第242話 大きいことはいいことだ

「全長1キロの戦艦ですよ!」


「お前の方がでかいがな」


「でも、フネの性能って、大きさだけじゃ決まらないんですよ、大佐」


「分かっとる。主砲は72サンチくらいか? 手応えのありそうなやつだなっ!」


 敵の大型戦艦の姿を認めたデュークは、本能的に「強敵だ!」と龍骨を震わせました。大きさは彼の7割程度ですが、フネの力というものはサイズでは決まらない部分もあるのです。


「とにかく叩いてみよう。第二砲塔、第三砲塔交互射撃、目標敵大型戦艦、撃て!」


「はい!」

 

 デュークは砲塔内のポジトロニウムを起爆させて重ガンマ線レーザーを六発放ちます。そして、そのうち三発が大型戦艦の艦外障壁に直撃し、ギャリギャリとした閃光が巻き起こりました。


「あっ、艦外障壁に弾かれた」


「ちっ、重力子の使い方がうまいな。砲弾の当たる直前に艦外障壁の避弾経始を変化させたんだ。なかなかやるっ!」


 デュークの81サンチレーザー砲は、そのありあまるパワーによりバリアの上からでも少なからぬ打撃を与えるものですが、敵の大戦艦は艦外障壁をうまい具合に偏向させて弾いたのです。


「だが、撃ち続ければ、いずれは抜けるぞ!」


「あっ、大型戦艦にエネルギー反応。撃ってきます!」


「おっと、流石に反撃がくるか、艦外障壁を全開にしろっ!」


 敵の大型戦艦がゴギョォ――――! と主砲を唸らせ強烈なレーザーを放ってきました。それをタキオンレーダー上の反応で確かめた大佐は、デュークの副脳を通じて艦外障壁に回す電力の供給量を上げるための強制コマンドを打ち込みます。


「来ます!」


「こらえろ!」


 数瞬の後、これまでの砲撃とは比べ物にならない強力なガンマ線レーザーがデュークを襲い、彼の艦外障壁に食い込んでまばゆい閃光と、バキバキバキ――――! という猛烈な炸裂音を奏でます。


「ふぇぇ、凄い放電だぁ。艦外障壁のエネルギーがグングン減っていきますよ!」


「だが、許容範囲だ」


 一斉射撃による強力なガンマ線レーザーの嵐が、デュークの艦首装甲板から横腹にかけてなめるようにヒットしたのですが、敵のレーザーがデュークの装甲板に触れることはありませんでした。


「防御にパワーを傾けたからな、この距離で抜かせはせんよ」


「でも、蓄電池がいくつか爆発しちゃいましたぁ」


 デュークの艦外障壁を形成するバッテリーは十分な仕事をしたのですが、過負荷がかかって爆発するものがあったのです。デュークは生体蓄電池がボンボン! と爆裂する際の痛みに艦体を震わせます。


「かすり傷にもならんだろ、その程度」


「まぁ、そうですけど」


 蓄電池が多少暴発したとしてもデュークの戦闘能力はビクともしません。それらは彼の体の中に無数に存在しているからです。


「ふっ、あの大戦艦、確かにサイズはかなりあるし、なかなか砲力だが、デュークのスペックを超えるものではない。よし……この距離で撃ち合っていれば、どうとでもなる」


「付かず離れずですか?」


「そうだ」


 大佐は「なんといっても敵の数が多い。近距離に入れば貫徹させられることもあるやもしれんからな」と、慎重なところを見せました。彼は大砲屋と呼ばれる男ですから、砲撃をする側にとっての最善手は自分の有利な距離から一方的に敵を叩き続けることだと知っているのです。


「じゃぁ、進路をこのままにして――――って、あれ? 敵が変な動きをしてます」


「うん?」


 デュークの視覚素子が、単縦陣を取っていた機械帝国の戦艦部隊がスラスタを更かしてその位置を変更している姿を捉えます。


「敵が集まって行きますね」


「密集するだと? 何をやっとる、的がデカくなっって当てやすくなるじゃないか。メカども何を考えてやがる」


 メカロニアの戦艦部隊は、大型戦艦を中心に距離を密にするような機動を取りつつあります。大佐は「良い的だぜ」と笑みを浮かべるのもしかたがありません。敵が密集してくれれば、それだけ砲撃が当たりやすくなるので好ましい事態なのです。


「あれ……さらに固まってゆきますよ!」


「おいおい、密集するのを通り越して、衝突コースじゃないか?」


 レーダーに映る敵艦達は舷側を寄せ合う様にして、さらに距離を縮めてゆくのです。それは密集隊形というのを通り越して、あまりにも密な行動でした。


「あ、衝突した――――――」


 そして舷側をぶつけるかのように進んだ戦艦が、大型戦艦の横腹に食い込みます。そしてデュークは、装甲同士がぶつかって、どちらかが食い破る事態に陥るのではと予測したのですが――


「なんだかくっ付いてますっ――――?!」


「なんだと?!」


 装甲と装甲がすり合わせてはいますが、損傷を受けた様子はありません。それどころかなにか得体のシレない放電をバリバリと唸らせて、お互いに吸着するようにしているのです。


「あ、他の艦も――」


 他の艦も同じ様にして大型戦艦の艦首やら横腹やら艦尾にぶつかり始めます。それらはやはり最初の艦と同じく、コントロールされた衝突というべき勢いでぶつかると、ガキョォン! ガキョォン! とくっついてゆくのです。


「こ、これは一体………………」


 ラスカー大佐が呆けたような呻きを上げる中、メカロニアの軍艦達は様々な接合方法を用いて、その身をお互いに縛り付けてゆきます。


「こ、これってぶつかってるんじゃなくて接合してるんだっ!」


「馬鹿な――――」


 と、ラスカー大佐は叫ぶのですが目の前の現実に抗うことはできません。


「せ、戦艦同士が合体して巨大戦艦になった……だと」


 彼の目には、全長1.5キロを超える超大型戦艦の姿が映っていたのですから。

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