第298話 資質と素養そして運気
「データシェル、連続投入!」
ドクトルがそういうと、デュークたちの本体にある副脳めがけて大量のデータが送信されます。それは士官学校の過去数百年分の過去問であったり、補足説明が詰まったものでした。
「うわわっわっわわ! 航法用の副脳まで稼働してる」
「やっば、オーバーフローしそうだわ!」
「うげ、射撃管制システムまで使わないと、処理がおっつかな~~い!」
情報を瞬時に吸収できると言っても、大量のデータを吸収するのは労力が必要でした。それでもドクトルはデータの投入を継続します。
「こういうもんはパパッと打ち込んで、さっさと終わらせるのものだ。それより龍骨に漏れてくるデータに気をつけろ」
溢れんばかりのデータ量を浴びせられた副脳達はオーバーフローを回避するため、自動的にデータを本体である龍骨に退避させはじめました。
「うわ、データが
デューク達の龍骨はアナログでありかつデジタルなコンピュータの様なものです。そこには自分自身の意識があると同時に、過去のご先祖様の記憶が薄らぼんやりと存在しているのですが、それ自体がAIの変種の様なものです。
だから突然流れ込んできたデータに驚いたご先祖様の記憶達は「なんじゃ、アホみたいにデータを食わせておるのぉ」とか「龍骨をストレージ代わりにするほどのデータ量だと、何に使うんだ」やら「これって受験勉強ってやつ?」などと言いながら、情報を整理してくれました。
その甲斐もあってデューク達は必要な情報をカラダの中に納めることに成功します。デュークに比べて容量の小さいナワリンは「詰め込み教育ハンターイ!」と叫び、ペトラなどは「ウボァ――――!」と断末魔の様な悲鳴を上げていますが、とにかく大丈夫なのでした。
「さぁて、今日の分はここまでだ」
「う……まだ残っているんですね」
「なぁに、徐々になれてくるから、心配せんでいい。龍骨の民の龍骨というのは強靭だからな」
実のところデューク達は戦闘状況に入ると、今回と同じ量以上の情報を処理しているのですが、戦闘に際して気合が入っている状態であればなんなく処理できていました。要は気持ちの問題なのです。
「それより問題は、実技試験対策だ。こいつは知識だけではクリアできん」
そう言ったドクトル・グラヴィティは「実技試験では、受験者の経験に基づいた、様々な要素、指揮官に必要な資質を試されるのだ」と説明しました。
そしてデュークらの顔をじっと見つめ――――
「指揮官は部隊を指揮して戦うことが求められる。それはいくつかのレベルに分けられる。大づかみに分類すれば、戦闘、戦術、戦略と言ったレベルだ。その全てにおいて、指揮官は目的を決定しそれに対する作戦計画を立てることが求められる。目的に従って遡及的に計画を立案し、兵站についても確認する。指揮官は作戦全体を包括的に指導しなければならないから、戦闘以外のあらゆる事項について注意を払わなければならない――戦略レベルともなれば、様々な知性体がもつ政治・文化・経済・軍事・技術と言った各要素を勘案し、歴史・宗教なども勘案せねばなるまい。それから、部下を率いて効率的に戦うためには、知性と情熱、勇気と忍耐力、洞察力と決断力、誠実さとユーモアが必要となる」
と、一気呵成に告げたのです。
「ふぇ?! ふぇふぇ……」
「だぁぁぁぁぁぁ、いきなり何よ!」
「よくわかぁんなぁい~~! むぅりぃ~~!」
デューク達は「うわわ」と拒絶反応を示しました。あれもこれもどれもそれも指揮官に必要なのだと言われても、いきなりは理解ができません。
「はっはっは、冗談冗談。これらの資質は士官学校でじっくりと身に着け、磨き上げるものなのだ。今はその素養があれば大丈夫だ」
呵呵と笑ったドクトルは、指揮官の資質を学ぶのが士官学校というものだと説明し、その下地があれば良いというのです。
「でも、僕らってそんな素養とか下地を持っていますかね?」
「お前さん達の軍歴を見るにそれらは十分だろう」
「そうなんですか?」
「あのな、自分たちがどれだけ実戦を経験しとるか分かっとるか?」
よくよく考えて見れば、デューク達はニンゲン達との戦いからこの方、惑星レベルの戦闘から恒星間戦争の派手なドンパチまで――それも死線をくぐり抜けて来たのです。
「龍骨の民の軍艦はその使い勝手の良さから最前線に回される傾向にあるが、艦齢に比較してここまで実戦を経験しているのは少ないだろう」
デューク達はまだまだ若いフネではありますが、
「それにな、良い先達ばかりに出会えたようだな。指揮官たるを知るには、指揮官を知ることだからな」
カークライト少将を始めとした様々な軍人との交流はそれだけで大きな勉強になったのです。
「この上に執政官の推薦まであるのだから合格は間違いないが、あと一つ身につけておくべきことがある。それは指揮官にとって重要な要素だ」
「残る一つの課題……ですか?」
他には何があるのだろうとデュークが艦首を捻ります。ドクトルは――
「それは、運だ!」
ドクトルは大真面目な表情で「指揮官には理詰めも必要、駆け引きも重要、リーダシップも重要! だが、運のない指揮官には兵隊がついてこんからな」と断言しました。
「確かにツイてない奴に付いていこうとは思わないわねぇ」
「そうだねぇ~~運のない指揮官って時々いる~~!」
戦場ではちょっとばかり運気の少ない指揮官が存在しており「部下の人たち、なんだかちょっと可哀想」と思うことが、時々あったのです。
「デューク、お前さんは宇宙軍総司令――上を狙っとるのだろう?」
「はい、まぁ」
「今の総司令はなんと呼ばれているかな?」
「ええと、スノーウインド執政官は、幸運のフネの二つ名を持って……あ」
現執政官スノーウインドは、駆逐艦型龍骨の民としてその実力もさることながら、軍事行動の上でちょっとありえないほどの”稀な偶然に度々遭遇”することで、大変な活躍をしたフネとして有名でした。
「曰く、100倍の敵に襲われて集中射撃を受けたが全弾不発弾だった。曰く、強力な要塞砲を発射寸前の要塞に突撃したら、突然砲塔が破裂した」
幸運のフネと呼ばれるスノーウインドは、そのような偶然に何度も出会っているものですから、一部では異能生命体などと呼ばれています。
「でも、運というのは偶然の産物なのでしょう?」
デュークは運とはなんとも人の力ではどうしようもない巡り合わせのことだと知っているので、それをどうこうできるものだとは思いませんでした。
「いや、それは違う。思念波能力には因果律干渉効果というものがある。物理法則である因果律に干渉し確率を変動させるものなのだが、全ての思念波能力は世界の理に干渉する力だから、因果律の法則に干渉することがあってもおかしくはない」
「ははぁ、思念波能力ですか」
「この因果律に干渉するといった効果は計測が不可能でな。結果からして、多分そうなのだろうとしか、わからんのだが、確実に存在する」
この世の中には殺しても殺せないような生存性に特化した豪運の持ち主――スノーウインドのような者が存在しますが、どのような経緯でそうなっているのかは科学的に証明できないのです。
「そして、因果律干渉効果は、なかなか面白い効果を発揮することもある。例えば、ミスター雨男と呼ばれる士官は、彼が戦場にいると何故かかならず雨が降るので軍事活動上の問題となっておった。まぁ、宇宙軍はそれを逆手に取って彼を隠密活動部隊に配属して活躍させている」
他にも、出撃すると必ず機体を破損させて帰ってくる艦載機乗りが存在するのですが、「どうせ、死なんだろ」ということで、いつも激戦区に投入されるというちょっとかわいそうな人もいました。
「さて、この因果律干渉能力は誰でも持っている可能性があるという。龍骨の民もその例外ではない。スノーウインド執政官が良い例だ」
デュークが持っている思念波能力といえば、フネのミニチュアを動かすための超長距離思念波リンクだけですが、それ以外にも能力があるというのです。
「なぁ、なんでこんなに上手く行ったのだろう? 逆に上手くいかなかったんだろう? そういう経験はあるだろう?」
「ううん……そうですね。あるかもしれません」
「それが因果律干渉の効果であり、逆効果でもあるらしい」
ドクトルは「だから上手く運気を高めたり、運を掴み取る能力が重要だな」と言ってから、こう尋ねます。
「繰り返し聞いてすまんが、デューク君は、宇宙軍総司令になりたいのだったな? ならば、あの幸運のフネと同じような運気を掴む必要がある。だから運気を高める訓練をすることにする」
「ははぁ、なんだかわかったような。わからないような……でも、運気を高めるっていっても、いったいどんな訓練をするのですか?」
「そうよね、お祈りでもするのかしら?」
「商売の神様にお供え物をするんだよぉ~~!」
ナワリンは「常在戦場、見敵必殺! 南無、報砲連相!」などと、いつの間にか覚えたドンファン・ブバイの祝詞を漏らし、ペトラは「お金をお供えすると、倍になって帰ってくるんだよぉ~~! お金はあるところに集まるんだよぉ~~!」とほざきました。
「他力本願、それも運気を高める方法だと思うが、それよりもやはり自分自身の力を高めるべきだな――そこで、これを使って運を試すことにする」
ドクトルはそこで指をパチリと鳴らしました。すると部屋の隅にあった四角いテーブルがスルスルと自走してきます。その上には、なにやら小さな石が136個ほど並べられています。
「なんですか、これは?」
「これは、とあるゲームを行うためのものテーブルだ」
「ゲームって、遊びってことね?」
「遊びで運試しぃ~~?」
生きている宇宙船は遊戯を楽しむことができる生き物です。デュークは一時期四次元チェスにハマっていたこともありますし、ナワリンとペトラは異種族の仲間達からビデオゲームを教えられていました。
「このゲームには高度な知性と技術、そして駆け引きが求められるものだが……まぁ、まずはテーブルの上のものに触ってみなさい」
「これですね……よいしょっと」
テーブルの上にある小さな石のようなものにクレーンを伸ばすと、その先にあるマニュピレーターで掴みます。
「ふぅん、見た目より重いな」
石をクレーンで摘み取った彼は、ポンポンとその重みを確かめました。重金属とまでは行きませんが、それはかなりずっしりとした素材で来ているのです。
「これって裏表が黄色と白に分かれているわね。黄色いのはバンブーって植物かしら? 白いのは――なにかの動物の骨みたいね」
ナワリンは小さな石を握ってクルクル回してからクンクンと嗅ぎ、素材を分析しました。それは竹と象牙という有機物なマテリアルで出来たもののようです。
「ペロ……なんだかいい味がするよぉ~~!」
「おいおい、それは食べ物じゃない!」
なんでも食べる龍骨の民にとっては、知性のあるもの以外は基本ご飯になってしまいますから、竹と骨というマテリアルも彼らに取ってはご飯なのです。そんなペトラが石を舐め舐めしながら「ねぇねぇ食べていい~~?」と言うと、ドクトルは「こ、こら! 牌をかじるなっ!」と慌てて制止しました。
「へぇ、これは牌って言うのですね?」
「そう、これは”麻雀牌”というものだ。卓上には136枚の牌がある。これを用いて14枚の手札をまとめ、一番早く上がり役を成立させたものが勝者になるというゲームだ」
ドクトルは数百年ほどまえに人類史上主義連盟から亡命してきたニンゲンが持ち込んだものなのだと説明しました。
「こいつは極めて高度な組み合わせゲームでな……136枚を14枚にした時の組み合わせを計算してみなさい」
「ええと……ああ、これはすごいな、326520504500通りもあるのか!」
組み合わせ総数を副脳で計算したデュークは、その大きさにビックリします。
「へぇ、新兵訓練所で仲間たちに教わったカードゲームよりも複雑だわ」
「あれは5枚の組み合わせだったものね~~」
ナワリンとペトラは新兵訓練所時代、仲間たちに誘われてカードゲームを覚えており、「なけなしのお小遣いが吹っ飛んだこともあるわ……」とか、「ボクは収支トントンだったかな~~」などと宣いました。
「カードもそうだが、こういった組み合わせのゲームは、占いや呪いの道具が進化したものだともいわれておる。麻雀は、数多ある牌を組み合わせることで、天運というものを表すゲームなのだ!」
ドクトルは「これで運気を養い、運気を掴み取る力を磨くのだ!」と宣言したのです。
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