようです。双方はエンジンを全開にしながら、パンチや蹴り、あるいは肘などをぶつけ合うのです。
「凄いわねぇ、教官たちが見せてくれた演武の様だわぁ」
「私たちでは真似できないわぁ~~」
ナワリンとペトラは、紅い機体と蒼い機体が繰り広げるバトルに目が釘付けになっています。彼女たちは激闘に合わせてカラダを傾けたり、クレーンをシュシュシュっと無意識に動かしました。
「これが、格闘技――ですか」
「生身のバトルとくらべものにはならんがね……ま、一応格闘技の一種ともいえなくもないな」
メリノーは、少し小ばかにしたようなそんな口調で言うのです。
「マシンバトル――お嫌いなので?」
「嫌いと言うか、好みではないというだけだよ」
メリノーは、ちょっと、そっけない感じで言ってから、少し大人げない顔を見せたかな……というほどに瞑目してから、改めて闘技場の中に目を向けるのです。
彼がパワードスーツの動きを追っていると、ブルーファングが回避重視から攻撃に転じたことに気づきます。
「ほぉ、動いたか。さて、どうなることやら」
ブルーファングは強烈な蹴りを立て続けに、ヒットさせ始めます。クリムゾンはそれに対して、防戦一方となりました。
「蒼い方――ブルーファングの方が、強いんですかね?」
「マシンバトルは専門外だがね、オッズは、ブルーファングが有利か――あちらの方が勝率が良いようだ」
クリムゾンは腕を上げてガードするのですが、そのたびに装甲がはげ落ちてゆきます。
「中身――大丈夫なんですか?」
「ん? まぁ、医療用のナノマシンをしこたま飲んでいるだろうし、そうそう死にはせんよ」
「死にはって――もしかしたら――」
「当たりどころが悪ければ、そうなるかもな」
メリノーは、そんなものだと言い「あそこにいる選手たちは、どのような結果になっても構わない――そのような契約で、戦っているのだ」と言いました。
「そ、そうなんですか」
デュークが、納得したような、納得がいかないような、そんな気持ちでいると、ボキリ、バキリ――という嫌な音が二回ほども聞こえました。
「あ、あれは――」
「内部までダメージが入ったな」
ブルーファングの機体の右腕から、マシンオイルの他、明らかに内部の選手が流したと思われる赤い液体が漏れていました。
「あれって、血ですよね⁈ 怪我してるのかっ⁈」
「ん? 君たちだって、装甲の下には血が流れているだろうに」
デュークは驚きを隠せませんでした。それに対して、メリノーは意外そうな声を上げるのです。
「で、でも、血を流してまで――乗ってる選手は――⁈」
「血を流す――格闘技とはそういうものなんだよ。ふむ……」
クリムゾンの両腕はだらりと下がり、機体が闘技場の中心で片膝をつくのです。
「こ、これで終わりですよね――降伏とかあるんでしょう?」
「そうだな……この辺でお開き――?」
メリノーが「
片膝をついたクリムゾンは、ギリギリと機体を軋ませながら、また立ち上がったのです。
「ほぉ、クリムゾンは諦めないつもりだぞ?」
メリノーは眼をきらりとさせながらそう言いました。
そして、ブルーファングは両腕を損傷し内部にまで深手を負ったクリムゾンに向けて、首を掻っ切るような仕草をしています。
「あれは――⁈」
「止めを刺すと言うことだろうな」
「えええ、死にますって――っ! 止めさて――!」
デュークはちょっと待ってよ思うのです。「危険、危険」と、龍骨からコードが流れてもいます。ナワリンとペトラもさすがにこれは――と、身を固くしています。
「ははぁ……」
デューク達がジタバタしている中、メリノーが何かに気づきました。
「ふむ……まぁ、見ていなさいな……なるほどね、マシンバトルなどと馬鹿にしていたが、彼らも格闘家ということか」
メリノー鼻を鳴らしもせず、眼下の場面を食い入るように見つめます。
クリムゾンがファイティングポーズを取っていました。ほとんど動かない両腕は、もはやパワーアシストの機能が10%以下まで低下しているはず――それを生身のカラダの力で無理やり動かしているのでした。
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