第349話 エーテルは飲用ではありません

 十分な睡眠をとったデューク達は超空間航路に入り、一路、次の星系を目指して移動していました。


「なんていうか、エーテルの波風があると落ち着く気がするなぁ……」


 今のデュークは活動体を眠らせ、本体を動かしているので超空間を流れるエーテルの波動やしぶきをじかに感じ取っています。


「それに波に乗れるとパワーを使わないから楽ちんだわ」


 ナワリンは初めて超空間航路に入ったとき、エーテルのストリームに攫われるようにして流されもしましたが、今では潮流を読み取って推進力に転用するくらいまでになっています。


「これで液体水素みたいにゴクゴク飲めたらサイコー! なんだけどぉ~~」


 ペトラがエーテルを口にするのですが、化学的な反応を起こすことのない無味無臭な代物なので、喉も潤せないし、おなかの足しにもなりません。


「電磁力にも反応しないし、随分と面白い性質だよね。これって一体どういった物質なのかなぁ?」


「液体のようにも感じる死、気体のようにも感じるけれど、エーテルはエーテルとしか考えられないわ。ペトラ、あんたは何かしっているかしら? 物理学の特講なんて受講していたじゃない」


「ええとねぇ~~聞いたところによると、エーテルは時間や空間みたいな一種の次元的存在なんだって! すごいよねぇ~~全然理解できないけれどぉ~~!」


 士官学校に入ってからのペトラは何故か物理学の方面がお気に入りの様だったようです。でも、基本全くと言っていいほど体系的な科学理解を持ち合わせておらず「考えるな、感じろ! だよぉ~~!」とのたまっています。


「いい加減ねぇ。でも、私も似たようなものか」


「それはボクもだね。ご同慶の至りといったところさ」


 なお、物理学に限らず、その他科学と言ったものについての龍骨の民のスタンスは大体こんなものでした。


「で、次は星系調査の実習先に向かっているのよね?」


「というより未開航路の探索らしいよぉ~~」


 未開航路とはこれまでに超光速航行を用いた航行がなされていない航路です。行った先が遠くから観測したものとは違っている可能性や、帰ってくるための超空間航行ができないどん詰まりの可能性があるため、特段の理由なくそのような航路を使うことは普段はありません。


「辺境セクター第203区画503星系ねぇ。ド田舎を通り越して、前人未到の秘境探検だわ。任務じゃなければ、好き好んでいくところじゃないわね」


「でも、僕は探検なら好きだなぁ。未知の場所に踏み込むときの緊張感って、結構たまらないんだよね。調査業務――任務でそれをやれるって、結構いいかもね」


 デュークは小さなころから探検するのが大好きで、ネストの奥の奥、テストベッツの隠れ家的レストランを見つけたこともあるのです。


「ボクはテレビとか映画で傍から見ている方がいいかもぉ~~。幻の原始民族や未確認生物の捜索、人跡未踏の地底・洞穴を追い求め~~!」


 ペトラは連合ネットのテレビサンライズでやっている「キャプテン・カワグチ探検隊」が大好きでした。


「まぁ、好むとも好まずとも、任務なら行くだけなのだけど、どん詰まりの星系だったらどうするのかしら? 行きはよいよい帰りはこわいどころか、帰れないのよ」


「ああ、それは大丈夫なんだって。調査業務にあたる場合、帰りが通常航行しかできない場合を想定し、推進剤を大量に積んで、Qプラズマ推進を全力で使って帰ってくるんだって。」


 デュークは「今度の調査対象星系は隣の星系まで2光年ほどだから。最悪通常航行でも半年で帰ってこれるよ」と説明しました。


「あ、それしってるよぉ~~! Qプラズマ推進の全力航行だと、最終的には光速の数倍くらいは出るんだよね。どうやって光速を超えるのかは全く分からないけど♪」


 Qプラズマス推進は量子力学的な作用を組み込むことで亜光速なのに光速を見かけ上越えるような効果を産むのです。なお、どういう仕組みでそうなるのかは、連合大学の教授でも説明が難しいことになっていました。


「じゃぁ、どこかで推進剤を大量に確保しないといけないわね。こんなど辺境で、それができるところはあるかしら? この辺りには、辺境艦隊の根拠地もないわ」


 デューク達が使っている軍用の推進剤は共生知生体連合の内海であればさほど珍しいものではありませんが、ここ辺境においては限られた施設、例えば辺境パトロール艦隊の根拠地くらいでしか入手できません。


「教官は確か取引でどうにか……」


 デュークが「するって言ってた」と言いかけた時です。エーテルの海を渡って煤できた彼らの目に、大きな惑星が現れたのです。



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