第145話 一つキノコの話をしようじゃないか

 本日のデュークたちは、白銀の九連星に連れられて、星系外縁部で哨戒行動を取っています。通常空間を這い渡り、新たな苗床を得ようとする胞子型生物――通称キノコを狩るためでした。


「パトロール……あのキルゾーンを超えてキノコたちは入ってこれるのだろうか?」


 デュークは、演習で味わったキルゾーンを思い出して艦首をひねりました。


 特殊な装甲を持つデュークを盾に、全力で突っ切るという荒業を用いて、デュークたちは無傷で星系内に侵入することができましたが、それは設置されていたのが、訓練用の低出力兵器であったからのなのです。


「本物の核機雷や機動レーザーに焼かれたら、突破できるとは思えないけれどなぁ」


 龍骨の中で演算したデータを味わいながら、デュークは「やはり無理だよなぁ」といぶかるのでした。


 そんなデュークに、巡洋艦メノウが甘ったるい口調で、このように教えます。


「キノコどもはぁ、数が多いのよぉ。少なくとも100以上の集団で恒星間を渡ってくるからぁ、キルゾーンで処理しきれないのも出てくるわけぇ」


 彼女は、星系外縁部に点在するキルゾーンは絶対ということではなく、死角をついた形で潜り込んでくるキノコが年に数隻はいるというのです。


「そんな時ね、キルゾーンを担当するAIさん達から、星系赤色警戒警報レッド・アラートが送られてくるのよぉ」


「私には、”やっべ~~撃ち漏らしたー~~後はよろしこ~~!”って聞こえたんだけれども……」


 随伴するナワリンは、100時間ほど前に受け取ったメッセージを改めて、「これってそんなヤバい警告だったのね」などと思うのでした。


「そうよぉ、一隻でも星に取り憑かせたらぁ。あっという間に大繁殖してぇ、星ごと焼くしか方法がなくなるのよぉ――そのように、レクチャーを受けたでしょう?」


「とりつかれたら、僕ら龍骨の民でも大変なことになるって聞きました」


「だから遠距離から焼却するのよね。熱核兵器かレーザー、粒子砲で」


「狙い撃つぜ~~!」


 デュークらは、第四艦隊配属前に受けたレクチャーを確認しました。ペトラは背中の砲塔をグルングルンと回してどこか知れぬ虚空を狙いました。


「撃つときは徹底的にやっちゃってねぇ。内部まで完全に消し炭にするくらいにね。失敗して、もし憑依されたらぁ、キノコごと焼き払うからねぇ。沈む死ぬかも知れないけれど、その方が幸せだわぁ」


「えっ同族撃ち……」


 龍骨の民にとって、友軍射撃Frendryfireというものは、本能的にしづらいものでした。でも、メノウはこう言います。


「龍骨を侵されて知性をなくしてぇ、キノコの苗床になりたい?」


 彼女が言うには、これまで何隻もの龍骨の民が憑依され――龍骨を侵され苗床になったと言うのです。それはキノコに使役されるただの養分になるということでした。


「大丈夫よぉ、そうなる前におねーさんが介錯してあげるからぁ」


「うぐぐ、さすがは第一種指定危険生物……厄介だわぁ」


 メノウはさも当然という口ぶりで、そういうのでした。


「でも、昔は単なる胞子型知性体――連合と交易とかもしていた種族なんでしょう? 比較的温和だったと聞いているのに、なんでそんな化け物になってしまったのだろう……?」


「私は、宇宙放射線の異常が原因だって聞いたけれど」


「想像するだけで龍骨がムズムズするよぉ~~考えるの禁止菌糸~~!」


 デュークたちは「なんだかとても嫌なことがキノコ達の歴史にはあったんだろうなぁ」などと、目を見合わせました。


「確かに何があったのかしらねぇ。それに同情できなくもないけれどぉ…………おっと、みんなおしゃべりはおしまいよぉ!」


 何かを感じ取ったメノウが、会話をやめるように告げました。


 その言葉にデュークたちは、ハッと龍骨を伸ばします。彼らの龍骨は、大きなフネのようなものが、遥か彼方から飛来するのを感じ取っていたのです。

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