第337話 スカベンジャー

「さてさて原住民の皆さんの様子はどうだ」


「お互いに艦艇を回頭させて、後退に移っているみたいだよ」


「追撃戦は起こっていないってことは、戦闘は痛み分けってところだな」


「そうみたいだねぇ」


 デューク達が見たところ、原住民もといこの星系の住民――二つの勢力の戦闘は散々に打撃戦を繰り返した挙句、エネルギーを使いつくして双方撤退というところに落ち着いていました。


「さて――今の戦闘をどう評価する? デューク一回生」


「ここで試験?」


 士官候補生は二回生が一回生にこのような質問を投げかけることがあります。それは一種の試験のようなもので、士官教育の一環です。スイキーはそれまで遠くから眺めていただけの艦隊戦について分析するようデュークに求めました。


「戦闘終了とはいえ、すぐさま調査に向かえるわけではないからな、ちょっとばかりの時間を置く必要があるだろう?」


「それはそうだね。ええと――」


 納得したデュークはこのように答えます。


「敵味方が艦列を合わせて真っ向から殴り合ってたね。正面切っての艦隊決戦といえば聞こえはいいけれど――」


「ふむふむ」


「単に宇宙技術レベルがあまり高くなくって――その上宇宙戦闘についてのあれこれが確立していないものだから、戦術に幅を持たせられないだけだね」


「ふむふむ」


「バリア技術があるから、あれだけ長く殴りあってたけれど、やっていることは艦隊戦というより――」


 デュークはそこで「隊列を並べて銃を撃ち合っている感じ?」などと言いました。


「うむ、いわゆる宇宙戦列歩兵というやつだな」


「そうそう、それそれ、そうせざるを得ない理由があるってことは、練度が足らないのか、士気の問題か。確かめないとわからないけれど」


「それはそうだな」


 さらにデュークが言うには「技術的には同等で、数もそんなに違わなかったから、痛み分けとなるのは当然の帰結だったってことかな」ということでした。


「未開星系のことだから、大体推測なんだけれど」


「いや、俺の見立てと大体同じだぞ」


 スイキーは曲がりなりにも星系軍少佐であり、実のところ艦隊戦闘に関するエリート教育を受けているうえ、艦隊指揮官経験があるのです。その見立てとデュークのそれが同じということについてスイキーはニヤリとするのでした。


「お前、良く見えてるじゃねーか」


「僕だって士官学校候補生だもの。勉強はしているし――それに僕はカークライト提督に実地で教えて貰ったことがあるんだよ」


「そうだった、お前、艦隊指揮についてはいい成績だったしな」


 デュークは中央士官学校で艦隊指揮についてのあれこれを学習していました。その彼はメカロニアとの戦闘でカークライト提督の思考や手腕を見た経験を基に「ははぁ、そういうことだったのかぁ」などと深い理解を示し、その分野では高得点を勝ち取っていたのです。


「お前は軍艦型の龍骨の民で、指揮型なのかもしれんな。くかかっ!」


「指揮型かぁ……そうだといいのだけれどね」


 軍艦型の龍骨の民は、兵士艦型ソルジャー嚮導艦型リーダー技師艦型エンジニア参謀艦型オフィサーなどと言った言葉でその個性や才能を評されることがあるのですが、そのほとんどはソルジャーかリーダーであり、高級軍人的な性格を持つ艦は希少な存在でした。


「まぁ、士官学校に入る時点でほぼ確定なんだがな……その上、俺も含めて執政官候補生だからなぁ」


 加えて執政官をやらされる可能性すらあるものですから、デュークは執政官――龍骨の民ですから、執政艦になるよう求められているのです。


「そいつはさておき――戦場清掃の気配はあるか?」


「ごく短時間で終わったみたい。どんどん戦域から離れてゆくもの」


 戦場清掃とは、破壊された艦や脱出した人員――場合によっては遺体を回収して、敵の手に渡さないようにすることを意味していました。


「んじゃ、かなりのデブリが残っているか……スカベンジャーの存在は見えるか?」


「ええと、スカベンジャーってなんだっけ?」


「宇宙戦闘後の残存物を回収すんのを商売にしている一種のサルベージ屋だぜ――なんでもいいから跡地に民間船らしきものはあるか?」


「サルベージ屋ならなんとなくわかるけど……船の回収屋さんだったっけ?」


 デュークは視覚素子を伸ばして、それらしいフネを探しますが、頭に疑問符を載せてもいます。


「そういうのはいないなぁ」


「ふん、ってことは星系内の民間技術や経済が成熟していないのか」


 そんなことを言ったスイキーは「星系内戦闘をやれるだけの力があって、恒星間に打って出ようとしているレベルなのに、ちょっとちぐはぐだな」などと言いました。


「……ねぇ、それって経済とかの話?」


「ん、そうだが、わからんか?」


「僕は軍艦だから……苦手分野なんだ」


 デュークは軍艦型であり艦隊指揮の才能の萌芽が見えているのですが、経済とかビジネス的な方面のことには知識も理解も不足がちでした。


「おいおい、いかんぞ。ただの龍骨の民ならそれでもいいが……士官ならばそういう方面を勉強しとかんといかんぞ」


「うう、それって教官にもいわれたよ」


 艦船にしろ船舶にせよ、龍骨の民というものは小難しいことが苦手でした。デュークはそういうことを務めて勉強するという珍しい資質をもっていますが、苦手なものは苦手なのです。


「世の中経済が回らんと、飯がくってけねーんだ」


「ご飯が食べられないのはいやだなぁ……」


「なら勉強しろ。飯を食うためにな」


「そうだね、もっと勉強するよ!」


 経済が回らないとご飯が食べられない、ご飯を食べるために経済を勉強する――論理のプロセスをすっ飛ばしたかのような二段論法ですが、デュークは「ご飯を食べるために勉強しよう!」と、寝ても覚めてもご飯ご飯ご飯、大量のご飯! というなどという龍骨の民らしい姿勢を見せました。


「さて、他に艦艇らしいものもないようなら、戦場跡地を調査するとしよう。さっきも言ったが、フネの残骸からブラックボッスやメモリをいただくぜ」


「ええとさ、それって窃盗なんじゃ……法的に大丈夫なのかな」


 本星系における原住民の方々とは特に戦争状態でもありませんからら、その残骸をあさるのはデューク的には「どうなんだろ?」という感じです。


「連合監視下の星系ではな、監察艦隊は調査業務なら大よその事は許されるんだよ。心配なら頭のなかの法律書を確かめてみろ」


「そうだねぇ…………」


 デュークは副脳に収めた六法全書を引き引き「あ、ホントにOKなんだ。まぁ、こういう場合だしなぁ」などと自分を納得させます。


「わかったら、なるべくデカめのフネの残骸を探してくれ」


「了解、探してみるよ」


 そう言ったデュークは視覚素子を伸ばし、この星系の調査を進めるために必要なフネの残骸を探し始めたのです。

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