第315話 中央士官候補生学校
それから数か月というもの、デューク達は主に座学で士官たるの基礎を叩き込まれます。それはリーダーシップや軍人哲学と言った士官に必要なマインドセットであったり、一般的な軍事的知識の確認だったりするのですが――
「リーダシップの要諦は、指揮官率先垂範んんんん! 人より先に立って物事を行い、模範となるのが指揮官なんだぁぁぁぁぁぁッ! それでなければ、部下はついてこないぞぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
やたらと語尾が熱いだけでなく、「もっと熱くなれよぉ!」なる珍妙なセリフを織り交ぜながら熱狂的な講義に定評があるマツガオ教官がいたり――
「いいかい、君たち。軍隊というのは暴力装置に過ぎない。そんな装置の中に生まれる名将っていうやつは、効率よく敵を殺すことができる道具にすぎないんだ」
軍隊というものを斜に構えた風に表現した教官は「名将――君たちはそれになることを強制されてるのさ」などと、のほほんとした口調で伝えてくるヤング教官がいたりと、内容は様々でした。
「戦争とは政治手段の一つであり、政治そのものに他ありません。ただその目的とするところが、相手を屈服させる物であるか、納得させるものであるかにより大きな違いがでてくるのです」
と語るウサギ族のラウゼビッツ教官が、戦争の意味を教えたり――
「この宇宙には不確定要素がそこら中に満ち満ちている。それは濃厚なカオスではかりどころのない非線形で、掴みどころのない曖昧さだ。だから常に先手を取って、敵の鼻づらを引っ張りまわせ! そのために必要なのは、”高度に柔軟性を維持しつつ臨機応変に対応する”ことだ」
なんだか目の下に隈を浮かび上がらせた教官が力説します。傍から聞いていると「それは行き当たりばったりというのでは?」と評されるかもしれませんが、中央士官学校の教官を務めるような歴戦の猛者にして高度な参謀教育を受けている彼が言うのですから間違いはないのでしょう。
「素人は見栄えのいい正面戦闘ばかり気にするが、我々玄人は兵站を重視する」
そう言った教官は第五艦隊総監部から派遣されて来たオーオイ大佐です。彼は龍骨の民でありながら、どんな時でもミサイルからパンティーまでそろえて見せると豪語するような艦であり「恰好のよい戦艦をいくら備えても、補給が続かんのでは戦争は継続できない。そもそもそんな状態では、そもそも国が持たない」と力説しました。
そんなオーオイ大佐の言葉にデュークは「ご飯が食べれなければ戦争もなにもないものなぁ」と100点満点で220点くらいの共感を得ることとなります。それはともかく、良い指揮官というものはロジスティクスを最重要視するものでした。
「連合の敵――共生知性体連合の敵。それが外敵ならばその認定は大変に簡単なことだ。だが、これが仮に連合の内にあるのであれば、どうだろう?」
共生宇宙軍元帥ヌシ・オコート――先の執政官は「共生知生体連合に加盟していること自体が、他の種族の存亡を原因となるような場合を想定するのだ」と続けました。
「例えば……母星に住む住民が、あの知性を失ったキノコとなったような場合だ。条件として、君たちはいまだ知性を失わず連合軍人として他星系にある」
と言った元帥は「なお、これに答えはない」と、あとは自習時間だと退出します。この時の彼が言いたかったのはそのような極限事態は稀であるかもしれないが仮に遭遇した場合にはどう対応するかという思考実験を済ませておけということでした。
「マザーが狂ってあのキノコみたいになるってことを想定するって~~?」
「そいつは私たちの神話に出てくる”餓竜”みたいなもの? あ、なんでこんな時に、こんなコードが出てくるのよ……」
「つまり太陽を食べる奴が、幼生体として産まれてきたら、どうするか? いやだなぁ、想像もしたくないぞ……」
デューク達はなかなかにあり得ない事例を龍骨に浮かべ「でも、それがあると仮定して――」などと艦首を捻ります。周囲の士官候補生も同様にして「その場合、共生宇宙軍軍人としてどうするか?」ということを考えるのでした。
他の士官候補生は「一種族のみが孤立するということか? あり得ない……いや、宇宙に絶対はないぞ」やら「僅かな可能性があるのであれば――検討しておくべきか?」とか「そうならないように全力を尽くせということではないか?」などと議論を深めるのです。
この辺りが普通の士官学校とは違う、共生知生体連合を動かすエリート養成機関――中央士官学校の機微というものなのかもしれません。
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