第312話 士官候補生入校式 その1

「やっぱりフネのカラダが一番ねぇ」


「二足歩行はふらふらして落ち着かないんだよぉ~~!」


「まったく同感だね」


 中央士官学校への入学式を控え、デューク達はフネのミニチュアに戻っています。ナワリンは「デューク、私はヒトであることをやめるわっ!」とのたまい、ペトラは「なじむ、実になじむぞぉ~~~~っ!」と咆哮し、デュークは「中央士官学校の中なら関係者の人たちしかいないもの、元のカラダでOKだものね」と砲塔をクルリクルリと回しました。


 それを眺めているデュークの同期生となる士官候補生たちは「龍骨の民が三隻かとはな……」やら「ほぉ、フネの候補生だなんて珍しい」などと思いながら生暖かい目で見守っています。


 それどころか「やァ、生きている宇宙船の諸君」とか「君たちは実戦経験者かい?」などと声をかけてくる士官候補生もいました。


「えっと、本格的な戦争はメカロニアとの戦い、くらいですね」


「なにっ?! 機械帝国との戦いだと?! そして君は白いフネ……」


 デュークがそのように答えると、士官候補生たちは「白いフネのミニチュア? もしや君たちは……」「軍公報では沈められたと聞いたが、生きていたのか」「やはりな、あれは欺瞞工作の一環だったか」などと察しの良いところを見せました。


 そのような入学試験超エリートの士官候補生たちですが、共生宇宙軍らしく姿形はバラバラで、黒いヤギの士官候補生が「絶望した! この私がフネと一緒に中央士官学校に入学する現実に、絶望した!」などと悪態で実のところ「生きている宇宙船と一緒なんて光栄だなぁ」などと挨拶してきたりもしますが、ヤギの特性を知っているデューク達は「ええと……そうだね絶望だね!」と合わせてあげたりしています。


「主要12種族以外にも異種族がいるわね」


「あれは昆虫型種族――ハチ族かな?」


「不定形生命体のスライミーもいるね~~」 


 士官候補生には、主要12種族出身者もいれば昆虫型種族や不定形生命体など多種多様な種族で構成されているのは言うまでもありません。


「でも、あの仮面を付けているのは初めてみるわ。昔見た鎧型種族のセルヴィーレに似ているけれど、ちょっと雰囲気が違うわね」


「体表の赤外線感度は室温と同じだから、あれは宇宙服かなにかだよぉ~~なんていうか、特務武装憲兵隊のメットに似ているねぇ~~!」


「あれは多分、大気圧とか熱の関係でああいった装具を付けているんだよ」


 デューク達が初めて見たその種族は、全周を覆う鍔のついた黒光りするシェルターヘルムをかぶり、漆黒の輝きを持つ大きな視覚素子を光らせ、口元にある換気装置のようなものからシュコォォォォォパァァァァッ! と、断続的な呼気を漏らしています。


 全体的なフォルムが少しばかり武骨で見る人によれば禍々しさのある――何かの暗黒面に落ちたような外観ですが、デューク達の視線に気づいた候補生は「いぇ~い!」というような気軽な感じで共生宇宙軍式の略礼ピースサインをかましてきますから、中身は気のいい奴の様です。


「あ、入校式がはじまるんだって」


 そんなこんなでデューク達は小ぶりな講堂――100名ばかりを収容できる円形のホールのようなところに座ります。ホールの演壇には教官と思われる知生体がずらりとならんで整列していました。


 デュークは「新兵訓練所を思い出すな……」などと訓練所の入所式にも似た雰囲気を感じますが、選び抜かれた候補生たちは未訓練の新兵と天と地ほどの統制を持っているため、あたりは厳粛な空気に包まれています。


 しばらくすると、共生宇宙軍の高官らしき人物が現れました。

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