第133話 闘技場観戦 その2

 デューク達の眼には、両腕の機能がほとんど失ってしまった紅い機体が映っています。動かぬ腕を無理やり上げて、ファイティングポーズを取る姿には、どこか鬼気迫るような雰囲気がありました。


「でも、あれじゃ戦えない…………あっ!」


 ブルーファングが止めを刺そうと猛ダッシュを開始します。クリムゾンのはそれを避けようともせずに、ただ構えを取るだけでした。


 ドガキン!


「ッ――――!」


 機械が弾けるような音が闘技場に響きました。デュークは、それがクリムゾンの機体が壊れる音だと感じたのです。そして彼は、闘技場に紅い機体が倒れ込むと思ったのですが――


「ほぉ……」


 ――メリノーの呟きと共に、ブルーファングの機体が闘技場に沈みこんだのです。


「ふぇぇぇっ⁈ なんで、攻撃したほうが倒れるんだ……」


 デュークが艦首を傾げると、メリノーは、「右のクロスカウンターだな」と教えてくれました。残ったパワーを起死回生の反撃に使い、見事にやり遂げたというのです。


「相手の拳の内側に沿って、拳を合わせるのだ。すると、攻撃側と自分の速度が、エネルギーになり、破壊力が2倍になるのだ!」


 メリノーはシュっとした、フックを見せました。


「なるほど――正面衝突事故みたいなものですねぇ」


「しかも直前でひねりを加えていたから、破壊力はさらに倍の4倍だったろう!」


 メリノーは手首をクルクルと回しました。


「へぇ……ひねりを加えると攻撃力が増すのかぁ。近接戦闘で使ってみようかな」


 デュークは、クレーンの先をフィィィィン! と回転させました。


「ほぉ、それを見ると、新兵時代を思い出させるな」


「と、いうと?」


 メリノーは言うのです、新兵訓練時代に一緒になった龍骨の民が、デュークと同じようにクレーンの先をクルクルと回していたことを。


「癖、だったのだろうなァ」


 元新兵、色々あったのちに、今は執政府のお役人――そんなヒツジが昔を思い出して、こんなことを言うのです。


「彼は、客船だったね……穏やかなフネ……だったよ。彼の拳は、軽やかで、しなやかだったなぁ……そして彼は、龍骨の民にしては、他人を乗せることを嫌がらない、奴だった」


 メリノーが言うには、その”客船”は、恒星間流星雨に叩かれて、早くに引退したというのです。


「それって、もしかして――」


「ん? ベッカリアという、巡航客船なんだがねぇ」


 デュークは、その名前聞いて、「あ!」と思うのですが、メリノーが瞑目して、昔を振り返るので、こういう他ありませんでした。


「……あの、ベッカリアって……僕のおじいちゃんなんですが……」


「ん――君はベッカリアの氏族だったか!」


 メリノーとデュークのおじいちゃんの一隻は、昔の友達だったようです。


「まぁ、本当に昔のことだな…………」


 デュークのネストにいた巡航客船は――ガタの来た老骨船でした。その彼と新兵時代を同じくしたメリノーは、一体どれほどの歳なのでしょうか。


「ええと、メリノーさんって、結構なお年なんですか?」


 デュークは、素朴な疑問を投げかけることしかできませんでした。


「おお、 我ら一族はメトセラの子ら長寿の家系だからな」


 指を折々数える彼は、「奴とであったのは、60年以上昔のことだな」と呟きました。ヒツジの種族は、かなり長い寿命を持っているようです。


「あれはいいライバルだったよ……だがね――ヤツは母星に還るとか言って、現役から離れたのさ」


「……へぇ、爺ちゃんと同じ年の人が――まだこんなに若いんだ」


 デュークが見たところ、メリノーは40歳程度の知性体に見えるのですが――


「種族の寿命の差と言うものは、かなり離れているのだよ」


 ――そう言うメリノーは、軽やかな笑みを見せるのでした。


「そしてね、それを超越するような種族もいるのだよ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る