第76話 ブートキャンプの始まり
「小休止終了! 新兵は外にでろっ!」
訓練教官が大声を上げ、新兵に移動を開始するように命令しました。
「おらぁぁぁぁぁぁぁぁ! もう訓練は始まっとるんだぞ、何をモタモタとしている――っ!
ぎょろりとした大きな眼を見開き、ゴロロゴロロと咽喉を鳴らしながら
「うわわ!」
「こ、こぇぇぇ」
デューク達は泡を食って、講堂の外に出てゆきました。外に出てみると、新兵たちは、いくつかのグループを作り、整列させられています。
「そこのトリとフネ、このグループの最後尾につけ!」
「「は、はい!」」
デューク達が列の最後に駆け込んだのを確認したカエル面の訓練教官は、集団の前方に周ると、デン! と背筋を立ててこう言います。
「俺はこれからお前たちの訓練を担当するゴローロ一等軍曹だっ! これからの俺の言葉には絶対に従うことっ! 話しかけられたとき以外は口を開くな! 言葉の前にはサーを付けろ! 言葉の後ろにもだ! 答えは
背筋をキリリと伸ばし、鞭をペシペシと手に打ち付けながら、ゴローロを名乗るカエルは大きな声でルールを告げました。そして彼は新兵たちに向けてゴム製の鞭を突き立て――
「
「「「ッ――――!」」」
空気をビリビリと震わせるような大声で命令したのです。その言葉は列をなした新兵たちのカラダをも震わせるほどでした。新兵たちは「ひぇぇぇ」と声なき声を上げながら、腕や脚やら触覚などをカラダを固くしたのです。
スイキーも翼やくちばしをなるべく揃った形に整えながら「こっぇぇぇぇぇっ、こいつはぜってぇに逆らっちゃいけねぇやつだぜ」と考えながら震えています。デュークは「えっと、こうかな?」というほどに、龍骨を伸ばして、クレーンや放熱板がピシリと揃うようにしてみました。
「なっとらん…………」
ゴローロ教官は新兵たちの姿を眺めて舌打ちすると、渋い顔をしながら新兵たちの周りをクルクルと回りながら点検を始めます。
「それで背筋を伸ばしているつもりかぁぁぁぁぁぁぁっ⁈ 胸を張れ! 胸を! おらっ、指先を伸ばせっ! おい、目障りな触覚をおろせ、ぶった切るぞっ! なんだ、このデブ野郎、腹が出ているぞ、ええい気合で引っ込めろ! そこの
ゴローロは手にした鞭で新兵立ちのカラダをベシベシ! と叩きながら、姿勢を直していきました。鞭はゴム製なのでそれほど痛みは無いのですが、ゴローロの腕力は相当なものなので、「ッ!」とした声にならない声が立て続けに上がります。
触覚を叩かれた昆虫型種族は慌ててそれを縮め、お腹の出ている豚のような種族はなんとかお腹をしぼませようと努力し、プルプルとしたスライムのような種族は体表を固めてカキーン! と固まるのです。
そしてゴローロの嵐のような声がデュークたちの近くづいてきます。
「翼っ! ……畳んであるな。くちばしっ! ……整えてあるか……ふむ」
スイキーを眺めたゴローロは、その姿勢を改めてからわずかに感心したような口ぶりになりました。そしてギョロリとした目でスイキーの顔を覗き込みます。
「お前、軍事教練を受けたことがあるな? お前どこの星から来た?」
「サー! フリッパード星です! サー!」
「ほぉ、フリッパード族だな?」
「サー! 正しくはフリッパード・エンペラです! サー!」
スイキーは、エンペラという部分を強調して答えました。
「エンペラってことは、あれかお前――皇族か、王族だなっ?!」
「サー! そうであります! サー!」
するとゴローロは随分と感心した表情となり、なにやらうやうやしい口調でこのようなセリフを紡ぎます。
「おおお、これはこれは王子様。このようなむさ苦しいところに、わざわざいおいでになり、誠に恐縮であります――」
ゴローロは手を胸に当て、臣下の礼のような畏まった姿を見せました。それを見たスイキーは、思わず尻尾をフリフリとさせるのです。彼の種族では、挨拶を受けたらそのように返すのが礼儀であり、また本能的な動作でもあるのですが――――
「動いたな? 尻尾を動かしたなぁぁぁぁっ! ケツの穴をしめろぉぉぉぉっ!」
「サー、これは反射的なもの、うぎゃぁあぁぁっ!」
ゴルァァァァァァッ! と吠えたゴローろは、手にした鞭でスイキーの尻尾をベシン! と叩きました。彼は、身悶えするスイキーが王族であることなど待ったく気にしていないのです。
それを傍から眺めていたデュークは「ゴクリ――――」と唾奇を飲み込みました。次は彼の番なのです。
「お前は龍骨の民か。まだ子供の……少年期の軍艦だな?」
「サー! イエッサー!」
ゴローロ軍曹は、ギョロリとした目でデュークの真ん丸な
「龍骨の民は、子供の頃から従軍するんだったな。そうかそうか、偉いぞ、うちのガキにも見習わせたいものだなぁ……」
ゴローロは感心したように言い、自分の子供のことを語ってデュークに少しばかりの笑みさえ見せるのえす。
「軍曹にも子供が――」
すると――――
「ゴルァァァァァァァァァッ! フネのガキィィィィィィッ! 俺の”質問”にだけ答えていいんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! それから口から廃油をゲロする前に”サー”と付けろ! ケツから
「ふぇぇぇぇぇっ?! サー! イエッサーッ!」
デュークは龍骨の中で「ふぇぇぇぇぇぇ⁈ ボロ船ってなにぃぃぃ⁈」と叫びながら、大声で返答しました。
「他のやつらも同じだ! わかったかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ⁈」
「「「サー! イェッサー!」」」
ゴローロの激しい剣幕に、新兵たちは怯えてすくみました。彼はそれを聞きどことなく不満そうな顔をしながら、集団の前に戻ります。
「貴様らはこれから、
デューク達は「訓練って明日からじゃなかった?」とか「初日から軍隊式の理不尽だぜ――――!」と思いつつもゴローロが怖いので、身を固めて動かない努力を続けます。
「その日までは、お前らは蛆虫――――ただの虫けらだ! ん、本当の虫けらがいるな………」
ゴローロは、アリから進化したと思われる種族を眺めて「ん~~?」と顔を近づけます。
「虫ってやつは、表情が見えない……な。お前、もしかして笑ってないか?」
「さ、サー! ち、違います、サー!」
昆虫型の種族はなかなか表情が分からないものですが、言葉が途切れ途切れですから、動揺しているのが良くわかります。
「ふん、虫けら呼ばわりは失礼だな……よしっ、お前は今から虫けら以下のクソ虫だぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
ゴローロは「お前はクソ虫なんだぁぁぁぁぁぁぁぁ! わかったかぁぁぁぁぁあぁぁ?!」と、口から唾を飛ばしながら咆哮しました。ベロっとした舌が、アリ型種族の顔を舐めるように伸びています。
「サー! じ、自分は、く、クソ虫であります……サー!」
「よし、よく言えたぞ、糞虫ぃ! ご褒美にそこで腕立て伏せ30回!」
アリ型種族は「ひぃぃぃ!」という悲鳴を上げながら腕立てを開始します。それを確かめたゴローロは、他の新兵に向き直り――
「貴様らなんでつっ立っとるんだぁぁあぁあ、仲間が腕立てするときは、全員でやれぇぇぇぇぇぇぇ!」
と、他の皆にも腕立て伏せをするように命令しました。デュークを含めた新兵たちは、慌ててその場で腕立て伏せを始めるほかありません。
「俺は厳しいが公平だ――! ヒト、トリ、ムシ、フネ! カラダが炭素や金属で出来ていたって、プラスチックであっても、ケイ素だとしても! 皆、平等に――」
デューク達が腕立てをする中、ゴローロはベシベシベシと鞭を使って地面を叩きつつ、このように言い放ちます。
「知性を持たない、ただの虫けらだからだっ! 俺は厳しい! 俺は厳しさだけで出来ている! だからお前たちは俺を嫌う。だが憎めば、それだけ学習するんだ! 学べ! 学べ! 学べ!」
その言葉には「深く考えずに、黙って俺の命令に従え」という意味がありました。新兵たちはそのような言葉を聞きながらとんでもないところだな……」「やべぇ、腕が動かない」「ひぃぃぃ」などと脳内思考しつつ、ハァハァと腕立て伏せを続けるのです。
「分かったか、糞虫ィ! トリ頭ァ! ボロ船ェ! その他、大勢――!」
なんとか腕立て伏せが終わるとすぐに「走れ、走れ、走れ!」という号令が掛かり、新兵たちはヒィヒィと走り始めるのです。
このようにして、デュークの訓練が始まったのです。
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