第314話 腕立て先輩

「へぇ、スイキーが教えてくれるんだ」


「でも、私達とそんなに軍歴が違わないのに大丈夫かしら?」


「エロペンギンが教官って不安だぁ~~!」


 スイキーが教官役を務めるというので、デューク達は一抹の不安のようなものを感じるのです。共生宇宙軍新兵訓練所を出てからかれこれ1年以上は経っているのですが、


「おいおい、何か勘違いしてねーか? 共生宇宙軍の軍歴はまだ二年にもならんが、俺っちは星系軍少佐だぜ。将校教育はとっくのとうに済んでるんだ」


 スイキーはペンギン帝国星系軍において少佐という地位にあり、航宙戦闘機大隊の隊長まで務めたトリでした。星系軍上がりの共生宇宙軍人は往々にしてそのような経験を持ち、その場合将校教育は省略されるのです。


「その上、艦隊指揮経験まであるんだぜ?」


「そういえばそうだったね」


 彼は将校としての素養は十分すぎるほどあり、その上メカロニア戦役において万に近い艦艇を統率した経験があるのです。彼の出自があればこそですが、そのような経験を積んだ士官候補生はなかなかいるものではありません。


「ここは一発、万の軍勢を率いた指揮官スイカード様に任されろい。士官としての心得ってやつを叩きこんでやるぜ! クワカカカカカカカカカカカッ!」


 などとスイキーがクワクワと高笑いをしていると――


「士官候補生スイカード! なに笑っているっ!」


 アライグマな教官リリィがピシャリとした声で叱責しました。


「やべぇ……」


 童顔な上、種族的に可愛らしい生き物であるリリィ教官ですが、雑食性で動物性のタンパク質だってモリモリと平らげる生き物から「そこのトリ、くっちまうど!」というような勢いで怒られれば、飛べないトリなどひとたまりもありません。


「貴様は共生宇宙軍士官候補生、しかも二回生なのだ! 自覚を持て!」


「サ、サー! イエス、マムっ! 分かっております!」


 リリィ教官は「いいや、わかっておらん! このトリ頭め! 新兵からやりなおせ! 懲罰腕立て1000本、はじめっ!」と罰を与えました。スイキーは「し、新兵になりますですっ!」と叫んでからバタンと倒れこみ、フリッパーを使って腕立て伏せを始めました。


 そんな光景を眺めたデュークは「飛べないトリの翼だと100回も腕立ては無理だろうなぁ」などと思うのですが――


「フンフンフンフンフン!」


「す、凄い勢いだ……」


 意外なことにスイキーはフリッパーを高速回転させながら腕立てをこなしているのです。デュークが「士官候補生ともなると、あれだけのことができるのか!?」などと驚愕していると――


「ペンギンのフリッパーは不器用だけど、力はあるのよねぇ」


「あ、エクセレーネさん」


 いつのまにかデュークの達の傍に来ていたキツネ顔な美女エクセレーネが「どうも、後輩殿」と言いました。


「もしかして、エクセレーネさんは――」


「ええ、私もあなた達の担当二回生ってことになるわ」


「あ、そうなんですね。よろしくお願いします! ところで、エクセレーネ先輩はスイキーのことを知っているんですね?」


「そりゃそうよ、あいつと私はバディだから」


 中央士官学校では、士官候補生ひとりひとりに個室が与えられるのですが、教練を共にする相棒としてその種族的特性や経験に基づきいたチームメイト制がとられています。


「あいつ一回生の頃からああなのよ。軽口は叩くわ、女癖は悪いわで、問題児なの」


 エクセレーネは「バディをやるのも大変だわ」と苦笑いしました。馬鹿にされたような当のスイキーはというと、「フンフンフン! 100回終わりましたであります!」などと言い、「よろしい、では追加で100回、はじめっ!」とさらなる罰を受けるのでした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る