第322話 天躍の門のあちら側へ
「なになに…………お、実習地までの航行指揮は俺っちが取れって書いてあるぞ。その後の命令は現地で改めて、だと? いい加減な封緘命令だぜ」
スイキーは電子的な封を切った命令書を眺めて拍子抜けした声を上げ、「まぁいい、さっさと抜けちまおう。ほれほれ、一度は潜ったことがあるんだろ?」とデュークを促します。
「ちょっとまってね、甲板構造物をできるだけ畳んで装甲を細長く絞るから」
デュークは前回天躍の門をくぐるとき、太さの増した艦体を詰まらせていたものですから、今回は慎重にカラダを絞りこみます。彼の特殊装甲板は本来であれば他の龍骨の民の中でも流動性の高いものなので、彼が「うんせっ!」と掛け声をかけると、サラサラと艦隊の前後に流れて、直径が小さくなるのでした。
「おお、これが噂に聞く流体装甲か。見事なものだな」
「メカロニアの戦いでコツを掴んだんだ。それに完全にオーバーホールしてもらっているのが大きいかな」
カラダを絞り込んだデュークは「それじゃ入るね」と天躍の門をあっさりと潜り抜けます。そして天躍の門を抜けたデューク達は、機動要塞司令官ノルチラスに迎え入れられことになるのですが――
「よぐぎだぁぁぁぁぁぁっ――――!」
と、トンデモない悪人顔を通り越した化け物面をした生きている宇宙船から放たれる重力波の荒っぽい歓迎を受けることになりました。
「き、機動要塞司令官殿に敬礼ッ!」
これを受けたスイキーは「なんだこいつ、本当にデュークの親戚なのか?」など思いながらも、最も士官教育の行き届いた彼ですから、そつなく敬礼返します。横ではエクセレーネが「これって覇気じゃない。この私が気圧されているですって」などという心の声を押し殺していました。
「お久しぶりです、ノルチラス閣下」
「ノルチラス叔父様、お久しぶりですわ」
「おっちゃん元気してた~~?」
知らぬものが見たら「は? こいつが龍骨の民だって、冗談はよせよ」と言いたくなるノルチラスなのでですが、デューク達は一度彼のダミ声の洗礼を受けているうえに、親戚やら同族としてのモテナシを頂いていたので、特段ビビることもなく敬礼を返しました。
「ん、よく戻った」
などと、ノホホンとした感じになるとノルチラス少将はただの普通のおじさんな感じがします。とはいえ、トンデモナイ悪面相なのには違いありませんが。
「で、デュークに座乗しておるのが実習生の先輩と教官か。アライグマのリリィ・ラスカー少佐、トリのアイスウォーカー候補生、キツネのキャリバー候補生だな」
名前を呼ばれたリリィ以下は「はっ」と上級者――天上人のような将軍様に対してカッチリとした返答を行います。近衛は共生宇宙軍の中でも特別軍の扱いなので彼の階級は少将以上の価値があるものでした。
「ああ、固くならずにそのままそのまま。中央士官学校はワシの母校だからな、そこの後輩と、先生様ということだからな」
それを聞いたデュークは「あ、閣下も中央の……」などと思いましたが、「将軍になる位のフネだからなぁ」と口を閉じます。
「それで実習先に向かうためにここを通れと指示があったのだな?」
ノルチラス少将は最上級者であるリリィにではなく、スイキーに向かってそう尋ねました。卒業生だけに、中央士官学校の士官候補生が実習にでる際は、候補生が指揮を執っていることを知っているのです。
「はっ、そうであります。しかし、この星系は行き詰まりの星系と聞きます。その上、いかなる方法でこれを超えるかまで、指示が出ておりません」
「なるほど、それで如何するつもりだ」
「指示が出ていないのであれば、独自判断で行動します」
そういったスイキーは「こちらにある超光速航法――その方法はわかりませんが、近衛潜宙艦隊が有するそれをお貸しください」と言いました。
「ほぉ……それがあるとなぜわかる? ああ、君はペンギンの皇帝の息子だったな、それならば知っていてもおかしくわないわな」
「いえ、次期執政官と言えど、さすがにそこまでの軍機は知らされておりません。これはそこにいる単なる推論です」
そこでスイキーはフリッパーをとさかに当てて「星系間瞬時航行システム、それを近衛が使って別星系に基地を構える――ここは首都星系防衛のための秘匿戦力プールなのでしょう?」
スイキーは理路整然と説明しました。普段は少し軽すぎるノリを持つ飛べないトリの彼ですが、ペンギン帝国の皇子にして星系軍少佐というエリートなのですから、それぐらいはお手の物です。
「ですが、防衛戦力ならば、そこにいることを敵に知らせなければ、あまり意味がありません。ですから――」
「わかった。そこまで」
次の句を続けはじめたスイキーの答えに少将は「そっちのキツネのお嬢さんも、わかっているな?」とエクセレーネに問いを発しました。
「ここは首都星系からの秘密の脱出口ですね。、他恒星間勢力に対して首都星系への侵攻を許した場合に、政府要人が使う脱出口のようなものかと」
エクセレーネはそう言ってから、細長いキツネ目をさらに細め「かなり古い時代には首都星系が陥落したこともありました」と、歴史上の事例を持ち出して説明したのです。
「ですが、脱出した先がどん詰まりというのでは、いささか使いどころが難しい。ですから、なんらかの星系外跳躍法が用意されているべきでしょう」
「うむ、もっともなことだ」
ノルチラス少将は「さすがは中央士官学校の候補生、物が見えておる」と、艦首をうんうんと頷かせながら感心したのです。
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