第338話 残骸探し

「ひっでぇ放射線反応だぜ。さすがは未開星系というべきか、核燃焼の効率が悪くって、残留放射能物質がだらだら残ってやがる」


「効率の悪い核兵器を一日中投げあっていたわけだから、しかたがないよ」


 恒星間勢力における核兵器というものはその燃焼効率が理論的な限界値までのぼるため放射性廃棄物がきわめて少ないものです。そういった意味では比較的綺麗な兵器といえるのかもしれませんが、この星系ではそこまでの技術はないため戦域跡地は大変な放射能汚染が発生していました。


「ああ、僕の口の中まで汚染が入ってくるよ。苦いなぁ……ひどい汚染度」


 口の中の放射能探知機であたりにまき散らされた核残留物の匂いを嗅いだデュークは「ひどい匂いだよ」と呟きました。宇宙船である彼にとって放射線というものはかなり身近な存在でしたが、放射性廃棄物というのはあまり好みではありません。


「あ、でも、スイキーは放射能って大丈夫なの。生きている宇宙船と違って、普通の種族にとっては危険なものでしょう?」


「そらそうだ、だが大丈夫だ。この機体の放射線防御は戦艦並みだから問題ないぜ。それにそもそも俺は耐放射能ナノマシンをしこたま飲んでいるからな」


 共生宇宙軍の軍人は対放射性ナノマシン剤――宇宙放射線病の予防薬でもあるこれを戦闘前に必ず三錠飲む決まりになっています。その効果は数日は継続し、放射線防護と遺伝子修復効果があるうえ危険物質を中和し体外に排出するという、恒星間航行以前の種族であれば魔法のような薬です。


「だけど、あの薬、すげぇまずいんだよなぁ……」


 対放射性ナノマシン薬はそれは危険極まりない放射能に対して極めて有効な物質ではあるのですが、大変に糞不味いというのが定説でした。


「え、でも、僕は結構この味好きだけどなぁ」


 そう言ったデュークは思い出したように懐から抗放射線薬を取り出し、飴玉のような形をしているそれをナメナメし始めました。生きている宇宙船はその薬を飲む必要はまったくありませんが、規則なので持たされているのです。


「えっと、まじで効くぜ、それって美味しいのか……」


「え、美味しいよ? 甘いし」


 デュークには舌がないのですが、その時のスイキーは「テヘペロみたいな顔しながら口元をなめるな……龍骨の民ってやつぁ…………」という気持ちになったのですが、それはどうでもいいことなのです。


「とにかくフネの残骸だ。少しでも原形を保っているやつを探してくれ」


「アイアイ」


 デュークは真ん丸な目玉をクリクリさせて周囲に手頃なフネが落ちていないか探します。大部分は打ち捨てられたフネの残骸で、もはやただのデブリにしかならないものばかりですが――


「…………あ、右前方1000宇宙キロに300メートルくらいのフネがあるね。多少は状態がよさそうだよ」


「ん、俺たちの基準でいえば、大型駆逐艦クラスか。熱源は?」


「あるけど、熱源は炉のものか残留放射能か判別ができない」


「そうか……近づいてみんとわからんな」


 そう言ったスイキーは艦載機を操り共生知生体連合基準で駆逐艦と思われるフネに近づいていき――しばらくするとその全容がはっきりとしてきます。


「艦首と艦橋がズタボロだね。推進機関らしいところは無事だけれど、釜の火は完全におちてるね」


「ふん、指揮機能に直撃を受けて総員退艦ってところだな。だが、爆砕処理もしてねぇってことは、相当慌てていたのかもしれん」


 そのフネの船体には艦橋部が熱でねじ曲がり爆発したような痕跡が残っています。デューク達はフネが稼働していないことを確かめつつ、さらに距離を詰めてゆきました。


「壊れているけれど……元の姿はそれなりにまともなフネだったみたいだね。主機を入れ替えれば恒星間でも行ける作りに見えるよ」


 デュークが見たところ、そのフネのつくりはかなり手堅いもので、エネルギーの問題を解決――縮退炉に交換できれば、恒星間でも通用するものに見えたのです。


「未開星系といっても、そろそろ恒星間に出ようってところだからな。それに大規模な星系内戦闘をやらかせるフネなんだ。もし機能が生きていたら、この距離ではかなりまずいことになるぞ。どんな兆候も見逃すなよ」


「分かってる。目を離さないよ」


 科学技術の差はあれども宇宙に出るような技術をもっている種族というものは、その力を破壊に向かわせた場合、技術差をひっくりかえすようなことがあります。それはサイキック能力を抜きにしてもそうなのですから、デューク達はかなり慎重に歩を進めたのです。

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