第254話 甲板上の激闘
「目標前方の敵集団、撃てッ!
デュークの右舷側では、地獄の黒犬とあだ名されるノラ少佐が「アゴーン!」と鳴き声を上げ、黒くヘルメットの隙間からギラギラした赤い眼鏡をのぞかせる部下共が「
「敵を一掃せよ――――!」
DOKOKOKOKOKOKOKOKO! と機関銃の軽快な調べが鳴り響き、超硬スコップがSLASH! CLUNK! という唸りを上げ、超重手甲の拳がエグっい角度でめり込んでPOOOOOW! と炸裂し、収束手榴弾が爆裂するとメカロイド達はまとめてKABOOOOOOOOOOOOOM! と吹き飛んでゆくのです。
「俺達は宇宙の憲兵隊、地獄の番犬だ。血のように紅い眼鏡を光らせて、踏み潰すべき悪を探せ。宇宙の闇をかき分けろ、それが事象の地平線の先だとしても、頬笑みを浮かべながら突き進め。そして勝つ、俺達は勝つ。誰かが俺たちを変わり者だという――それは真実だ。危険を顧みず、危険を好み、鮮血の大河を流し、魔女の大釜を焦がす業火に向かって俺達は進む。俺達は一人ではない。俺達は最初に赴き、最後に去る。憲兵隊にしかわからない内なる悪魔の慟哭、スコープには敵の顔、手で狙い、心で撃ち、氷のような心で殺す――
俺たちは地獄の番犬、俺たちは進む
俺たちは地獄の番犬、俺たちは進む
俺たち憲兵隊で、これは俺達の歌だ
俺たち憲兵隊で、これは俺達の歌だ」
ケルベロス達は「俺達は戦争の光を浴び、敵の海岸に死体を積み上げ、大地にこぼされた血の中を進み、銃を手にする敵を探す。薬室には銃弾、火は俺の中、ロケット燃料に投げ込まれたタバコのように――」と言った、実にハームフルでエキサイティングな特務武装憲兵隊ソングを歌いながら職務を果たしてゆきます。
「俺たちは火の中へと進み続ける憲兵隊だ!」
ノラ少佐は手にした
どこぞのヒーロー漫画のごとき擬音をバックに、ケルベロスたちが獅子奮迅の大活躍を見せつければ、メカロイドたちは「ギ、ギギギ――やーらーれーたー!」と情けない声を上げながら次々撃退される他ないのですが、メカたちも何もしていないわけではありません。
「は、反撃するピコッ!」
「と、とにかく、数で押すんだポン!」
「第二中隊を前に押し出すポピ――――ッ!」
実のところデュークの右舷を攻め立てているメカロイドの前線指揮官たちはそれなりに勇敢です。彼らはピコピコポンポンとメカらしい節回しでお互いの電子頭脳を連携しながら、手下の奴隷兵どもに素早く命令をくだします。相当数がケルベロス達に撃退されていても、まだ、数の優位は否定できない――――
「な、なんで当たらないピコッ?!」
「当たっても、効いていないピボッ!?」
「とにかくうち続け――――ウボァーッ!?」
そう思った指揮官の眼の前で、ケルベロス達は遮蔽物を利用したり、軽やかなステップで回避し、あるいはスコップで受け止めました。まぐれ当たりの弾丸もあることにはありますが、強化デュラスチール製の強化服の装甲にはまったく通用しない上に、もし貫通したとしても「やめろよ、痛いじゃないかね」などと嘯くだけの余裕があるのです。
「ば、化け物だ……こいつらバケモンだピコッ?!」
ケルベロスは毎日毎日、極悪な宇宙海賊や宇宙ヤクッツァ退治などで実戦経験を積み、闘いの無い時は魔女の大釜やら三頭狼の巣穴などと呼ばれる秘密の訓練所で猛特訓しているような人外の集まりですから、確かに化け物と呼ぶのが相応しいでしょう。
「グェッ!」
胴体をぶち抜かれた指揮官の一体が「死ぬ、死ぬピコぉ――――!」などと叫びながら後送されてゆきます。メカ達はカラダの一部が吹き飛んだとしても、命に別状はないかもしれませんが、最早戦力にはならないでしょう。
「残りの指揮官をやれ!」
ノラ少佐は、されたケルベロスに前進を命じます。こうなると数が多くとも有象無象のメカどもなど相手にもなりません。
「鏖殺せよ! 撲滅せよ! 蹂躙せよ!」
「憲兵道大原則! 罪を憎んで人を憎まず! 常に清廉潔白!」
「宿題やったか! お風呂入れよ! 歯みがけよ! 風邪ひくなよ!」
そのようにして、特務武装憲兵隊が大暴れすれば当然――
「敵が退いていくな」
右舷に取り付いた敵はあら方撃退されることになるのです。ノラ少佐は「なんとも歯ごたえがなさすぎる」と言い、部下達は「いやはや、まったくもって不味い
「さて、左舷を片付けるか…………うん?」
少佐が甲板の反対側に目を向けようとしたその瞬間でした。プロメシオンのカタパルトから、ギュバッ! と丸いボールのような何かが飛び出しました。
「巨大な金属の塊だと……っ?! いかん、退避っ!」
少佐の命令一下、ケルベロスたちが陣形を解除して一斉に飛びすさる同時に、プロメシオンから放たれた球体がデュークの甲板に激突します。
「こ、これは――」
ノラ少佐の目には直径数メートルもある超硬超重の合金らしい金属球が映っています。フィィィィィンッとした重力波の唸りが上がっているところを見ると、内部にはなにかのメカのような物が詰まっているようです。
「むっ……動くぞっ!」
少佐が驚愕の表情を見せる中、甲板上で球体がバキバキバキと弾けるようにして広がり、ガキョン! と太いアームが伸長し、ゴキャン! と金属構造材がせり出し、ドギャン! と脚部が突き出てきました。
「変形したっ?!」
なにやら変形を始めたメカはブシュリ! とガスを漏らすと、ズゴゴゴゴゴゴ! という感じでカラダを起こし、グワッ! と装甲を展開します。そして手にした巨大なハンマーの石づきをガゴオンッ! と甲板に突き刺さしてから、ズバハッ! とこれもまた巨大なドリルを繰り出し――
「グレゲル伯が配下、帝国男爵デュランダル、参上ゥ!」
ドッギャァァァァァァァン! と現れた身の丈10メートルの巨体をもつ重戦闘ロボ――戦闘用重甲冑に身を包んだメカ貴族デュランダルが「グハハハハハハハ!」と高笑いを上げたのです。
「ッ――――!」
ケルベロス達は、突然現れ敵の前で高笑いを敢行するメカ貴族――しかも相当の力を持っていそうなそれに対して「くっ、メカ貴族か! すごいプレッシャーだ!」「なんて大型の重武装なんだ!」「間合いに入るな、距離を取れ!」などと少し距離を置いて身構えました。
ケルベロス達は装甲マスクについている赤外線スキャナーを起動します。紅い眼鏡の内部に装備されているスキャナーは、対象をサーチすると瞬時にその脅威を判別する機能がついています。常日頃から、強大な犯罪者どもと対峙している特務武装憲兵隊には必須のアイテムでした。
「紅く輝くその眼鏡……やはり噂に聞く連合の犬かァ! 指揮官はだれぞっ?!」
デュランダルは、トンのレベルで重量がありそうなハンマーを軽々と突き出し、遠巻きに囲むケルベロス達に「一騎打ちをば所望する!」と絶叫するのです。それに対して特務武装憲兵隊の面々は「い、一騎打ち……こ、これがメカ貴族なのか」などと呟き、手にした重火器をデュランダルに向けました。
「はっ、飛び道具がなければ戦えんか?」
デュランダルは嘲笑めいた笑みを浮かべると、おもむろにドリルを突き出してノラ少佐を指します。
「貴様が指揮官だな」
「なぜわかる?」
超合金の鎧を纏ったデュランダルは、ハンマーの柄で自分の肩を叩きながら「貴様の鎧だけ、ここが紅いからなァ!」と言いました。ケルベロスの指揮官用プロテクトスーツは、戦闘時の混乱を避けるために一部の装甲が真っ赤に塗られているのです。
「私はすでに名を名乗ったぞ! 名を名乗れ!」
「……特務武装憲兵隊カークライト分艦隊旗艦分遣隊長ノラ少佐だ」
ハンマーを突きつけたデュランダルが名前を教えろと言うのです。少佐は「メカ貴族め」と思いながらも、丁寧に官姓種族名を伝えます。現在戦時下における戦闘状態にあるわけですが、一応外交儀礼のようなものは存在することになっており、折り目正しい憲兵士官である少佐は、それを無視することができません。
「ノラ――――? 野良で、犬か! 野良犬か! グハハハハハハ!」
デュランダル彼の頭はすでに一騎打ちモードに入っており、敵を愚弄するという重要なプロセスにあるようです。それに対してノラ少佐は「むぅ……」と一つ唸り声を上げました。
実のところ少佐は、天蓋孤独の身の上でブラックハウンド族の孤児院育ちで、軍に入るまでは野良犬のような生活をしていたものですから、デュランダルの煽りは当てずっぽうかもしれませんが、結構効いているのかもしれません。
でも、ノラ少佐も特務武装憲兵隊の士官であり歴戦の戦士なのです。彼は装甲服の中で犬歯をギラリと覗かせて舌なめずりしながら――
「ふん、貴族様の舌というやつはよく回るものだ。皇帝陛下とやらの靴をペロペロ舐めるには最適かもしれんがな――――」
「くっ、言いおるわ……」
ノラ少佐はついでに「
「と、とにかく、掛かってこい連合の犬めっ!」
罵倒合戦というものは通常もう少し気長にやるものですが、恒星間戦争の真っ只中なもので、尺を省略したデュランダルは巨大なハンマーを肩の位置に掲げながら、ドリルの方の手でクイクッと手招きします。すると、ノラ少佐は「一騎打ち――――」と口にしながら、まさに地獄の番犬という他ない笑みを浮かべます。
そして彼は手にした指揮棒を振りかざし――――
「検挙! 検挙だ! とっ捕まえろ!」
ビシリとデュランダルを指し示すと、部下たちに「捕虜にするぞ!」と命じました。同時にケルベロス達は強化外骨格のパワーアシストを全開にしてシュバッ! と散開し、デュランダルの周囲を取り囲み始めます。
「えっ、ちょ、ちょっと待て! 一騎打ちだと言ったろうが!」
「するか、馬鹿!」
一騎打ちを希望したデュランダル男爵は、肩透かしどころか論外な状況に追い込まれて慌てふためきました。地獄の番犬達はその名前のような戦闘狂では決してなく、職務に忠実な軍人ですから「一騎打ち? なにそれ美味しいの?」という感じで、戦場のロマンなど無視する生き物なのです。
「ヘラクレス、やつの手元を狙え! マジシャンは顔だ、目を潰せ! プリーステスは後ろを抑えろ! フールは牽制射!」
ノラ少佐は精鋭たる部下たちをコードネームで呼びながら、彼らを手足のように駆使して、デュランダルを追い詰め始めます。
「う、うおおおおおおおっ?! こらっ! 卑怯だぞ!」
「卑怯で結構――――ハーミット、煙幕弾! エンプレス、足元にオイルを撒いてやれ! ハングド、ワイヤーで動きを止めろ!」
ノラ少佐の指揮の下、ケルベロス達は巧妙な空間機動戦闘陣形と洗練された
「デス――右だ、ジャスティスは左、私はこのまま突っ込む!」
「おわわわわわわっ!? ぬぉっ!」
でも、多勢に無勢とはいえ、デュランダルはその巨体に多大なる戦闘力を秘めているようです。「うおりゃ――――っ!」と叫びながら手にしたハンマーとドリルを縦横に振るい、ケルベロスの猛攻を凌ぐのです。その上――
「こらぁっ、後ろにまわるなッ!」
男爵は周り込んで側背から揺さぶりをかけていた隊員に向けて、ノールックのバックハンドブロウを放ちました。それをすんでのところで回避した隊員は「気をつけろ! こいつ、後ろにも目がついていやがる!」と警戒の声を上げます。
デュランダルは実に勘の良い男であり、戦場においてはそれが遺憾なく発揮されている上、戦闘用重甲冑のセンサはそれを大いにフォローしていましたたのです。
そして、妙な感じで実力伯仲となった特務武装憲兵隊とメカ貴族との死闘は、その後5分間もの長きに渡ることになり、デュークの右舷側の戦況は膠着状態に陥るのでした。
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