第144話 9隻の姉妹

「オ――ホッホッホッホ!」

「ふむ、ふむ、ふむ、ふむ!」

「もっと熱くなれよ! もっともっと熱くなれよ!」

「おぅおぅおぅ!」

「ハリーハリーハリー!」

「なのです!」

「なのだ!」

「異論は認めない――!」


 ――――デュークたちは駆逐艦たちのなすがままにされていました。包囲の手は完全に閉じ、三隻はひとかたまりに押し込められ、カラダをすり合わせ身を縮めています。


「皆さん、龍骨の民じゃないですか! なんでこんなことをするんですかぁぁぁ!」


 カラダの調子が戻ってきたデュークは、同族の女性――8はいの駆逐艦に、「やめてよぉ!」という感じで懇願しました。


「馬鹿か、おめぇ――! そこに敵がいたら突撃するのが、駆逐艦ってもんよ!」


 べらんめぇ調の口ぶりを持つ駆逐艦が、「あったりめぇのことだろう!」と言いましたが、デュークにはさっぱり理解ができませんでした。その他の艦も異口同音によくわからない理由吐くのです。


「ううう…………」とさっぱり要を得ないデュークに、舷側をすり合わせているナワリンがヒソヒソと話しかけます。


「デューク、デューク。このフネ達ウチの氏族だわ」


「アームドフラウか……」


 そう言われてみれば、駆逐艦たちの目は皆一様に切れ長なもので、ナワリンの産まれたネストに多いものでした。


「ウチの氏族の駆逐艦は大なり小なり血の気が多いのよ」


「そうなのか…………だけど、なんで襲撃まで!」


 と、デュークがぼやくと――突然別の声がかかります。


「あらあら、まぁまぁ、知らないって恐ろしいわぁ」


 ――それは、駆逐艦よりは大きなフネ――ペトラよりはやや小さい巡洋艦クラスの龍骨の民のものでした。


 スラリとしたシルエットを持ち、駆逐艦たちと同じ白銀の装甲を見せつる巡洋艦は、切れ長の目を細めながら、手にした細長い純白の金属棒でデューク達を指し示しながら、こう続けます。


「自分が出している、シグナルを確認しないさいな」


 彼女は、駆逐艦達のそれとはまた違う甘ったるい口調の声で、デューク達の流している識別符号を確かめるように言いました。


「え?」


 デュークたちが、自分たちの識別符号を確かめると――「我演習中、我キノコ野郎」という演習用のコードが残ったままになっていました。


「演習信号をそのままに星系内を動くのはどうかとおもうわぁ。それじゃぁ、襲ってくれと言っているようなものよぉ」


「あ……演習用のコードを残したままにしていたのか!」


 デュークたちは演習中に衛星――共生宇宙軍の資産をパクついたあと、迂闊にもそのままシグナルをそのままにして、次の行動に移っていたのです。


「敵さんならば、手加減しなくても良いかしらぁ?」


 甘ったるい声の巡洋艦がそう言うと、8隻の駆逐艦達が追随します。


「ス・テ・キな熱核爆弾を差し上げましょう。オ――ホッホッッホッホ!」


「ふむ、この白い装甲に重力子弾頭を打ち込んだら、どうなるのかな?」


「命焦がすほどの重レーザー砲でもっと熱くなれよ! もっともっと熱くなれよ!」


「おぅおぅおぅ! オレの高振動放熱板でぶった切られて―かよぉ?」


「宇宙軍大工廠の溶鉱炉で鍛造された対キノコ用超質量弾……パーフェクトだ」


「三連装三基の光子魚雷を食らうのです!!」


「12.7サンチ重CIWSで、戦争を教えてあげるわっ!」


「臆病者の軍艦なんか、大嫌い――! 反物質機雷でも食っとけ――!」


 駆逐艦たちは、演習弾ではない本物の軍用火器をウォームアップさせるのでした。


「私の妹達は凶暴なのぉ。早くシグナルを消さないと本当に撃ちかねないわよぉ!」


「「「うわわわ!」」」


 デュークたちは、慌ててて、演習中に流していたコードを解除しました。


「星系外縁部での演習――キルゾーンを突破した手並みは結構だけれどもぉ。あなた達、とってもオマヌケさんだわぁ。気をつけることねぇ」


「ううう、すいません」


「迂闊だったわ……」


「まだ、目が痛ぃ~~」


 「敵です!」と言いながら、ノコノコと宇宙軍の守備範囲に入って来れば、襲撃を受けても仕方のないことでした。デュークたちは星系外を突破してご馳走を食べることで、気が抜けていたのです。


「僕らは、こちらの部隊に配属になったデューク以下の三隻です。あなた達が部隊の先任ですね?」


「そうよぉ!」


 巡洋艦はクレーンの先をパチンと鳴らしました。すると、デュークたちを取り囲んでいた駆逐艦たちはパッと散開し、周囲を旋回し始めます。


「あたくしは、”戦場に舞い踊る朧月”――ミラージュ! 艦首を下げなさい! オ――ホッホッホッホ!」


「”静かなるさざなみ”――リップルだ。ふむ、ふむ、ふむ」


「”熱い宇宙が潮の息吹”――タイド! まだ、お前の縮退炉は120%だ! 全開150%逝ってみよう!」


「”彼岸に輝く宇宙そらの曙”――ドーンとはオレっちのことだ! おぅおぅおぅ! べらぼうめぇ、コンチクショめっ!」


「”冥府から登る暁の祈り”――サンライズ。さぁ、さぁ、さぁ、星の片隅で、涙を流しながら命乞いをする準備はできたか?」


「”迫撃する真空の電撃”――サンダーなのです! 戦争を教えてやるのです!」


「”雷鳴は神なるいかづち”――ライトニング! 腑抜けた小僧ども、私のケツをなめろ!」


「”鉄華の震えは宇宙の響き”――エコー! ずえったい、異論は認めない――!」


 白銀の駆逐艦たちは次々に自己紹介をしていきます。名前の先には、特徴的な二つ名――自称ではなく宇宙軍に認められた通称がついていました。


「そしてぇ私は”那由多溢れる白メノウ”――メノウよぉ。第四艦隊が誇る水雷戦隊、”白銀の九連星ナインシスターズ”の長姉旗艦なのぉ!」


 最後に、8隻の駆逐艦を従えた巡洋艦メノウが、艶やかな二つ名と、部隊の通称を口にするのです。


二つ名ネームド――まだ若いのに――」


 デューク達が見るところ、巡洋艦1隻と駆逐艦8隻は、まだ年若い――産まれてから10年くらいしか経っていないかと思われる肌をしています。なのに、彼女たちは二つ名――相当の武勲艦ではなければ送られることのない――を持っているのです。


「それに、部隊に通称があるって言うのは、その部隊が集団として相当の武勲と実力を持っていることを示すって、聞いたことがあるわ」


「白銀の九連星ってなんだかすごそう~~!」


「実際、手ひどくやられたよね――ニンゲン達の襲撃で、似たような動きを見たことがあるけれど……全部が全部こんなじゃなかったものなぁ」


 デュークは龍骨に残った戦闘ログを確かめて、ため息を吐きました。


 9隻が一つに合わさり、単艦と見せかけての襲撃――索敵範囲ギリギリを見切っての分散合撃――強大な乱数加速による進出――完全に一致した同時弾着――思い返せば、凄まじいものでした。


「すごい速度とタイミング~~同型艦の同時襲撃って、凄い~~全然対応ができなかったよ~~」


「油断していたなんて言い訳できないわね……さすがはアームドの年長者ね」


「それも全部あの巡洋艦の指揮統制があってこそか……」


 デュークを始め、龍骨の民としては相当に大きな三隻です。でも、自分たちよりも小さなフネ達が、鮮やかな手管を用いたことに感銘を受けました。


 だから彼らは、丁寧な姿勢制御で艦首を下げ――


「どうぞよろしくお願いします」


 ――と、9隻に対して最敬礼を示します。それは共生宇宙軍の敬礼の中でも最上のものでした。


「あらあら、殊勝な子達ねぇ~~」


 年若い同族のそんな姿を眺めた巡洋艦は、満足気に笑いました。そして周囲の駆逐艦たち――


「良い心がけですことよ、オ――ホッホッホッホ!」

「ふむぅ、龍骨は真っ直ぐなのだな」

「そうだ――素直な心が、一番、大事! オビーディエント素直!」

「おぅおぅおぅ! 礼儀をわかってるじゃねぇか!」

「ほぉ……お前たちをA級の龍骨の民だと認定してやろう」

「メンタルが健全なのです!」

「よろしい、ならば共に戦争をしようじゃないか!」

「かわいい……はっ……異論は認めない――!」


 ――ミラージュ、リップル、タイド、ドーン、サンライズ、ライトニング、サンダー、エコーら8隻は、それぞれのテンションでデューク達の態度を快く受け入れるのでした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る