第241話 最終防衛ライン その8

「第一戦速ッ! 敵艦に先行しろ!」


「わかりました!」


 デュークが敵の進路を抑えるように速度を調整していると――


「敵艦、射程内に捕捉!」


「先頭は巡洋戦艦かっ!」


 対消滅の閃光から回復したデュークの視覚素子と、司令部ユニットに搭載されたセンシング機器が機械帝国戦艦部隊の一番先頭艦を捕捉したのです。


「距離はまだ遠いが、予測どおりの位置だ! 行けるぞ、先手必勝だッ!」


 すでにデュークの主砲は敵の先頭艦に対して指向されています。ラスカー大佐が「問答無用、ファイアッ!」と発砲トリガーを握りしめると、デュークの三連装三基砲塔内に溜め込まれたポジトロニウムのペレットが起爆します。


 ドギュオ――ッ! と、三連装三基砲塔に仕込まれた9つの砲身の筒先に強力な閃光が生じ、指向性ガンマ線レーザーが放たれました。


「5・4・3・2――弾着ッ! デューク、反応が見えるかっ?!」


「ええと……あっ、赤外線反応だ! 初弾命中ですよっ!」


 デュークの放った初弾が敵巡洋戦艦に命中し、その表面で大規模な赤外線反応が発生させていました。


「そうか、初弾命中かっ!」


 ラスカー大佐がニカッと笑みを見せました。いまだ相当の距離がある中で初撃を成功させるため、彼はデュークの射撃能力装置に艦載AIの精緻な計算力を高いレベルで融合させ、それに成功したのです。


「あっ、敵の砲塔が爆発しています!」


「さすが、口径81サンチ砲だ! デュークの砲力はパワーが違うな!」


 直撃を受けた敵艦の砲塔が爆裂しています。機械帝国の軍艦も艦外障壁――重力操作による偏向と、瞬発的な高出力電磁波による干渉でガンマ線レーザーを防御できるのですが、デュークの砲はそれを上回る火力を発揮していました。


「よしっ、敵一番艦を叩き続けろ!」


「はいっ!」


 ラスカー大佐は「情け無用、ファイアー!」と発砲指示を出します。デュークは「あれは敵っ! 連合の敵ッ!」と無我夢中で主砲を放ち続けました。そうして、砲戦開始から数分もしないうちに、敵の一番艦は相当の被害を出して、戦闘力を失います。


「一番艦はもういい。次は、一番と二番砲塔で敵二番艦を撃て。三番砲塔は敵三番艦を狙え!」


 と、ラスカー大佐が「砲撃目標を変更しろ!」と、指示を出すやいなや、デュークのタキオンレーダーがピピピとタキオンアラート――重光学兵器の飛来を先読みする警報を鳴らします。


「敵艦が撃ってきました! これ、当たりますよ!」


「艦外障壁全開!」


 デュークの砲撃を受け一番艦を失った機械帝国の戦艦部隊ですが、負けじと応酬の砲撃を開始したのです。ラスカー大佐は「敵さん肝が座ってやがる」と思いながら、防御態勢を整えろと命じました。


 タキオンアラートから数秒の後、デュークの横腹に目掛けてガンマ線レーザーが降り注ぎ、バリバリバリ――――! と、デュークの艦外障壁とぶつかり激しいせめぎ合いが生じます。


「わわわわ――――!」


「慌てずに、反らして、散らせ!」


 艦外障壁の性能は瞬間的な大電力を発生させる性能に比例します。デュークの大きなカラダには強力な縮退炉が備わり、その上大小様々な蓄電池が無数に備わっており、容量は核融合技術レベルにある惑星の年間電力に匹敵し、それらの電力が艦外障壁として力を発揮すれば――


「よいしょっ――!」


 複数の敵艦が放ったガンマ線レーザーは艦外障壁を貫くことなく受け流され、完全に無効化されるのです。


「はっぬるいな。この距離ならば当然だが!」


 ラスカー大佐が「さすがデュークだ。なんとも無いぜ!」と余裕の表情で笑みを浮かべました。参謀である以上に大砲屋である彼は、敵艦の持つ砲力を推測し、現在の砲撃距離であれば、全く問題ないと判断しているのです。


「おらおら、敵さん。もっと撃ってこい! ドンドン撃ってこい!」


「ふぇぇぇ、撃たれるのは僕なんですけど。それにレーザーを弾くのって、結構疲れるんですよ……」


「じゃぁ、撃たれないように敵を潰さんとな。敵二番艦、装甲が硬そうな戦艦だが――――行けっ! 第一砲塔、連続斉射三連!」


「はいっ!」


 デュークの第一砲塔内でガギッ! ガキッ! ガキッ! っと、連続したポジトロニウム反応が巻き起こり、砲口が三度火を吹きます。


「命中しました!」


 しばらくすると、敵の二番艦の表面で爆発が生じます。敵艦は応射を加えてきますが、徐々に間隔が合いてくるところを見ると、艦内に深刻なダメージが残ったようです。


「で、でも、大佐。今の連続斉射で第一砲塔の主砲が熱ダレしてます」


「第一砲塔は冷却を優先しろ。第二砲塔、第三砲塔で交互に射撃を継続するんだ」


 ガンマ線レーザーは大変に強力な兵器ですが、それを放つためには大量のエネルギーを使う上、ある程度使用すると砲身を冷却する必要があるのです。


「あ、敵の後続艦が進出してきました!」


 デュークがドッカンドッカンと主砲を放って敵を叩く中、機械帝国の後続艦が前面に投入され始めます。


「ち、距離を詰めて来たかっ――」


「敵艦発砲しながらながら、こっちに近づいてきます!」


 メカ達の戦艦部隊はデュークに砲撃を仕掛けつつ、幅寄せを掛けるがごとく、その距離をジワリと詰めながら主砲を放つのです。


「うわっ、うわっ!」


 複数の戦艦がデュークを捉えて艦外障壁を殴り始めました。それに対してデュークは艦外障壁をフルパワーにして対抗するのですが、敵艦の砲撃は激しさを増してゆくばかりです。


「あちちち――――!」


 デュークの艦外障壁は未だ健在ですが、無数に浴びせられるガンマ線レーザーの中には、完全にはエネルギーを失わずデュークの装甲を炙るものもありました。


「ふぇぇ、お肌がピリピリするぅ…………」


 デュークの装甲板にヒットするガンマ線は、高いエネルギーと浸透力を持っています。それらはデュークの装甲に当たると高熱を発し、溶解穿孔を始め一部は爆発すら引き起こすのです。


「ふぇ、格納庫が誘爆してる」


 比較的装甲の薄い所となる多目的格納庫などは、レーザーの余波を受けてボンボン! と爆発を始めました。


「くぅ、痛いよぉ……」


「痛覚をカットしろ!」


 デュークの装甲板は流体金属のような性質があり、溶け出したところをすぐに塞いでしまうのですが、やはり金属を溶かすだけのエネルギーを浴び続ければ痛いものは痛いのです。


「いかんな、さすがにこれだけ撃たれれば、無事ではすまん……」


 デュークの装甲温度が上がり始めたのを確認した大佐は、いつものように両手をスリスリしてから、頭を振ってある決断を下します。


「デューク、砲塔への電力供給を50%に落とせ、残りは艦外障壁に回すんだ」


「それだと、主砲を撃てる回数が減っちゃいますけど」


「だが、それならばやつらの砲では抜けきれん!」


 ラスカー大佐はこのまま敵艦の攻撃を受け続けたとしても、デュークが落とさせれることは無いと考えていました。


 そして、大佐が「このまま、時間稼ぎできれば」とアーナンケの脱出に必要な残り時間を計算し始めた時です。


「あっ、敵の大型艦がっ!」


「ち、来やがったか!」


 デューク達は艦列の後列に控えていた敵の大型戦艦がその砲口を向けながら、自分を狙う位置に入ってくるのに気がついたのです。

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