第272話 大砲撃
「ふぇぇ、こんな一斉砲撃初めてですよ!」
「ほっほっほ、五千隻の一斉射撃じゃからな」
これまでデュークが経験した最も大規模な戦闘は、アーナンケ救援のために何百隻かのフネと一緒に突撃をしたときのものです。その10倍以上のフネが砲撃すれば、重ガンマ線レーザー光線は数万本にも達するものですから、デュークは「ふぇぇぇ……」と驚きを隠せません。
「敵スターライン降着地点ですごい数の赤外線反応が!」
「効果は抜群じゃな」
デュークの視覚素子には高熱量の赤外線反応――1000を超える火球が巻き起こすそれが舞い込んでいます。敵艦の艦外障壁を貫通した重ガンマ線が装甲に当たり爆発的な反応を起こしているのです。
「あれ? 重力波まで検知してます?! こ、これって――」
「運のないフネがいたようじゃニャ」
デュークの重力センサにはドォンドォンと重力波の波動が舞い込んできます。それは装甲を貫通したレーザーが敵艦の縮退炉を直撃をし、厳重に防護されているそれを破滅的な状態に落とし込んだことを示していました。
「こ、こんなに貫通するなんて……相手だって艦外障壁も装甲も持ってるのに」
「スターライン航法からの降着時は避弾経始が相当に低下するんだニャ」
和尚はさも当然という風に頷くと「第二射、放て」と淡々とした口調で再度の砲撃を命じます。デュークが二度目の号砲を放つと、傭兵集団の艦艇も再び重ガンマ線レーザーを一斉射撃しました。
「ふぇぇ、敵が、と、溶けていく……」
敵集団の中でおびただしい数の火球が巻き起こり艦が次々と爆裂していく光景に、デュークは「すごいや」というシンプルな感想しか漏らすことができません。このときメカロニアの艦艇は大破轟沈状態のフネが1000隻に達するかという被害を受けて隊形はボロボロになっています。
「和尚様、このまま砲撃を続けていれば――」
「勝てるとな? まぁ、そう簡単にはいかんだろうて」
共生知性体連合側が敵の先頭を一方的に殴り続けていれば、砲撃だけで勝つこととが出来るのではないかとデュークは思ったのですが、和尚は「無理じゃな」と応えます。
「まずもって、こちの砲撃の効果が落ち始めておる」
「あ、ホントだ。後ろの方にレーザーが届いてませんね」
メカロニアは轟沈した艦艇にレーザー撹乱剤を詰め込んでいたようで、レーザーの焦点をずらしています。また、爆発四散した艦の装甲や構造材が一種の防護帯のように広がることで、砲撃のたびにレーザーの威力を低下させていました。
「先頭部隊は捨て石にして使い潰す気じゃろ。メカ奴隷を詰め込んだ被害担当艦に死んで盾になれ――敵の指揮官は、メカロニアらしい思考の持ち主だニャ」
「味方を……」
「漏れ伝わるところに聞くと、彼らには”奴婢は城、農奴は石垣、隷は堀、奴隷メカに情けは無用!”なる格言があるそうじゃ。おおかた、辺境軍閥の民を投入したんだろうて」
爆発の閃光の中では「メカロニアバンザーイ!」とか、「奴隷一番特攻しまーす!」やら、「ゴ主人様、メシクレタ。オレ、ゴ主人様ノタメニシヌ!」などと奴隷根性に漲るメカたちが爆散していました。
それらは暗号化もされぬ平文で伝わってきます。敵の士気をくじくため、メカロニアはあえてそのようにしているのです。
「砲撃している僕が言うのもなんですけれど……可哀想ですねぇ」
「経験じゃ、何事も経験じゃ」
トクシン和尚は「ニャムニャム」と散りゆくメカどもに対して念仏を唱え、デュークも「成仏してください」と南無南無しました。
ちなみに、健気な奴隷民のほかに別の声も混ざっています。「なんでこんなことにっ、オワッ!?」やら、「俺はメカ男爵なのだぞ――ッタッァ!?」とか「ポンコッツ家の当主が燃える、燃える、燃える――――ウボア――!」などと、無能が故に奴隷民に落とされた元辺境軍閥所属の辺境貴族達が断末魔の叫び声とともに爆裂していたのです。
「貴族も奴隷になるんですねぇ」
「メカロニアらしい制度じゃな。さて、必要以上の情けは無用。さらなる攻撃を仕掛けるぞよ」
「えっと、撃てば撃つほどレーザー砲撃の効果が低下しますけれど、どうするのですか?」
「長距離対艦ミサイルを投入するのじゃ。デューク君も一発くらい持っとるじゃろ?」
「はい、育ちが悪くてこれまで寝かせていたのがあります」
念仏を唱え終わった和尚は効果の落ちてきたレーザーの使用を抑え、長射程のミサイルを使用するよう命じました。デュークはほとんどの生体対艦ミサイルを使っていましたが、ただ一発だけ残していたのです。
「でも、これって誘導装置が甘々で使い物になりませんよ」
「そこはそれ、ワシが手ずから思念波で操作するとしよう」
和尚はそういうと「ナァゴナァゴ~~」と眠そうな鳴き声を上げながら、サイキック能力を使ってデュークの生体ミサイルに電子介入しました。和尚はカークライト提督のような物理的なサイキック能力は持っていませんが、思念波を活用した長距離通信能力に長けていたのです。
「本来は艦隊統制のために使うものじゃがな」
半目開きになったトクシン和尚が「ゆくぞ!」と呟くと、デュークに残された生体ミサイル――ずっと寝かして合ったので大型に育っていたそれが発射されます。
同時に他艦艇からも大量のミサイルが放たれ、無数とも言える数のミサイル群が敵集団に突撃を開始しました。
「すごい数ですけれど……このままだと敵艦の残骸とかに当たるんじゃ?」
各艦10発として5万発のミサイル群ですが、その前には肉壁と化した哀れなメカ貴族や、その残骸があるのです。
「問題ない。ワシが操るミサイルで他の誘導弾を統制するからの」
「ああっ、全てのミサイルが一列になって……これはミサイルの単進陣か!」
和尚は「|Eclipse first, the rest nowhere《なんぴとたりともワシの前は走らせん》」とか「続け――!」などと嘯きながら、ターボエンジン全開で多数のミサイルを引き連れ、壁の隙間を狙って、さらなる加速を行いました。
「行けミサイル、壁を穿てッ!」
和尚は「一点突破ニャ!」と念力を強くし、すべてのミサイルに対して特定のポイントへ向けて集中するように命じたのです。
「ふぇ、強引にねじ込んだっ?!」
「ほっほっほ、壁があるのであれば、穴をこじ開ければよいのじゃよ」
この時和尚が行ったのはいわゆる思念波によるミサイルの中間誘導であり、その効果は壁となった障害物――哀れなメカ貴族の屍を物理的に踏み越えてゆくのです。
「敵の後方に着弾、爆発が起きてます!」
「よしよし、後続集団に被害を与えたようじゃな」
メカロニアの後続集団で大規模で連続的な爆発が巻き起こり、相当の被害を与えたことを確かめたトクシン和尚は満足げな表情を浮かべました。デュークは「すごい損害だろうなぁ」と、自分がこんな攻撃を受けたら大変なことになるなと、敵に対してある意味同情すら覚えるのです。
「だが、これだけでは終わらんはずじゃぞ――――」
「ほんとだ、敵スターラインが増加してます……う、これはさっきの倍――いや、もっと来てます。それに、うまい具合にこれまでの戦闘域を壁にしてます!」
「先行艦すべてが肉壁要員だったのかもしらんな。本隊が降りるための生贄の羊と言ったところか。共生宇宙軍であればもう少しスマートなやり方でやるところだが……」
メカロニアの侵攻艦隊は、スターライン航法を終える瞬間を叩くという防御側にとって有利な局面を、2000隻近い味方を捨て石にしてクリアしつつあるのです。
「そんな数のフネを使い捨てにするなんて……」
これまでの戦闘を超える大規模戦闘を目の当たりにして龍骨がヒュン! となったデュークはですが、和尚は「ま、これも大規模恒星間戦争のあり方の一つだて」と事無げに言い放ったのです。
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