第51話  異種族へのご挨拶

 デューク達はさらに超空間を進みます。


「今度は、右から左へ向かうフネが見えますね」


「あれは異種族の軍艦か、ほぉ、種族名はセルヴィーレだと?」


 共生知性体連合には様々な種族が加盟しています。ベテラン駆逐艦のフユツキは、相当な数の異種族とであっていますが、「コレは始めて見るな」と言うのです。


「所属はセルヴィーレ星系軍か。この方角から来るということは、第五艦隊根拠地で合同訓練を終えて、故郷に戻ると言ったところだろう」


 フユツキは左舷前方を示して「あちらの方に超空間航路の分岐点があるのだ」と言いました。


「おや、船足を止めたな」


 異種族のフネは速度を落として、デューク達の進路を塞ぐようにして待ち構えています。


「も、もしかして攻撃してくるのですか?」


「バカモン、あれも共生知性体連合に所属する軍なのだぞ」


 星系軍とは、共生知性体連合に加盟する種族が独自に持つ軍隊です。主に星系防衛を任務とし、時と場合によっては共生宇宙軍へ戦力を供出することもありました。


 フユツキが「彼らは、連合防衛の要であり――」と言ったところで、異種族のフネから、ヴォォン! とした汽笛が届きます。 


「ふむ、正式な礼をするつもりだな。では、こちらもお付き合いするとしよう」


 フユツキは速度を落として、異種族のフネの横まで行くように指示しました。


「各自、武装を前方に固定して砲口を上げろ。失礼のないようにな」


 デュークは大型の粒子砲の蓋を閉じ、ナワリンとペーテルは砲身に最大仰角を掛けて固定しました。これは儀礼の一つで、武装を使わないという意思を表すものです。そのようにして彼らは、異種族の左舷側に滑り込んで停止しました。


「右舷――――礼!」


 デューク達は右舷に向かって拳を固めたクレーンを示しました。


「へぇ、コレが異種族のフネなのね!」


「龍骨の民とは全然違うなぁ」


「きんきらしてるぅ~~!」


 間近で見る異種族のフネは、全長400メートル程のもので、黒一色の装甲に覆われています。形は四角四面の長方体で突起物は僅かに艦橋程度と言ったものでした。その横腹には金色の塗料で複雑な紋様が描かれてもいます。


「あ、何か出てきたぞ――」


「小さいわねぇ」


 黒い船の各所が開いて乗組員が艦外に現れます。異種族は共生知性体連合の平均的身長よりはやや大きいようですが、デューク達と比べれば、米粒の様な大きさでした。


 1000名ばかりの異種族が、等間隔に並んで綺麗に揃った陣形を形作り、ビシっとした敬礼を捧げるのです。


「ふむ、登舷礼か」


 登舷礼とは、貴賓の送迎や遠航の軍艦、また特別の出入港に際して、乗員すべてを艦の両舷に整列させて敬意を表する正式の礼のことでした。


 そして黒いフネの艦橋から―――― -カチ- --- カチ-カチ-カチ- --カチ-カチ カチ-カチ-カチ カチカチカチ- カチカチ という光信号が放たれました。


「キセンラハ、イキテイル、ウチュウセン、ナリヤ? ゼヒ、アイタイ! ふむふむ、直接会いたいそうだ」


 光信号を解読したフユツキが「異種族が招待をしているのだ」と言いました。


「異種族の方から出会いを求めているのね!」


「へぇ、そういうのは始めてだなぁ」


「会ってみようよ~~!」


 デューク達は期待と好奇心に龍骨を膨らませます。


「よろしい、あれだけの乗員で登舷礼を頂いてもいるのだ。こちらから活動体船のミニチュアに乗ってお招きに上がらねば、失礼に当たる」


 フユツキは活動体を出して異種族のフネに乗船すると言いました。デューク達は「わぁい~~!」「射出よ――!」「動け僕の活動体!」と叫んで、自らの分身である活動体を放出しました。


「よいしょっと、活動体でも問題なく動けるぞ」


 活動体でも超空間の中は問題なく飛ぶことができました。エーテルの中に飛び込んだ彼らは、重力スラスタを吹かして集まります。


「へぇ、活動体のデュークって、白くて艶々のお肌だから幼生体みたいねぇ」


「うん、本体と違って、こっちは肌が昔のままなんだ」


 ナワリンがデュークのミニチュアを眺めて幼生体のようだと言いました。フネのミニチュアは本体と違って微妙にデフォルメされた様なフォルムを持っていますし、その上デュークの活動体は白くて、どことなく幼生体のようにも見えるのです。


「おや、ナワリンの活動体は、本体と色が違うね」


 デュークはナワリンの肌色がいつもと違っているのに気づきました。彼女の本来の装甲板は薄赤なのですが、ミニチュアのそれは薄いピンクに染まっています。


塗装お化粧してるのよ。赤もいいけど、ピンクも素敵でしょ! ウチの氏族出身の戦艦のおねぇさんの色なの。会ったことはないけれど、素敵なフネなんだって!」」


「薄桃の戦艦って…………」


 デュークには思い当たる節がありました。


「おねぇさんって、もしかしてマジェスティック級戦艦の――マギスさん? あ、そうか、アームドフラウって、ナワリンの氏族だったね」


「あら、知ってるの?」


「知ってるなにも、幼生体の頃に一度会ったことがあるよ!」


「あ、あんた会ったことがあるの!? くっ、私はデータでしか見たことないのに……」


 デュークがマギスにあったことがあると知ると、ナワリンは切れ長の目を細めて、口惜しそうな色を浮かべました。マギスはマザーに戻った時は、前執政官の護衛任務に就いていたため、アームドフラウのネストには戻っていなかったのです。


「まぁ、宇宙軍に入れば、そのうち出会えると思うよ」


「ふん……」


 ナワリンは口を尖らせて、不満げな表情をみせました。そんなデュークたちの横に、スルスルと別のミニチュアが飛んできます。


「ねぇ、早く行こうよぉ~~!」


 甲高い声でそう言ったのは商船のミニチュアでした。


「商船? もしかして、君はペーテルかい?」


「だからボクは船なんだって――――!」


 デュークが視覚素子を調整して探査すると、ペーテルはどうやらプラスチックで出来た商船の皮をかぶっているようです。


「なるほど、合成樹脂のガワを被って偽装しているんだ」


「だから、これがボクの本来の~~!」


 ペーテルが、そう反論した時でした。ナワリンは「なによそれ!」と口をへの字にしてから、こう言います。


「あなたね、そんな偽物の姿で異種族と出会うの? 彼らを騙すつもり?」


「そ、そんなつもりはないよ~~!」


 ペーテルは違うと言うのですが、ナワリンはこうも言うのです。


「私だってお化粧はしてるけれど、本来の姿は変えていないのよ。でも、あんたってば――――!」


「まぁまぁ。でもさ、ペーテル、そんなことするのは確かに失礼だよ」


 デュークは憤るナワリンをなだめながらも、彼女の言葉を肯定しました。様々な状況においてフネが偽装するはあるのですが、それはやはり大変失礼なことなのです。


「ナワリンとデュークの言うとおりだな」


 駆逐艦のミニチュアが、スルスルとペーテルに近づきます。そして――


「恥を知れぇ――――!」


 彼は偽装したペーテルのガワをクレーンで力強く掴み上げ、バキッ! と、引き剥がしました。


「きゃぁ~~~~!」


 ペーテルは随分と甲高い鳴き声を上げ、本来の自分自身である巡洋艦の姿に戻ったのです。

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