第350話 ガス惑星

「超空間にあるにしてはかなり大型の星のガス惑星だなぁ」


 超空間にある天体の来歴は、何かの拍子で重力異常に巻き込まれたとか、上代人が超技術で持ち込んだとか、いろいろ説があるのですが、ガス惑星のような質量の大きなものはかなり珍しいのです。


「良くガスが霧散しないものだわ」


「うまいこと安定しているんだねぇ~~」


 超空間内は重力の働きが通常空間とは違うため、場合によってはガス惑星の類いは蒸発してしまうこともあるのでした。


「あ、軌道上にステーションみっけぇ~~! たくさんタンクが並んで、ガスを取るための管も見えるから、あれは採集ステーションだお~~」


「なるほど、あそこでQプラズマ推進剤を補給するんだな」


 大きなガス惑星の大気の上には、ガスを採掘するためのパイプラインを伸ばした施設が浮かんでいるのがわかります。


「ゴルモアの燃料収集施設に似ているなぁ。場所は変わっても大体同じような感じになるのか」


「でも、あそこは共生知生体の持ち物じゃないんでしょ。このまま侵入して大丈夫かしら?」


「スイキーはあそこは中立施設だから普通に入れって指示をだしてるよ。リリィ教官も何も言わないから、問題ないと思うけれど」


 場所にもよるのですが、辺境にある超空間は基本的には中立地帯です。


「とは言っても、ここは辺境よ」


「そうだねぇ、中立という名の無法地帯も多いのよね」


「辺境って、基本魑魅魍魎で百鬼夜行な海千山千の人外魔境みたいなところが9割くらいだもんねぇ~~」


 などと言いながらデュークらはガス惑星の高軌道へと進むのですが、しばらくすると彼らの視覚素子に複数のフネの反応が飛び込みます。


「あともう少しで領宙域に入るから、警戒に上がってきたんだな」


 宇宙施設の領宙範囲というものは時と場合または解釈によって大きく変わるのですが、大体光が1分間に進む1800万キロほどされています。この時デュークらは隠蔽機能をオフにしており、その距離からでもその巨体からあふれるエネルギーは十分察知できるのです。


「よし、横腹をさらして、推進機関を横にするんだ」


 デューク達は中立地帯に入り込む際のプロトコルに従い、艦体を横にして慣性航行のまま進みます。エーテル波の抵抗はあるものの、いい感じに潮流がガス惑星に向かって流れているため、そのままでも問題なく進むことができました。


「後は相手方の出方次第だね」


「その相手なんだけど、辺境ヨビタン社を名乗ってるわ」


「ヨビタンっていったら独立恒星間企業だよぉ~~!」


 ヨビタン社は様々な勢力間において主に推進剤の供給などを商売とするどの勢力にも属さない独立恒星企業でした。軍艦なのにそのあたりの事情について詳しいペトラは「辺境って付いているから多分ヨビタンの子会社だよぉ~~!」などと説明しました。


「なるほど会社かぁ」


「なるほど会社ねぇ」


 デュークとナワリンは軍艦で戦艦な軍人ですから、いささかその方面については理解が不十分であり、商船氏族出身なので理解のあるペトラが「会社がないと、ご飯が食べられないんだよ~~!」と説明すると、「「完全に理解した!」」とお腹で理解するほかありません。


 さて、彼らがそんな会話を続けていると、ガス惑星の外周から向かってきたフネのシルエットが判別できる距離になりました。


「やってくるフネだけど、アレは軍艦だわ。民間企業がそんなものをもってるなんて、ここはやっぱり物騒なんだわ」


「重フリゲートか……辺境は物騒な海賊が横行するような場所だから、ああいうのが必要なんだね」


「わぁ、かなり速いよぉ~~!」


 デュークらに近づくヨビタン社のフリゲートはエーテルの波をスラスラとかき分け近づいてくるのです。


「へぇ、エーテルの波を軽々乗り越えているわね」


「超空間の中であんな高機動ができるなんてすごいなぁ」


 通常空間とは違い、超空間航路ではエーテルが満ちているため波の波動や抵抗があり、その上Qプラズマス推進のような大加速ができないのですが、ヨビタン社のフネはかなりの速度を保っていました。


「あれ、フリゲートとはいえ、結構な武装をもっていそうね」


「小型艦近づかれるのって、気分の良い話ではないよぉ~~」


 ヨビタン社のフネは我に敵意なしって信号波を出しており、中立施設に向かう軍艦としてはプロトコルに従うしかないのですが、ナワリンとペトラはあまり気が乗らないようです。


 昔の彼女達であれば「いざってときは、デュークに壁になってもらいましょ」とか「それがいいねぇ~~! 盾艦、盾艦~~!」などと、微妙に位置を変えるのかもしれませんが、この時の旗艦は司令部ユニットを載せたデュークですから、ナワリン達はグッと我慢してプロトコルを維持しました。


「うん、大丈夫。射程距離ギリギリで回頭してくれるみたい」


 そしてヨビタン社のフリゲートはデュークらを睨みつつ、あるところで大きく進路を変更し、遠巻きに彼らを眺める位置に遷移します。


「フリゲートから通信――――誘導に従いステーション軌道へ降下してください、か。随分と丁寧な感じだね」


 続けて「大変申し訳ありませんが、軌道に入る前に火器管制封印の手続きに入らせていただきます」と通信が入り、司令部ユニットに座乗するスイキーが「承認した」と応じたため、デューク達の武装は一時的に封印されたのです。

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