第311話 執政官に至らせる道

「皆も試験に合格できたんだね」


「そうね、あっさり合格だったわ」


「ボクもだよぉ~~!」


 試験に合格したデューク達は別室にて待機しながら会話していました。周囲にはほかにも試験を終えた合格者がいるのですがその数は数名ほど――これはデューク達の解答速度が尋常ではないことを示しています。


「ご先祖様のおかげだわ。あんなうまい手をサクッと教えてくれるだから」


「多少はアレンジしなければならなかったけれどね~~!」


 ナワリン達も龍骨の中のご先祖様の記憶と記録から、試験問題解決の糸口を得てそれを旨いこと活用して試験を終えていました。


「決め手はやっぱり、ご先祖様の声だったんだね」


「なんだか最近ご先祖様の声がクリアに聞こえるのよね」


「ボクも結構発現しやすくなったよぉ~~」


 生きている宇宙船が持つご先祖様システムは個体差が多く、時と場合により頼りにならないものです。


 生きている宇宙船の龍骨というものはある程度解析が進んでいますがまだ未解明の部分も多く、特に設計図となるご先祖様の記憶と記録は曖昧さを多分に含んでいます。ですが最近の彼らにおいてはそれが顕著に発現しやすくなっていました。


「もしかして、これってドクトルのあの訓練のおかげかな~~?」


「それって麻雀の特訓? 運を引き寄せろとかいってたけれど――関連しているのかしら」


「運かどうかは知らないけれど、天啓とか、たしかにそんな感じでご先祖様が発現してくれたなぁ」


 宇宙軍大工廠のボスであるドクトル・グラヴィティは、多数の生きている宇宙船を解析してきた経験から、彼らの潜在能力を引き上げるような特殊な訓練を施したのかもしれません。


「それはともかく中央士官学校って執政官養成機関だったのね」


「なんだか騙された気分だよぉ~~!」


 中央士官学校は基本的に艦隊指揮官コースなのですが、連合執政府の要人となるような人物を育成する性格を持っていると聞かさたナワリン達は驚いたり憤ったりしています。


「僕はなんとなく、気づいてたけれどね」


 デュークの方は共生宇宙軍のトップになる! などという思いがあるため「宇宙軍総司令になるにはそれしか道がないんだ。そういう仕組みなんだから、仕方がないね」と納得しています。


「カークライト提督みたいな艦隊指揮官になりたいだけじゃなく、宇宙軍総司令にまでなりたいだなんて、あんた壮大な夢を持ったものねぇ」


「旗艦に任命された勢いで、あんなこと言うから~~!」


 カークライト提督に旗艦を任命された際「そうだ君なら宇宙軍総司令だったなれる」などと、唆されたデュークは「僕は海〇王になる!」ぐらいの勢いで、末は宇宙軍総司令になるなどと宣言していました。


 それはただの威勢のいい掛け声のようなものかもしれませんが、実のところ龍骨の民というものは妙に律儀なところがあります。それはニンゲン世界における東洋の侍における武士に二言なしというような性質を持っていますから、デュークとしては違えることのできない約束となっているのです。


「どちらにせよ、私たちはあんたについてゆくだけだわ」


「そうだね~~」


 デュークから「ワレニツヅケ」などと雌型の龍骨の民の龍骨にビシバシ効くセリフを受けた彼女達は、「デュークと同じ航路……行くしかないわ」とか「どこまでついて行くですよぉ~~!」などと思っていました。


 そんな彼らの様子を別室のモニターで眺めている二体の知生体がいます。一体は執政官のトーガを纏った龍骨の民で、もう一人は燕尾服を着た羊型の知生体でした。


「三隻とも、なかなかの資質ですな。思念波能力――ご先祖様システムをかなり器用に扱っていますね」


「ええ、目を付けておいて良かったわ」


「しかし、ナワリンとペトラの動機が不純ですなぁ。雌型の龍骨の民らしいとは思いますが」


「そうね、他の種族だったらそれだけで不合格だわ」


 執政官スノーウインドはお供のメリノー按察官を引き連れ、デューク達の入学試験を観察していたのです。


「でも、うちの種族の場合、動機は問題じゃないわ」


「ははは、龍骨の民ですからなぁ」


 元々、龍骨の民の気質は面倒ごとや厄介ごとに向いていない生き物でした。軍艦型にせよ船舶型にせよ、連合のフネとしての仕事をこなしていれば結構な待遇でいられるという種族的なご身分がそれを助長しているとも言えます。


「だから、見どころのあるフネは、とにかく早いうちに執政官コースに乗せてしまうのよ。遠慮などしているとすぐに逃げるから、それでもってガンガン出世させる。そしたら、元の動機はともかく責任感が芽生えてくるかもしれないわ」


「それはわかりますが、彼らの気持ちはどうなんです? 大人たちがよってたかって、若者を騙しているようで気が咎めます」


「は、騙すなどとは、聞き捨てならないわね」


 メリノー按察官の言葉にスノーウインド執政官は目くじらを立てるのですが、思い起こしたように彼女はこうも言うのです。


「騙された方が幸せな場合もあるのよ」


 と――

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