第41話 幼生期の終わり ~特別な肌~

「なんで銀色じゃないのぉぉぉっ?!」


 軍艦になれば、キラキラとした金属質の装甲板を持つものだと信じていたデュークでしたが、彼の新しいカラダは艶々とした白色のままなのです。


「ま、まさか僕は幼生体のままなのか! うわぁぁあぁぁっ⁈」


 デュークは我を忘れて、大きな白いカラダをジタバタとさせました。1キロもある戦艦が暴れるものですから、部屋の中は大混乱となります


「イタタタ、そのサイズで暴れるない!」


「あっ、ごめんよぉ……」


 艦首をゴツンとされたオライオが、「イタタタ、結構凄い装甲じゃのぉ」と言いました。


「装甲板……じゃ、やっぱり軍艦になってるんだ」


「白い軍艦は珍しいのだが、時折見かけものなのだがね……一応、装甲の表面を調べるぞ」


 ゴルゴンがデュークに近づいて、スルスルとクレーンを伸ばして肌を調べ始めました。


「白くて艶々だが……明らかに幼生体のものではない。ふわっとした感じもあるが、硬さも十分あるし随分と厚みがある。おや、叩いても手ごたえがない。ふぅむ、これは衝撃を受けとめる構造になっているのか?」


 オライオもデュークに寄り添いながら、その白い肌を確かめます。


「なんじゃろなぁ、なんだかぼやけて見える気もするのぉ。可視光線でははっきりと見えるのじゃが、赤外線やら電波レーダ電磁波の吸収率が高いようじゃ」


 デュークの外殻は確かに幼生体のような白さでしたが、何かが違っているのです。


「普通の装甲板とはちょっと違うなぁ。ははっ、面白い感触をしている」


「固体のようで液体のような感触もしますぞ」


 アーレイとベッカリアがデュークの肌を触ると、吸い込まれるような感触がクレーンの先に伝わるのです。


「ふむ、これは多分、特殊な装甲板なのだろう」


「特殊な装甲板って?」


 ゴルゴンは、「我らの肌はある程度電波や赤外線を吸収し、衝撃に対して反応するしなやかな生体装甲なのだ」言いました。


「お前の装甲は、よりその傾向が強いようだ。そうだ、昔、龍骨の民の装甲板をベースに、私が昔開発していた流体装甲に似ているな。はて? あれはコストが折り合わず量産出来ず……一部の執政府船しか使えなかったものだが……」


 デュークのカラダを包む装甲板を眺めて「似ている……しかし何故?」と、ゴルゴンは不思議そうに艦首をねじりました。


「あ、もしかしたら、ワシのせいかもしれん」


「なにぃ?!」


「軍を辞める時に退職金替わりにくすねてきた物資の中に、そんな装甲板があったのじゃ。デュークが腹が減った――! と言ってた時に喰わせてやったのじゃ」


「なにぬぅ?! お前そんな物食わせたのか!」


「別にいーじゃろ、ワシらは、何でも食べる生き物じゃからな。ほんでもって、食わせたそれがいい感じに影響してカラダを作ったのではないか?」


「うげぇ……アレは超がつくほどの軍機密なんだぞ! 軍や執政府にばれたらどうするんだ!」


「もう10年以上経っとるから、時効じゃ時効じゃ! それで駄目なら、すべてはマザーの思し召しってことで片付ければよい。どうせマザーは何も言わないから問題ないのじゃ、ゲへへへ!」


 ゴルゴンが頭を抱えるのを他所に、オライオは「証人のいない立証不能な完全犯罪じゃ!」と母星を冒涜するような発言を行いました。


「ううむ……そ、そうだな。ちょっと似てるが、全然違う! うむ、これはマザーが作った新素材、これこそマザーの思し召し……そういうことにしておこう!」


 ゴルゴンは頭を抱えながら「だが、どうやっても量産出来なかったのに、こんな簡単に、それも大量に装甲板になるなんて……もしかして本当にマザーのせいか? いや、デュークの縮退炉が影響したか?」などと、ブツブツと呟きました。


「で、コイツはどういう装甲板なんじゃ?」


「データ通りならば凄い性能がある。レーザーは吸収するし、熱耐性もすごい、爆発や衝撃に対して自動防御して、流体部分が勝手に自己補正して穴埋めする機能まであるのだ……」


「ほぉ、凄い装甲ではないか。良かったのぉデューク」


「へぇ……」


 そしてデュークは、クレーンを動かしてペシペシペシと自分の肌を叩きました。手の先で触ると、装甲からはツルツルとした感触が伝わります。


「自分の装甲ながら触り心地がいいね。何ていうか、装甲板としてとても良いのかもしないね!」


 デュークは、自分の新しい装甲を確かめ「結構良いかも」と言いました。


「でも、白って目立つよなぁ」


「城は目立つからのぉ。じゃが、戦艦なんてものはデンと構えて、戦場を支配するのが仕事なのだ。目立つ色でむしろ良かったのかもしれんぞ!」


「あ、そうか、僕は戦艦になったのだものね!」


 デュークは「わーい!」と大きくなった腕を持ち上げ、改めて喜色を上げたのです。

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