第243話 熾烈な砲撃戦

「ふぇぇぇぇっ、合体して大きくなったぁ!」


「ば、馬鹿な……ありえん……」


 機械帝国の大型戦艦艦首には数百メートルを超える戦艦が衝角の様に接合され、艦腹には厚みのある重装甲艦が増加装甲のように取り付いています。艦尾には速度性能に優れた巡洋戦艦が備り推進力を高め、甲板上に強力な艦首軸線を搭載した砲撃特化の戦艦をあたかも長大な主砲のごとく備える巨大戦艦が出現したのです。


 龍骨の民の少年と、アライグマの中年は驚愕の声を上げる中、プロメシオンに座乗するメカロニア貴族の女伯爵は――


「戦艦合体プーローメーシーオォォッォォンッ!」


 と高らかに叫んだあげく、「おーほっほっほっほ!」と金髪縦ロールの高飛車貴族娘が放つような哄笑を上げていました。


「聞いて驚け、見て驚けっ! このトんでもメカニズムっ! だが、このデュランダルが一番驚いているッ!」


 常識人たるデュランダルは「無茶にも程があるなぁ」と、ため聞きを漏らしていました。合体構造の戦艦はまったくの試作品であり運用実績もなく、実のところ合体できたことが奇跡だったのです。


「なぁ、アレクシアよ。最初から合体しておけば良かったのではないか?」


「それは無粋よ、おにーちゃん」


 アレクシアは一つ指を立てながら「敵の目の前で合体するから、趣きがあるの!」と、明々白々たる口調で説明しました。デュランダル子爵は「ぐむむ」と押し黙ります。


「それにしてもプロメシオン級合体戦艦は凄いわ! 全部で24個の縮退炉を備える帝国の秘密兵器なのよっ! まったくすごいものを貰ったものね!」


「試作品の実験台にされたような気もするんだがなぁ……」


 繰り返していいますが常識人たるデュランダル子爵は「技術的には可能だが……よくもまぁ」と何度目かのため息を漏らすのです。トんでもギミックを用いて巨大戦艦を作り上げた機械帝国側の当人達は、結構意外に浮ついています。


 一方、突如現れたデッカイ戦艦をマジマジと見つめていた共生宇宙軍サイドは、機械帝国側のフワフワした会話を知る由もなく――


「あれとやりあうんですか? 僕より大きいですよ……」


「こ、虚仮威しだ。虚仮威しにすぎんっ!」


 との有様でした。


「大佐。声が上ずってますよ?」


「うるさい! とにかく、やつを止めなければ、アーナンケを逃せない!」


 基本的に常識人であるラスカー大佐は、見たことも聞いたことも無いメカ達の合体戦艦の姿に微妙に思考が停止しているのですが、そこは流石に歴戦の軍人です。捕食生物としての本能を奮い立たせ、いつにも増して両手をスリスリさせながら「撃てッ! とにかく撃て!」とぶち上げました。


「先手必勝、見敵必殺だ!」


 大佐は摩擦熱でだいぶ温まった手をトリガーに掛け、ガチガチガチと発砲信号をデュークに送り込みました。こういう場合、一歩退くのがセオリーかもしれませんが、判断の妙と言うもので、ここは戦場ですから「見敵必殺」も一つの選択肢になるのです。


「まぁ、そうですね。じゃ、撃ちます――――主砲斉射!」


「弾着確認は省略しろっ、主砲強制冷却っ! 次弾装填――――っ!」


 ラスカー大佐は敵艦の被害状況確認をすっ飛ばして、次の行動に移れと命じます。そしてデュークの艦内にある冷却材が惜しげもなく消費され、主砲の熱を奪うと連続射撃を継続するすぐさま態勢が整いました。


「連続射撃だッ! やれっ!」


「はい!」


 デュークがドギュオ――――ッ! と立て続けのレーザーを放ちました。光の速度で伸びていった連続射撃は、数秒後には敵艦の中央にヒットするのですが――


「あ、駄目です。全部、艦外障壁で弾かれちゃった」


「虚仮威しではないというのかっ!」


 メカロニアの超巨大戦艦は合体した各艦の艦外障壁を重複させ、その見た目に見合った防御力を発揮したのです。


「あ、敵艦に高エネルギー反応を確認……エネルギーがドンドン高まります!」


「ぬぉ、光学観測できるほどの重粒子だとっ?! 大口径粒子砲かっ?!」


 フィフィフィフィフィフィフィ――と、重粒子プラズマ加速器が唸りを上げ、プロメシオンの艦上に巨大な溢れんばかりのパワーが集中していました。甲板上で接合した砲撃戦特化型戦艦の艦首が真っ赤な輝きから、青白き輝きに移行しています。


 すると、ドッギャーン! っと、プロメシオンからとってもエッグい力を持ったエネルギー光弾がスルスルと飛び出してきたのです。


「全スラスター緊急出力――艦首を正対、艦外障壁艦首に集中!」


「艦首正対、艦外防壁最大展開!」


 なんだかとっても危険な香りのする砲撃に対し、デュークは最大の防御力を持っている艦首を前にして備えました。そして――――


「どげげげげげげげげげげぇっ!」


 デュークが最大パワーで整えた艦外障壁に直撃した光弾は、その強力なエネルギーでバリアを削りに掛かり、少年戦艦は「バリアが溶ける! 溶ける――っ!」と叫んだのです。


「負荷がっ!? ひっ……」


 艦外障壁を支える蓄電池がボンボン! と爆発し、重力スラスタ――重力子発生機でもあるそれが赤熱化すると、やはり爆発するのです。


「ぎゃぁ、少し抜けた――――っ!?」


「艦首が燃えてるぞっ!? ダメコン、急げっ!」


 光弾をまともに受けたデュークの鼻先が大炎上を始めました。ラスカー大佐の命令を受けた艦載AIさんが「Go Go rescue出撃~~!」と、デュークの多目的格納庫に詰め込んでおいた消火ドローンを起動させ、消火液や冷却材を艦首にぶち撒け始めます。


「ふぇふぇふぇ……」


 デュークもクレーンを伸ばして艦首をサスサスしたり、赤熱化した装甲に冷却スプレーを当てたります。その甲斐もあって、艦首部の炎上は速やかに解消しました。


「よしっ、いいぞ!」


 デュークがいい感じの防御力を発揮したので、ラスカー大佐は「普通なら撃沈コースの砲撃をよく耐えたっ!」と、笑みを見せました。


「でも、また撃たれたら、かなりまずいです。舳先お鼻がヒリヒリじゃすみませんよ」


「大丈夫だ、あれは大した攻撃力だが、連発できるものでは――」


 と、ラスカー大佐が大砲屋として的確な分析を述べた瞬間――


「あだっ!?」


 追撃とばかりに、重ガンマ線レーザーが飛び込んでくるのです。


「通常のレーザーが貫徹を始めたかっ!」


 先程のエネルギー光弾よりも低出力なレーザーですが、そこは72インチという相当な砲力なのです。艦外障壁による無効化率が100%を割り込み、デュークの艦体の各所にダメージを与え始めました。


「くそっ、距離が詰まったか」


「近づかれすぎましたね……あちちちち」


 距離が近づいて敵の砲力が有効射程に近づいたことは明白になっています。距離の関係上、これまでの砲戦はデュークが有利という状況にあったのですが、距離が近づいてくれば、状況が変わるのです。


「大佐ぁ、敵艦がドンドン近づいてきますよ――!」


「おぅおぅ、敵さんも気合はいっとるなぁ」


 そこでチラリと時間を確かめたアライグマは「まだ、逃げられんな」とつぶやいてから、この様に告げるのです。


「腰を据えて撃ち合うしか手が無い……へへへ、燃えてくるぜ、なぁ?」


 近づいてくるメカロニアの超大型戦艦を見つめながら、大佐は脳筋方向に意識を振り切ったセリフを漏らしました。


「実際問題、燃えるのは僕なんですけど……」


「おお、燃えろ燃えろ、どんどん燃えろ!」


「ふぇぇ、そんなぁ……」


 と、デュークはちょっとばかりぼやくのですが、指揮官たるラスカー大佐の両の手が、固く握られていることに気づきました。いつもはスリスリさせている大佐の手は、僅かな震えを見せているのです。


 ふとデュークが艦橋内をサーチすると、他の司令部要員達もなにやら歯を食いしばったり、不敵な笑みを無理に浮かべようとして泣き顔に近い表情を見せていたり、「ひっひっふ――」などと何かに耐えるような悶声を上げていました。


「あ……」


 司令部にあるスタッフ達は、デュークとは違う、いたって普通の種族なのです。そのような彼らが戦艦同士の殴り合いの場に身を置くと言うことは、相当のストレスがかかるもの――デュークの龍骨がそのような気付きを得るのです。


 軍人としての諸先輩方が恐怖を押し殺す姿に、デュークは「これは、ヘタってる場合じゃない!」と龍骨を固めました。


「僕、燃えます! 燃えてアーナンケの盾になります!」


「よしっ、その意気だ。そのまま根性据えて撃ち続けろ――第一砲塔、撃ッ!」


「撃ちますっ!」


 デュークは「ここは一歩も通さないぞ!」と、叫びながら、敵に攻撃を繰り返します。距離が近づけば、デュークの砲撃も有効射を得るように成り、さしもの超大型戦艦も、艦上構造物の一部を赤熱化させ、一部では爆発も生じるのです。


「いいぞ、もっとやれ!」


「はいっ!」


 龍骨の民というものは、普段は温和で、いつもおしゃべりをしながらテレテレ過ごしているようなオトボケ種族なのですが、何かを守る時はその太くて長い龍骨をドッカリと構えて一歩も退かない性質を持っているのです。


「よぉしいいぞ。第二砲塔冷却が済み次第、発砲!」


「はい! ぐっ…………こんなの痛くないぞ! 第二砲塔斉射ぁ――――っ!」


 デュークは被弾しつつも砲撃を継続します。そんな自分の乗艦――いまだ少年の彼が根性据えて「君を、止めるまで、殴り続けるッ!」などと戦う姿に司令部のクルー達らは「くっ、さすがは龍骨の民だなっ!」「ふへへ、やるじゃないか」「アーナンケは俺たちが守護る!」などと声を上げました。


「二番副砲群に直撃――ダメコン、消火急げ!」

「デュークのエネルギーラインを維持しろ、艦外障壁最適化!」

「縮退炉再調整――いいぞ、まだまだ全開でいけるっ!」

「冷却材プール、あそこに余剰がある。回せっ!」


 すでにデュークの艦上構造物が赤熱化を通り越して、爆裂し始める箇所もでていますが、司令部要員達はデュークの艦体制御を受け持ち、彼が戦力として最大化するように最善の努力を続けていたのです。


「第一砲塔、被弾。二番砲身に異常発生! あの部分は、干渉できません」


「大丈夫! 僕のクレーンでパージします!」


 砲塔に被弾したデュークは、クレーンを用いて速やかに被害の生じた砲身をへし折りました。龍骨の民の生体兵装はカラダの一部分ですから、一般的な種族で言えば、自分で自分の指をへし折るようなものですが、彼はそれをためらうことなく行いました。


 そしてデュークは「第一砲塔調整完了です。まだ、撃てます!」と叫びました。その彼の目は涙目になってはいますが、戦意はいささかも衰えるどころか、増してゆくのです。


「いいぞ……さすがはカークライト提督が選んだフネだ!」


 ラスカー大佐はとても良い笑顔を見せると、牙をむき出しにして「撃ッ!」とデュークに砲撃指示を出したのです。

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